【86番札所志度寺】江戸時代初期建立の本堂・仁王門と昭和時代建立の五重塔

86番札所志度寺の本堂と仁王門は、江戸時代初期に初代高松藩主・松平頼重の寄進で建立された歴史的価値の高いもので国の重要文化財に指定されています。昭和時代に建立された鮮やかな五重塔とあわせて、寺院建築をお楽しみください。

スポンサーリンク

 

江戸時代初期に初代高松藩主・松平頼重によって寄進された本堂と仁王門

86番札所志度寺は1400年ほど前の600年代に形ができはじめ、持統7年(693年)に藤原不比等の息子房前(ふささき)が行基菩薩と共に堂塔を創立、僧侶の学問所や信者の修行の場となったと伝わっています。

本堂は、江戸時代初期の寛文10年(1670年)建立、築350年を越える国指定重要文化財です。初代讃岐高松藩主・松平頼重の寄進です。松平頼重は水戸藩2代藩主徳川光国つまり水戸の黄門さまの兄です。正面7間、奥行5間、入母屋造、本瓦葺き、流れ唐破風向拝で、鬼瓦は日本の鬼面瓦の代表的で見本のようなお顔の立派なものです。
※寺院建築の屋根の種類や特徴に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方④】屋根の種類とその形状からわかること

本堂に安置されている十一面観音菩薩は平安時代作の像高147cm、脇侍の不動明王、毘沙門天とともに国指定重要文化財です。毎年7月16日に開帳されます。

志度寺_本堂

江戸時代の建築物の特徴を反映した堂々とした本堂です。

仁王門は、本堂と同様の年代と寄進で、こちらも国指定重要文化財です。三間一戸の八脚門で、両脇には鎌倉時代ナンバーワン仏師といわれる運慶の力作と伝わる仁王像と、巨大わらじが安置されています。
お寺の山門には大きなわらじが掛けてあることがありますが、これは「これほど大きなわらじを履く者がこの寺を守っている」というアピールで、邪悪なものや火種を寄せ付けないようにするためだそうです。また、こちらの仁王門は全国的にも珍しい三棟造りです。三棟造りとは棟とその両脇の母屋桁から棟下に向けて垂木を打ち流し、下から見ると山形がふたつ連なった姿に見える造り方です。平たく言うと大きな屋根の中に小さな屋根がふたつ隠れているようなものです。法隆寺・東大門や東大寺・転害門など作例は数えるほどの珍しいものです。

 

国宝の明王院塔を模した鮮やかな五重塔

志度寺には、四国八十八ヶ所霊場の札所では4ヶ寺しかない五重塔((他に、31番札所竹林寺70番札所本山寺75番札所善通寺)のうちのひとつがあります。1973年に着工され、1975年5月に落成した、まだ50年経っていない新しい塔建築です。地元出身の実業家・竹野二郎によって寄進されました。
高さは33mで、上層にいくほど細くなっていく逓減率は少なめ、つまり上と下とがあまり変わらないタイプで、細長くすーっと立っているイメージです。四天柱の内側には胎蔵界大日如来を安置しています。

志度寺_五重塔

朱色が鮮やかな昭和時代建立の五重塔。

五重塔は各層が繋がっておらず、上に乗っているだけに近いのですが、実は上の層の重みで下の層の屋根の軒を支えています。
※五重塔の構造に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方⑤】地震による倒壊を防ぐ基礎・土壁・接合部の工夫

五重塔は本堂などの建物と比べても特に建物に対して軒の出の割合が大きくなります。桔木(はねぎ)や隅木(すみぎ)の上に、上の層を乗せることでシーソーのようなテコの原理で各層の軒を支えています。ただ、それができないのが一番上の5層目です。5層目の上には相輪しか乗りませんが、相輪を高く、飾りなどを付けることで一定の重量にすることで軒を持たせています。
瓦は重いので、特に五重塔では軒を出すには限界がありますが、わずかながら桧皮葺の五重塔も残っていて、山口県の瑠璃光寺の五重塔は軽い桧皮葺を生かして、かなり深い軒を実現できています。瓦葺きの五重塔とはまったく印象が異なります。作家の司馬遼太郎さんは「街道をゆく」のなかでこの五重塔に触れ、「長州はいい塔をもっている」と書き残しています。

志度寺の五重塔は明王院の五重塔を模して造られたといいます。明王院は広島県の福山市にあり、五重塔は700年近く前の鎌倉時代の1348年に建てられ、国宝になっています。

 

80番札所志度寺には、江戸時代初期に高松藩の篤い庇護を受けて建立された本堂や仁王門など歴史的な建造物と、昭和時代に建立された比較的歴史が新しい五重塔が共存しています。五重塔は四国の中では数少ないもので、他の寺院の五重塔と比較してみるのもおもしろいと思います。

 

【86番札所】  補陀洛山 志度寺(ふだらくさん しどじ)
宗派: 真言宗善通寺派
本尊: 十一面観世音菩薩
真言: おん まか きゃろにきゃ そわか
開基: 藤原不比等
住所: 香川県さぬき市志度1102
電話: 087-894-0086

四国遍路巡礼に
おすすめの納経帳

千年帳販売サイトバナー 千年帳販売サイトバナー

この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。