【6番札所安楽寺】仁王門と竜宮門のハイブリッド山門と茅葺屋根の宿坊

6番札所安楽寺では、四国八十八ヶ所霊場ではここだけの珍しいタイプの山門をくぐって境内に入ります。温泉を備える宿坊が有名な巡礼の拠点となっているお寺で、宿坊の建物は四国ではあまり見かけない大きな茅葺屋根が特徴です。

スポンサーリンク

 

仁王門と竜宮門のハイブリッド山門

6番札所安楽寺の入口にある山門、他のお寺のものと比較して見てみると、少し変わった形になっていないでしょうか。

安楽寺_山門

6番札所安楽寺では、お寺の入口でまず立ち止まって、少し離れた位置から山門を眺めてみてください。

まず、基礎知識的なお話から始めます。
一般的に「仁王門(におうもん)」とは、門の左右に仁王を配置した形式の門です。
門の左右に阿形(あぎょう)・吽形(うんぎょう)の仁王、それぞれ阿仁王と吽仁王とよばれ、一対で安置されています。この二体が合体すると強力な神通力を持つ金剛力士になるとされます。阿仁王は50音のはじめの「あ」を表し、口を開けています。吽仁王は50音の終わりの「ん」を表し、口を閉じています。邪悪なものから仏さまと仏法を守るためにお寺の入口を守っているのです。
現存するもっとも古い仁王門は奈良・法隆寺西院の中門です。また仁王像は奈良・東大寺南大門の運慶・快慶作が最大で傑作とされています。

さて、安楽寺の仁王像は真ん中の楼門とは切り離された形で独立していて、それぞれの屋根の棟は「総反り(そうぞり)」になっています。総反りというのは屋根の軒や棟が端から端まですべて反っていることです。多くの建物は隅や端に近い部分だけ反りをつけることが多いのですが、総反りは真っすぐな部分がなく真ん中から端に向かって少しずつでも必ず上向きになっています。

真ん中の楼門の棟は総反りではないので、違う時期に建てられ、さらに大工さんも同一ではないことがわかります。この真ん中の楼門は「竜宮門(りゅうぐうもん)」といわれるタイプのもので、これ自体も多くのお寺で採用されているわけではないのですが、安楽寺の山門は竜宮門と仁王門が合体したようなハイブリッドタイプで極めて珍しいといえます。
竜宮門とは、楼門の1階部分が漆喰塗りで台形の末広がり形になっている門です。 浦島太郎が助けた亀に連れられていった竜宮城の城門はこのような形で描かれています。 中国・明朝の建築様式を取り入れた工法とされています。

ということで、安楽寺の山門はとても珍しい形なので、お寺に入る前にぜひ立ち止まってまじまじと見ていただければと思います。

 

大きな茅葺屋根の宿坊

山門をくぐって境内に入ると左手には池、まっすぐ正面に本堂があります。この本堂は昭和38年(1962年)に鉄筋コンクリートで再建されたものです。
本堂右手に目を移すと、大師堂と屋根の形が特徴的な大きな建物があり、これが昔から有名な宿坊です。

安楽寺_宿坊_茅葺屋根

安楽寺といえば宿坊が有名で、1番札所から順打ちでお遍路をスタートしたら、1泊目にちょうどよい立地です。

大屋根が茅葺(かやぶき)になっていて、四国でこのような形状の屋根を見ることはとても珍しいです。
茅葺屋根は植物の茅を材料にして屋根を作っています。厚みは80cmほどもあり、通気性が良く雨漏りもしにくいので、昔の日本の住宅は茅葺屋根が多かったのですが、戦後は急速に都市化が進み住宅が密集するようになって、唯一の弱点である燃えやすさが防火上問題になり減っていきました。
世界遺産の岐阜県・白川郷は茅葺屋根の建物が多く残る集落ですが、集落全体が禁煙で、各地に消火栓を配置するなど維持するための防火対策にたいへんな気を使っています。

 

初めて会える薬師如来

四国八十八ヶ所霊場の札所の御本尊で一番多いのが薬師如来ですが、1番札所から順打ちを始めると、1番札所から5番札所までは意外にも薬師如来が御本尊のお寺がなく、ここ6番札所安楽寺で初めて薬師如来の御本尊を拝むことになります。
薬師如来は正式名を薬師瑠璃光如来といい、阿弥陀如来の西方極楽浄土に対応した東方浄瑠璃浄土の仏さまです。
薬師とはお医者様のことで、病気やケガ、心の病といった患いを取り除き、苦しむ人々を救う現世利益のご利益があります。左手には万病に効く薬が入った薬壺を持っていますが、平安時代より前に作られた古い薬師如来は持っていません。
日光菩薩・月光菩薩とともに薬師三尊像として祀られることが多く、代表的なものに奈良・薬師寺があります。また、薬師如来の眷属(けんぞく。家来のこと)として有名な薬師十二神将を従えていることもあります。奈良・新薬師寺が有名です。
ご自身はもちろん、ご家族や大切な人に健康不安がある時は、お遍路の中でも特に薬師如来が御本尊になっているお寺で、念入りにお参りされてみてはいかがでしょうか。

 

山号の「温泉山」のとおり、昔から温泉がわく宿坊があるお寺として、多くのお遍路さんを受け入れてきた6番札所安楽寺では、まずお寺の入口からたいへん珍しい山門を見ることができます。宿坊の建物を大きな茅葺屋根も現代ではとても希少なものになっていますので、お見逃しのないように。

 

【6番札所】  温泉山 瑠璃光院 安楽寺(おんせんざん るりこういん あんらくじ)
宗派: 高野山真言宗
本尊: 薬師如来
真言: おん ころころ せんだり まとうぎ そわか
開基: 弘法大師
住所: 徳島県板野郡上板町引野字寺ノ西北8
電話: 088-694-2046

四国遍路巡礼に
おすすめの納経帳

千年帳販売サイトバナー 千年帳販売サイトバナー

この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。