歩き遍路の最初にして最大の難所といわれるのが、11番札所藤井寺から12番札所焼山寺への「遍路ころがし」です。藤井寺の山道入口から、8kmほど進んだ「浄蓮庵」でお大師さまに元気をもらってからの下り登りが勝負です。
「遍路ころがし」の中でも最初にして最大の難所
「遍路ころがし」という言葉は、歩き遍路を始めると必ず耳にするフレーズです。
遍路ころがしとは、遍路をころげ落とすような道の意味で山寺への難所のことをいい、以下の複数の区間がそのように呼ばれています。
●11番札所「藤井寺」から12番札所「焼山寺」への山越え路
●20番札所「鶴林寺」への登山路
●21番札所「太龍寺」への登山路
●27番札所「神峯寺」への急坂 ※「真縦(まったて)」とも呼ばれる
●60番札所「横峰寺」への登山路
●66番札所「雲辺寺」への登山路
●81番札所「白峯寺」への登山路
その中でも、焼山寺への道のりは、全長約13kmで山を2つ越えるための登り下りがあり、「健脚5時間、平均6時間、遅足8時間」かかるともいわれる最初にして最大の難所です。
11番札所「藤井寺」が山道の入口にあたり、お大師さまの励ましを受けながら、登山をスタートしていきます。
最後まで残った空海の道
この焼山寺への遍路ころがしは、1200年ほど前の空海が歩いていた頃の自然がそのまま残っている唯一の道といわれており、地元での保存・管理は行き届いています。
それもあってか、長距離の登り下りが険しい道ではありますが、安全に歩行できるように足場は整備されているので、想像していたよりも歩きやすく、良いペースで進んでいくことができました。
「長戸庵」まで標高400mを一気に登る
登山をスタートしてから、最初のチェックポイントである「長戸庵」まで、約3kmの距離で標高400mを一気に登る急坂です。
長戸庵までの間に、数少ない水場である「水大師」や、山からの景色を楽しめるビュースポットがありますので、最初は無理せず、それぞれのポイントで荷物を降ろして、休みながら進むのが良いと思います。
「柳水庵」の休憩所は宿泊も可能なありがたい施設
長戸庵から更に約3kmで一山越えて、急な坂を下ったところに、二つ目のチェックポイント「柳水庵」があります。
柳水庵に到着したら、通過して下る方向を見ると、プレハブの小屋が見えます。ここがたいへんありがたい休憩所になっており、靴を脱いで、足を伸ばして、休憩させていただきました。
地元の方が電気や寝具も用意してくださっていて宿泊も可能ですが、ここに夕方に到着するスケジュールは組みにくいですし、夜の山中になるので、もし宿泊するようであれば、食料や飲水は十分に持参する必要がありますね。
お大師さまと感動のご対面で元気をもらう「浄蓮庵」
柳水庵で休憩してからは、約2kmで250mを登る2つ目の山に挑みます。ここは、立ち止まりたくなる衝動を抑えながら、黙々と登っていくしかありません。座れるような休憩所もないので、ここは修行・我慢だと思って、一歩一歩前に進みました。
そして、ひたすら登っていくと、突如石階段が現われ、そこを見上げると…杉の木に抱かれたお大師さまがいらっしゃるではありませんか。
坂の下から見上げるお大師さまとの対面は、歩き遍路さんにはとても有名だそうです。私は何の前知識もなく突然のご対面だったので、余計に驚きと感動があったように思います。ここで紹介しておきながらですが、初めて歩くお遍路さんは、何も知らずに登っていく方がオススメですね。
ここが、焼山寺への遍路ころがしの標高最高地点745mの「浄蓮庵」です。実は標高700mの焼山寺よりも高い位置にあり、空海が焼山寺に向かう途中、ここで木の根を枕に仮眠し、夢の中に阿弥陀如来が出現したので、尊像を刻み安置したことに由来すると伝えられています。
その際にお手植えされたとされるのがお大師さま像の後ろにそびえる巨古木で「左右内(そうち)の一本杉」と呼ばれていて、それにちなんで庵も「一本杉庵」の通称があります。
当然ですが、庵や杉が昔から存在し、お大師さま像が安置されたのはのちの世になってから。大正15年に安置されたとのことですが、この位置に像を安置した方は、歩き遍路さんに感動を与え続ける素晴らしい功績だと思います。
一番きついのは「浄蓮庵」からの下りと再度の登り
お大師さまとの感動のご対面で元気をもらえるのですが、一番きついのはここからの下りと焼山寺までの再度の登りです。せっかく標高745mの浄蓮庵まで登りきったのに、約1.5kmの距離で標高300mを一気に下ることになるのです。
登山経験者には当たり前の話なのですが、体への負担は登りよりも下りの方が大きくなりますし、転倒などの危険も下りの方が圧倒的に多くなります。
浄蓮庵を出発してほどなくして、集落のある舗装路に一度出ますが、以下写真のような滑りやすい側溝の上を歩くなど、危険な場所がありますので、十分注意して進みたいところです。
そして、焼山寺まで再度の登りになります。この登り道は、途中に残り距離表示が何もなくて、どこまで登ればたどり着くのか、心が折れそうになりました。
なんとか進んでいくと、「お疲れさまです」の看板に迎えられて焼山寺に到着です。
最初にして最大の難所といわれるだけあって、かなりの試練の道ではありましたが、自然や見どころが満載の初の遍路ころがしでした。あとから思い起こせば、「焼山寺への道ががんばれたんだから、この道も越えられるはず」と自分に言い聞かせて苦しい道を乗り切ることができたとも思います。
登りきった達成感に浸りたいところなのですが、本当の試練は「下り道」にあります。このあとの遍路旅路で、何回も下りのつらさを経験しましたので、別の記事にてご紹介していこうと思います。