愛媛県今治市は、四国八十八ヶ所霊場のうちの6ヶ寺がある札所密集地。自転車の聖地「しまなみ海道」の四国側の玄関口であるこの街で、1日のポタリング遍路に挑戦します。まずは出発地の今治港から55番札所南光坊まで。
自転車で行く今治6ヶ寺巡り
愛媛県今治市は54番札所延命寺から59番札所国分寺までの6つのお寺が集まる札所密集地で、全て参拝しても20km程度の距離の範囲です。今回は、自転車の聖地である今治にちなみ、折りたたみ自転車を使って1日で6つの札所をめぐる「今治6ヶ寺めぐり」を企画しました。
1日完結型のお遍路なので、出発後は元の場所に戻る必要があります。したがって、スタート&ゴールの場所は全行程のバランスと交通の利便性を考え、今治駅(今治港)近郊のホテル駐車場に決定。巡る順序としては、スタート地点から一番近い55番札所南光坊を最初に訪れる札所として、札所番号順だと一つ戻る形で54番札所延命寺、そこから56→57→58→59と変則的な札所めぐりを計画しました。札所番号順に進みたい人は54番札所延命寺まで自転車で進み、そこから戻ってくるのもアリです。私はルートが重複するのを避けて、変則的なコースを選びました。
今治自転車6ヶ寺巡りの全長は約27km。自転車でゆっくり進んでも3時間程度の距離ですが、散歩のように寄り道しながら進む「ポタリング」スタイルなので、たっぷり1日かけて実施します。出発時間もゆるゆると朝の9時。まずは今治港と商店街を散策していきます。
今治港と商店街の散策からスタート
晴れてはいるもののかなり肌寒い2月の朝、港で働く人々を横目に自転車を走らせていきます。港からはしまなみ海道が見えるので、公園らしき場所に自転車を停めてしばし写真撮影。今治市の中心市街地は港と駅と商店街が1km圏内に集積するコンパクトな街のため、港からそのまま商店街へと移動します。造船業で栄えた街のためか、工員需要と思われる銭湯や鍼灸院が多い印象を受けました。
あわびや餅屋でバター餅を購入
今治市街地には餅屋や甘物屋(有名どころだと鶏卵饅頭や母恵夢本店)が数軒あるので、食べ歩きが好きな人は軽食・スイーツ巡りも可能です。私は事前調査で気になっていた「あわびや餅店」に立ち寄り、バター餅を購入。私の自転車とヘルメットを見たお店の人から「しまなみ海道を走るのかい?」と聞かれたので、今治6ヶ寺巡りのことを伝えました。自転車のお客さんに慣れている雰囲気です。いい天気で良かったですねなどと話しながら、最初の55番札所南光坊に向けて出発。港と商店街周辺の散策が長引いて、すでに10時近くになっていました。
【「あわびや餅店」 地図】
いざ、最初の「55番札所南光坊」へ
旅のナビゲート役は、地図帳から切り取った一枚地図とスマホ、そして街角にある「遍路道しるべ」です。自転車にスマホを備え付けてナビがわりにすることもできますが、今治のポタリングガイドさんから「道しるべを頼りに、迷いながら進むのも楽しい」と教わったので、道に迷ったときのみスマホ&地図を確認するスタイルで進みます。
商店街を過ぎ、住宅地を走ると別宮大山祇神社(べっくおおやまづみじんじゃ)の鳥居が見えてきました。大三島にある伊予国一宮「大山祇神社」の「別宮」ということで、こじんまりした神社を勝手に想像していましたが、なんのなんの、ここが一宮と言われても納得する立派な佇まいです。
別宮大山祇神社の隣に55番札所南光坊がありますが、神様も仏様も一体のもの(本地垂迹説)と考えられていた江戸時代までは、神社と寺が一体化した霊場が普通でした。当時は別宮大山祇神社が四国八十八ヶ所霊場の札所で、南光坊は神社を管理する「別当寺」という立場。明治維新時の神仏分離令以後に札所が南光坊に移されましたが、両寺社の縁は深く、今でもお寺と神社の「両参り」が習わしとなっています。わたしもそれに慣って先に別宮大山祇神社に参拝することにしました。
別宮大山祇神社
別宮大山祇神社の巨大な鳥居をくぐると、檜皮葺の屋根を持つ本殿が最初に目に入ります。重厚な印象を与えるこの本殿は戦国時代に再建されたもので、愛媛県の有形文化財に指定されているそうです。本殿横には摂社「清高稲荷神社」があり、こちらは色彩・彫刻共に目にとても鮮やか。端正な佇まいの本殿と軽妙で華々しい稲荷社は好対照で、それぞれの違いを楽しむことができました。
ちなみに別宮大山祇神社は、和銅5年(703年)に現今治市の大三島に鎮座する大山祇神社から「別宮」として勧請され、713年に社殿が造営された古い歴史がある神社。弘法大師空海はもとより、一遍上人も参拝したと伝わる名高い霊場です。
【「別宮大山祇神社」 地図】
55番札所南光坊を参拝
続いて55番札所南光坊に向かいます。四国八十八ヶ所霊場で寺名に「坊」がつくのはここだけで、元々は大山祇神社の法楽所として建てられた24坊の一つだったことに由来します。正治年間(1199年〜1201年)に南光坊を含む8坊が別宮大山祇神社の塔頭として大三島からこの地に移され、戦乱の焼失と再建を経て南光坊だけがこの地に残ったそうです。
南光坊で興味深いのは山門の四天王の姿です。四天王が山門を守ることも珍しいのですが、それぞれの表情がとても人間的で心惹かれるものがありました。その後、南光坊さんのInstagramで偶然知りましたが、これらの仏像は松山在住の仏師が製作したもので、平成の時代に入ってから作られた比較的新しいもののようです。それにしても、なかなか見ごたえのある四天王の姿でした。
山門をくぐると目の前に見えるのは、「大通智勝如来(だいつうちしょうにょらい)」を祀る本堂。入って右手側に大師堂があります。
大師堂には精巧な寺社彫刻が施されていたので、ここでもお堂をぐるりと一周して彫刻を拝見します。別宮大山祇神社の本殿と稲荷社、南光坊山門の四天王、大師堂の社殿彫刻と、さながらアート見学のような参拝となりました。
【「55番札所南光坊」 地図】
今治市中心市街地からスタートした自転車での今治6ヶ寺めぐりは、港や商店街など最初から寄り道の連続になりました。最初にお参りした別宮大山祇神社と南光坊も、神仏習合時代の名残が見られる爽やかな場所なので、今治観光の際にはぜひ立ち寄られることをお勧めいたします。
※自転車での今治6ヶ寺めぐりの様子は以下リンクの記事に続きます。
【今治6ヶ寺めぐり-ポタリング編その2】55番南光坊から54番延命寺へ