徳島県神山町の番外霊場「吉祥院」は、空海がこの地にあった湖の干拓を指揮した伝承を残す弘法大師空海開基のお寺で、戦乱による焼失後、永らく伝説となっていた寺を平成14年に再建したものです。
平成14年に再建された番外霊場「吉祥院」
徳島県神山町の主要道路の県道438号線沿いにある番外霊場「吉祥院(きっしょういん)」は、長らく伝説となっていた弘法大師空海開基のお寺を再建した新しい霊場です。
縁起によると、空海が巡錫でこの地を訪れた当初、周辺にある大きな湖の影響で、村民は山と湖の間の狭く痩せた土地での生活に苦労していたとのこと。これらの村民をあわれに思った空海が湖の干拓事業を発意し、自らも鍬を振って村民と共に干拓をおこなったそうです。その際、吉良山(現在では「滝津」と呼ばれているあたり)に庵を結んだ空海が、村人の無事安穏を祈って般若心経を書き写し、般若菩薩を本尊として庵に安置したことが、吉祥院の始まりと伝わります。
その後、吉良山の庵は時代の変遷とともに自然に廃絶しましたが、時代は下り、天永2年(1111年)に阿波国出身の僧侶「阿波上人」が白河法皇の第5皇子を迎えて庵を再興します。その後も承久の乱で阿波国に流された土御門天皇の勅願寺になるなどの隆盛をみせましたが、1577年に土佐の長宗我部元親による阿波侵略の戦火にあい再び焼失。永らく伝説上のお寺になっていたものを平成14年に再建したのが現在の吉祥院なのだそうです。
吉祥院ホームページ: http://kisshoin.org/index.htm
再建なので全てが新しい吉祥院
訪れた吉祥院は、広い駐車場とプレハブの本堂がある、全く新しいお寺という印象です。平成14年の再建とかなり新しい上に、本堂はまだ仮の姿のままとホームページにありました。現在のお寺がある場所は空海が庵を結んだ場所そのものではないようですが、伝承が引き継がれているということで、空海ゆかりの番外霊場になっています。
吉祥院では空海が最初に祀った「般若菩薩」を本尊とし、鍬を持って干拓事業にあたった姿を模した「鍬持大師」をお祀りしています。本堂入り口の護摩堂では、安芸の宮島で空海が灯した霊火(求聞持法を修法したときの護摩の火)の分火も拝覧できるそうです(住職が不在のときは拝覧不可)。
本堂前には由緒書きが置かれていたので一枚いただいてきました。住職が不在が多いとのことで納経もセルフサービスになっているようです(納経料300円)。
平成の時代に入ってから再建された新しい番外霊場「吉祥院」。新しい寺院としての歴史はこれからのようですが、このお寺を訪問したことで、神山町のこのエリアに湖があったことなど、町の歴史を知ることができました。土木事業者としての空海の伝説を残すお寺として、今後の姿に期待したいと思います。
【「吉祥院」 地図】