【70番札所本山寺】鎌倉様式の国宝の本堂と重厚な仁王門と伸びやかな五重塔の対比

70番札所本山寺の本堂は鎌倉様式を現代に伝える歴史ある建築物で国宝に指定されています。境内入口の重厚な仁王門と、お寺のシンボルでもある伸びやかな五重塔の建築物的視点の対比も本山寺の見どころのひとつです。

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鎌倉様式の趣をのこす国宝の本堂

70番札所本山寺は大同2年(807年)に平城天皇の命で弘法大師空海によって創建されたと伝わっています。高野山真言宗の準別格本山で、中世までは24の塔頭をもつ四国の有力寺院として栄えました。現在も、仁王門から入る広い境内には正面に本堂、両側に大師堂と五重塔が建つ、風格ある霊場です。

本堂は鎌倉時代の正安2年(1300年) に再建されたもので、香川県内の建築物で2件のみの国宝に指定されています。
※もう1件の神谷神社の本殿に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。

【神谷神社】香川県内で現存最古の建築物とされる檜皮葺の本堂は国宝

四方5間、軒一重、 寄棟造、向拝3間、 本瓦葺きの典型的な中世密教建築で、和様を基調に一部に大仏様や禅宗様がみられます。外観は京都風で、内部は奈良風です。 天保13〜14年 (1842〜1843年) の修理で江戸時代風の外観に改変されましたが、昭和27〜30年(1952〜1955年) の修理で鎌倉様式に復元されています。
※寺院建築の屋根の種類や特徴に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方④】屋根の種類とその形状からわかること

本山寺_本堂

度重なる修理・改修を経て、約1300年前の趣を現代に伝える、70番札所本山寺の国宝指定の本堂。

歴史ある建築物の修理はおおよそ100年に一度は行われています。この本山寺の本堂も、江戸末期と昭和期の2度の修理があったことは記録でわかっていますが、建立されてからは約700年もの時間が経っていますので、室町時代、安土桃山時代、江戸時代など数回の修理を経ていると想定されます。瓦や建具などは交換されているでしょうが、躯体となるほとんどの材料は約700年前のものです。傷んだ箇所を取り除き、新しい木材で継ぎ当てています。

かつては多数の伽藍が本堂を囲むように建っていたと伝わっていますが、戦国時代に長曾我部元親の讃岐攻めにより、本堂と仁王門、五重塔を残して焼失しました。
馬頭観音が本尊というのは四国八十八ヶ所霊場の札所では唯一で、しかも弘法大師空海お手彫りとの伝承がのこる貴重な仏像です。

 

重厚な仁王門と軽く伸びやかな五重塔の対比

仁王門は国指定重要文化財です。8本の柱で支える重厚な仁王門、という表現がお遍路のガイドブックなどには多く出てきますが、実のところ重厚なイメージを与えてくれるのは8本の柱というより、切妻屋根のシンプルなスタイルからきていると思います。正面の屋根が広く見える切妻に本瓦葺きの組み合わせによって重量感が強調されています。

仁王門をくぐって目に入ってくるのは、遠方からも本山寺の目印になっているシンボルである五重塔です。四国八十八ヶ所霊場の札所で五重塔が建っているのは、31番札所竹林寺75番札所善通寺86番札所志度寺とこの本山寺の4ヶ寺だけです。実は五重塔の本体は、相輪と呼ばれる先端の金具部分で、らせん状になっている部分から上です。五重塔は納骨をする場所という発想で、お骨をなるべく高い位置に納めるために塔になっていったといわれています。

仁王門と比較して、五重塔はすーっと伸びた軽やかな印象です。これは逓減率が少ないため、見るものにそういう印象を与えます。
※寺院建築の逓減率に関しては、以下リンクの51番札所石手寺の記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。

【51番札所石手寺】国宝の仁王門をはじめ多くの建築物が重要文化財

本山寺_五重塔

逓減率が低く、空にまっすぐ伸びるように建つ本山寺の五重塔。

本山寺の五重塔は、もともとは約1200年前の創建間もない大同4年(809年)に空海によって建立されたと伝わり、戦国の戦禍も免れましたが、明治時代の1910年になって建て替えられました。おそらく以前の五重塔は少しイメージが違い、逓減率が大きいどっしりした安定感あるタイプだったことでしょう。というのは809年の建立ですと平安時代の初期なので、そのころに建てられている五重塔はみな逓減率が大きいものだったからです。明治時代に再建された時にはすでに技術的にも向上していたため、このようなすーっと軽いイメージの塔を建造することが可能になっていました。再建から約100年後の平成時代に大規模な改修工事が行われました。

本山寺の五重塔は、寺院建築の中では比較的新しい建築物のため文化財の指定はありませんが、このエリアのランドマークになっています。五重塔を見ていると、古代の建築の強さと美しさに呆然としてしまいます。
現代はこれより何倍も高いハイテクビルやタワーがどんどん建ちますが、ほんの100年後には解体される運命でしょう。古くなったといわれる東京タワーでさえまだ60年です。鉄骨やコンクリート造りには利点もありますが、部分的な補修をするということが困難です。
私たちが木造の古い建築物に強さと美しさを感じるのは、人の手で修繕され、500年、700年、1000年という途方もない時間と世代を越えて人間の手で繋がってきたものだからかもしれません。バトンを引き継いだその時代の人たちの信仰心や祈りによって、飛鳥時代や平安時代の人たちが見た建物とほぼ同じものを1000年後の私たちも見られていることになります。時の権力者がお金を出したからだけではなく、大工さんや職人さんの努力だけでもなく、民衆の皆さんの執念があってこそだと思います。

 

70番札所本山寺のように、歴史ある建築物がのこる札所で、1000年前の人達と同じ光景を見ていることを想像してみると、その場所でタイムスリップしたような感覚になれると思いますので、ぜひ試してみていただきたいです。

 

【70番札所】  七宝山 持宝院 本山寺(しっぽうざん じほういん もとやまじ)
宗派: 高野山真言宗
本尊: 馬頭観世音菩薩
真言: おん あみりとう どはんば うん ぱった そわかおん あろりきゃ そわか
開基: 弘法大師
住所: 香川県三豊市豊中町本山甲1445
電話: 0875-62-2007

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。