足摺岬から西海岸を進む「月山神社・大月海岸ルート」は、地元の有志によって2004年に復元された「大月へんろみち」を通るために選びました。「大月へんろみち」は小学生の応援を受けて歩く、起伏に富んだすばらしい遍路道でした。
叶崎海岸を見ずして土佐の風景を見たとはいえない
足摺岬から39番札所延光寺までの複数のルートから西海岸を進む「月山神社・大月海岸ルート」を選択した私は、土佐清水市街を通過し、「道の駅 めじかの里土佐清水」で宗田だしカツカレーの昼食をとり、お大師さまが見残したといわれる奇石の景勝地「竜串・見残し海岸」に立ち寄って、海岸沿いを進んできました。
このあたりの海岸線は、海からすぐに切り立った断崖絶壁で、海を眺めながら、山道や峠道を越えていきます。
国道321号が整備されているので、歩くのにはそれほど苦労しないのですが、「片粕トンネル」の出口で撮った写真を見てみてください。
こんな過酷な気象条件に負けてはいられず、いくつかのトンネルをくぐっていくと、明治44年建設の灯台の名残があり、俳人川東碧梧桐に「叶崎海岸を見ずして土佐の風景を見たとはいえない」といわしめた、海蝕洞窟や岩礁、打ち寄せる黒潮が美しい「叶崎(かなえざき)」があります。
叶崎の展望台には、立派な東屋とトイレ、水道もあって、野宿も可能にしてくださっています。
私は確認できていませんが、小高い山の上にはお堂もあってその中にも宿泊可能とのことで、高所恐怖症や猫嫌いの方にはオススメしませんが、野宿遍路さんは参考にしてください。
小学生が応援してくれる「大月へんろみち」
叶崎から海沿いの国道を4kmほど進むと、港町「大浦」の集落に到着し、ここで国道に別れを告げ、2004年に地元の有志の方々により復元された「大月へんろみち」に入っていきます。
足摺岬までの道のりで何度かお会いした先達さんが「大月へんろみちを歩くために西海岸ルートを選ぶ」とおっしゃっており、私もこのアドバイスに影響されてこのルートを選択したので、期待感が高まります。
墓地を抜けてしばらくすると未舗装路がスタートします。地元の方々のご尽力だと思うのですが、整備がいきとどいていて、自然や昔の雰囲気は十分にありながらも、とても歩きやすい遍路道です。
遍路旅を振り返って、私はここの旧道未舗装路が一番気持ちよかったように思います。
この道のすばらしいところは整備状況や歩きやすさだけではなく、地元の小学生がお遍路さんを応援する看板を遍路道に設置してくれているところです。
おすすめしてくれた先達さんが「小学生が応援してくれる遍路道なんだ」とおっしゃっていた意味が、ここで初めてわかりました。
道すがら、一定間隔でかなりの数の看板が設置されています。
写真は撮りきれませんでしたが、ひとつひとつ読みながら進んでいると、笑いがこぼれるものあり、ツッコミどころ満載なものあり、しみじみするものあり、励まされるものあり、これは感動的な演出だと思いました。
小学生もお遍路文化を理解するよいきっかけになっていると思いますし、ゆくゆくはぜひ自分でお遍路を経験してみてもらいたいとも思います。
お大師さま月待ち修行の番外霊場「月山神社」
小学生が応援してくれる気持ちのよい旧道を2kmほど進むと、お遍路さんの立ち寄りスポットとして有名な「月山神社(つきやまじんじゃ)」があります。
この神社は、役小角(えんのおづぬ)が三日月形の月影の霊石を発見し、この霊石をご神体として月夜見命・倉稲魂命を祀ったのがはじまりといわれています。
その後、お大師さまもこの地で23日間の月待ちの修行をされたそうで、多くのお遍路さんが土佐「修行の道場」集大成として立ち寄る番外霊場にもなっています。
「月山神社」住所:高知県幡多郡大月町才角1444番
峠道を進み、急坂を下って浜にでる正念場
月山神社から更に未舗装路を進んでいくと断崖絶壁の峠道になってきます。ここもよく整備はしていただいているのですが、アップダウンや川沿いの崖などがあり、かなりハードな道のりです。
私は日没が近い夕方に歩いていたので、「ここで暗くなったら遭難する」と危機感を覚えたほどのワイルドな環境でした。さらに携帯電話の電波が入らないことがこの焦りを増幅します。
とても気持ちよい感動的な「大月へんろみち」は危険も感じるほど自然が残されている道でもありました。
そしてへんろ道のクライマックスかつ正念場が、最後の崖の急坂下りです。
ここまでの道のりでいくつもの山や峠の下り坂を制覇してきたはずなのに、この遍路道の下り坂は日没の恐怖もあいまって、ものすごい難関に感じました。
しかも、なんとか下りきってたどり着いた先が、岩がごろごろして、草がぼうぼうの浜らしき場所だったのです。
数軒民家があるにも地域にも関わらず、この時点でも携帯電話は圏外のまま。
今の時代、人が住んでいるのに携帯がつながらない場所があることにかなり驚きました。
舗装路登り坂を3kmほど進むと、やっとのことで国道321号に合流する「姫ノ井(ひめのい)」の集落に到着です。
この日は大月の「ホテルベルリーフ大月」に宿泊予約を入れており、ここ「姫ノ井郵便局」まで車で迎えにきていただけるとのことだったので、最終目的地に到着して、ようやく安堵しました。
※「ホテルベルリーフ大月」に関しては、以下記事もぜひご覧ください。
【ホテルベルリーフ大月】バルコニーからオーシャンビューのロッジ風リゾートホテルに格安で泊まる
大浦から入り、地図で確認すると9kmほどの「大月へんろみち」の道のりは、それほど長い道には見えないのですが、私は歩ききるのに4時間ほどかかっています。体感距離が実際よりもこれほど長く感じたのは、遍路道の中でここが一番でした。
この日の朝、「ジョン万次郎」生誕の地「中浜」を出発してから40kmほどなのですが、もっともっと長い距離を歩いた感覚で、朝のことがはるか昔の出来事のようにも感じてしまいました。
このように、いろいろなことがあり、ひとつのアトラクションのような「大月へんろみち」は、私にとっては遍路道の中でも屈指の思い出深いものになりました。
ぜひ一度はこの道を歩いてみることをオススメしますが、ハードでエキサイティングな道でもあるので、くれぐれも時間と気持ちに余裕をもって、ゆっくりと歩まれてください。