【51番札所石手寺】国宝の仁王門をはじめ多くの建築物が重要文化財

51番札所石手寺は仁王門が国宝に指定されていることをはじめ、境内には多くの重要文化財を有し、寺院建築視点で見どころがたくさんあります。市街地・観光地に至近の立地もあって、お遍路さんだけでなく、観光客も多く訪れるお寺です。

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国宝の仁王門と寺院建築の門の形状

51番札所石手寺は728年に行基菩薩によって創建されたと伝わり、愛媛県松山市の市街地の東部に位置し、すぐ近くには四国を代表する観光地であり温泉地の「道後温泉」があります。
多くの文化財建築物を有するお寺で、まず始めの見どころは、境内入口の仁王門です。

石手寺_仁王門

国宝の仁王門は、軒下の彫刻や二体の迫力がある金剛力士像に注目してください。

石手寺の仁王門は鎌倉時代建立の二層入母屋(いりもや)造りで、3間の楼門、本瓦葺きです。 当初の門は天平5年(733年) に建立されたと伝わっていますが、 現在の門は文保2年(1318年) に伊予の豪族の河野通継(かわのみちつぐ)が再建したものだといわれています。
この時代としては珍しい純和様の楼門で、外観のつりあいがとれ、 蟇股(かえるまた)に美しい彫刻が施された、 鎌倉末期の楼門の傑作とされます。蟇股とは桁と梁の間で上部の荷重を支え、かえるが股をひろげた格好のような部材のことです。

四国八十八ヶ所霊場のほとんどの札所には門がありますが、いろいろなタイプが存在します。
仁王門とは両側に仁王が安置されていて、楼門というのは二層で上部に梵鐘を釣る形のものです。他の形式では、代表的なものに薬医門(やくいもん)や四脚門(しきゃくもん)があります。薬医門は主となる2本の柱に控え柱が2本という計4本柱です。四脚門は主となる2本の柱の前後に控え柱が4本で計6本の柱になります。実は仁王門も楼門も元は薬医門と四脚門の変形からはじまっています。

石手寺の仁王門の左右に安置されている約2.5mの大きな金剛力士像は、鎌倉時代の13世紀後半に彫られたもので、運慶一門の作と伝わっています。
仁王門から入って正面にある本堂は、国指定重要文化財です。入母屋造りの本瓦葺き、何度か大規模な修理が行われましたが、鎌倉時代末期の建築の特徴をよく残しています。
仁王門をはじめ、石手寺の文化財の建物の鬼瓦はいずれも鬼面が多く残っています。目線からは遠くてしっかり見えるものは少ないのですが、それぞれ鬼の顔は違いますので、目を凝らして見てみてください。

 

石手寺は重要文化財の宝庫

仁王門をくぐって右手に建つ国指定重要文化財の三重塔は、三間三重の塔で、高さは24.1mです。三重塔にしてはすっとしたスマートな印象です。

石手寺_三重塔_鐘楼

石手寺の三重塔と鐘楼はともに国の重要文化財に指定されています。

三重塔や五重塔といった塔建築では「逓減率」が印象を決める重要なポイントのひとつです。逓減率とは、上層に行くほど小さくなっていく率のことです。逓減率が高い、つまり初層に比べて上層がより小さければ安定感がありどっしりした印象になり、逆に逓減率が低ければスマートで軽い印象になります。
法隆寺の五重塔など時代が古いものは逓減率が高くなり、新しくなるほど逓減率が低くなる傾向があります。塔建築は四国八十八ヶ所霊場をはじめ各地で見られますが、並べてみて比べることはできません。しかしよく見ると実際より高く見えたり低く見えたり、ずいぶん印象が違って見えてきます。なかには逓減率が低いのに組物によってどっしり安定的に見えるものもあります。慣れてくると「あ、これは逓減率でこう見えるように調整してるんだな」みたいなことがわかるようになってきます。

三重塔の横にはこちらも国指定重要文化財の護摩堂があります。大きなお堂ではなく、方形(ほうぎょう)で銅板葺き、装飾も控えめですが、もとは桧皮葺(ひわだぶき)で、垂木が大疎垂木(おおまばらだるき)という珍しいものになっています。化粧垂木(けしょうたるき)の間隔が異様なほど広く、1本が大きくなっています。普通の寺院建築とはまったく印象が違っています。これは柱のラインに合わせて垂木を出しているだけで、実際には軒裏板を分厚くして支えています。
※寺院建築の軒裏の造りや装飾に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方③】美しさは軒裏に集約される

石手寺にはこのほかにも1333年建立の入母屋桧皮屋根の鐘楼、1251年の銘が刻まれた梵鐘、1190年に建立された石造五輪塔といった国指定重要文化財があり、文化財の宝庫ともいえるお寺なので、じっくりと拝観したいものです。

限られた時間の中でお遍路を回っていると、本堂と大師堂へ参拝して真言を上げたり般若心経を唱えたりすることがルーティン化して、御朱印をもらって早く次へ向かうことが目的になってしまいがちです。しかしお遍路の魅力はその場その場の仏さまや雰囲気をゆっくり味わうことにもあるのではないでしょうか。
石手寺の大師堂には愛媛にゆかりの深い夏目漱石や正岡子規の落書きが残っているそうです。漱石や子規のように心に余裕をもってこそ楽しい参拝ができるかもしれません。もちろん、現代では落書きはしてはいけませんのでここは真似はしないように。

 

【51番札所】  熊野山 虚空蔵院 石手寺(くまのざん こくうぞういん いしてじ)
宗派: 真言宗豊山派
本尊: 薬師如来
真言: おん ころころ せんだり まとうぎ そわか
開基: 行基菩薩
住所: 愛媛県松山市石手二丁目9番21号
電話: 089-977-0870

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。