高知県土佐の國で唯一の「遍路ころがし」は27番札所神峯寺への登り坂で「真っ縦(まったて)」と呼ばれています。汗だくになりながら登りきったあとには、霊水で有名な「神峯の水」でのどを潤しました。
海岸からいきなり「真っ縦」のスタート
室戸市をあとにし、高知の南海岸の歩行がスタートしました。
私は「道の駅 田野駅屋(たのえきーや)」で地元産品を買い込み、国道55号海岸沿いの唐浜のバス停(東谷入口)で野宿をしてから、早朝に27番札所「神峯寺(こうのみねじ)」に向かいました。
このお寺は海岸から急な崖のように切り立った「神峯山(こうのみねさん)」の頂上付近にあり、登山道は、距離にして3km強で標高430mまで一気に登る、しかもほぼ一直線の急勾配坂道であるため「真っ縦(まったて)」と呼ばれる難所なのです。
遍路道で急勾配の難所は「遍路ころがし」と呼ばれていますが、この真っ縦が1番札所をスタートしてから四番目の「遍路ころがし」にあたり、海岸沿いの平地にあるお寺がほとんどの高知県土佐の國では唯一の「遍路ころがし」なのです。
そして、各県にある「関所寺」の高知の関所にもなっていて、この寺を乗り越えることが、土佐の國「修行の道場」の第一関門でもあります。
※「遍路ころがし」に関しては、以下記事もぜひご覧ください。
【12番札所焼山寺への遍路ころがし】お大師さまのお出迎えが感動的な「浄蓮庵」からの下り登りが勝負
【20番札所鶴林寺への遍路ころがし】二番目の「遍路ころがし」裏道編
【21番札所太龍寺への遍路ころがし】三番目の「遍路ころがし」は川の風景が美しい良道…が…お寺直前で試練
※「関所寺」に関しては以下記事もぜひご覧ください。
【19番札所立江寺】「黒髪お京肉付鐘の緒伝説」が残る阿波の関所
室戸岬の海岸長距離歩行でかなりダメージを受けている足にはかなりハードでしたが、道自体はよく整備していただいていて歩きやすいので、一歩一歩進んでいけば危険はありません。
この「真っ縦」ですが、この地出身の幕末の英雄で三菱財閥の創始者「岩崎弥太郎」のお母さんが、息子の開運祈願のために、20km離れた自宅から21日間日参したという逸話があり、昔から難所でもあるからこその、地元の人の信仰の対象だったことがうかがえます。
ちなみにお寺で納経後は同じ道を打ち戻りで下ってくるのですが、私の足は室戸岬で蓄積したダメージがこの下りでとどめをさされたらしく、歩き始めて11日目にして初めて足をひきずらないと歩けなくなってしまいました。
あとからの自己診断では「シンスプリント」という症状だと思うのですが、この症状に悩まされる通し歩き遍路さんは多いようです。
※「シンスプリント」に関しては以下記事もぜひご覧ください。
【シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)】歩き遍路を苦しめる脛の痛みの原因は?
徳島の「遍路ころがし」を大きなけがやトラブルなくクリアできたうれしさから、高知に入ってかなり無理をして、油断もあったことが原因だと思います。
皆さまが同じ轍を踏まないように切に願います。
スポンサーリンク
霊水「神峯の水」でのどを潤す
「真っ縦」を登りきると、入母屋造の重厚な「仁王門」が迎えてくれます。
この仁王門まで駐車場から少し距離があり、門をくぐったあとも境内を少し歩きますが、車遍路さんはこの道だけでも息を切らしている人がいました。
納経所のあるお寺の中心までたどり着いても、「本堂」と「大師堂」はまだ石段を上がった先ですので、石段を上がる前の右側に注目してください。
石段右側、鐘楼の裏側の岩肌を水がつたっていて、これが霊水として名高い「神峯の水」なのです。
病気平癒に霊験あらたかであるという伝えがあり、北海道在住の女性が病の床についた際に、危篤状態の時に夢に弘法大師が現れ、大師は女性に鐘楼の後ろから湧く水を飲ませてくれて、目覚めた後に女性は一命をとりとめ、その後、夢に見た場所が「神峯寺」だったとわかったというエピソードもあるそうです。
私は1月のかなり気温の低い環境にも関わらず「真っ縦」で汗だくになっていたので、ごくごくのどを潤させていただきました。
なかなかまろやかで、気温が低い中温かくも感じる水温で、やさしいお水でした。
逆に気温が上がっている季節には、かなり冷たく感じる水なんだと思います。
あたたかい「お接待」と「通夜堂」
「神峯寺」の歴史の古さは札所の中でも屈指で、西暦200年頃に神功皇后の勅命で天照大神などを祀った神社が起源とのことで、その後聖武天皇の勅命で行基菩薩が御本尊「十一面観世音菩薩」を彫像して、神仏合祀により起こったお寺だそうです。
ただしその後は、明治初期の新政府の神仏分離令により、天照大神などを祀る神峯神社だけが残り、本尊は26番「金剛頂寺」に預けて一時廃寺の悲運に遭い、明治中期に、もと僧坊の跡に堂舎を建立して本尊を帰還させ、霊場として復活し、茨城県稲敷郡朝日村の「地蔵院」から寺格を移して認可を得るなど、苦難の道を歩んでいるとのこと。
このような歴史が関係してかしないかはわかりませんが、お寺の皆さんがとてもあたたかく迎えてくださいました。
「真っ縦」で疲れ切っている私を見かねてか、お接待をくださったり、「通夜堂」として宿泊も可能な建物で休憩させてくださったり、たいへんありがたかったです。
他の難所寺も共通しているように感じましたが、歩いて登るのが困難な分、お寺の方々はやさしく迎えてくれるような感じがしますし、宿泊に困ることも想定してか、通夜堂を用意してくださっていることが多いと思います。
かなりのダメージを負いながら、霊水やお寺の方のあたたかいもてなしに励まされ、なんとか「遍路ころがし」「土佐の関所」を通過することができました。
次の28番札所「大日寺」までは40kmほどの長距離歩行が待っています。
試練の「修行の道場」はまだまだ先は見えません。
スポンサーリンク
【27番札所】 | 竹林山 地蔵院 神峯寺(ちくりんざん じぞういん こうのみねじ) |
宗派: | 真言宗豊山派 |
本尊: | 十一面観世音菩薩 |
真言: | おん まか きゃろにきゃ そわか |
開基: | 行基菩薩 |
住所: | 高知県安芸郡安田町唐浜2594 |
電話: | 0887-38-5495 |