屋根にはいくつかの基本的な形があり、同じ建物でも屋根の形が変わると印象がずいぶん変わります。寺院建築の楽しみ方をご紹介するシリーズの第四弾、屋根の種類とその形状からわかることについて解説します。
屋根の形状の種類
寺院では宗派によって屋根を含めた建物の造りに傾向があります。四国には真言宗のお寺が多く、四国八十八ヶ所霊場の札所の多くが真言宗ですが、真言宗と天台宗は平安仏教なので他の宗派に比べて歴史が古く、ほとんどの建物は何度か建て替えられていますので、その際に屋根の形も変わっている可能性があります。
寺院の屋根の形の種類は、基本的に以下の4パターンです。
【切妻(きりづま)】
切妻は、棟を頂点に2面にわかれる、もっともシンプルなタイプです。
一般住宅に多く、寺院建築ではあまり使われませんが、神社建築ではよく使われています。
【寄棟(よせむね)】
寄棟は、棟から4面にわかれ、屋根の隅へ向かってのびる隅棟(すみむね)が長いのが特徴です。
どの宗派にもあるタイプですが、特に奈良の南都六宗や平安仏教、鎌倉仏教では禅宗にみられます。四国八十八ヶ所霊場の札所にも多くみられます。
【入母屋(いりもや)】
入母屋は、切妻と寄棟とを合体させた形で、屋根の側面に三角の壁ができます。
比較的新しい屋根タイプで、浄土真宗によくみられますが、四国八十八ヶ所霊場の札所にも多くみられます。
【方形(ほうぎょう)】
方形は、寄棟と似ていますが棟がなく、頂点に宝珠(ほうじゅ)という置物が飾られます。
本堂以外の観音堂や薬師堂などのお堂、宝物殿などによくみられます。
屋根の特徴や装飾
切妻、寄棟、入母屋は一般住宅でも採用されることがありますが、寺院建築ならではの特徴的な造りとしては、反りや曲線が用いられていることと、「向拝(こうはい・ごはい)」があることがあげられます。
※反りや曲線については、以下のリンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。
向拝は、建物の正面の一部だけ屋根をせり出して、お参りに来た人が雨に濡れないようにしている造りのことです。「唐破風(からはふ)」という半円を描いたような造形がされることもあり、お城などにも使用されています。
また、「箕甲(みのこう)」という装飾がされることもあります。ケラバ部分(屋根の端っこの部分)を曲線に仕上げることをいいます。
この部分は、普通はそのまま瓦が終わって、その下は破風板(はふいた)になるのですが、わざわざ丸く弧を描くように仕上げ、どの角度からでも見栄えが良くなるようにしています。
鬼瓦(おにがわら)は、棟の端部に設置されます。魔除け・厄除けの意味がある鬼瓦にはいくつかのタイプがありますが、大きくわけると「鬼面(きめん)」と「若葉・経の巻(わかば・きょうのまき)」と「鳩尾(しび)」です。
鬼面はその名の通り鬼の顔をしていて、古いお寺によくみられ、寄棟と方形に用いられることが多いです。
若葉・経の巻は植物などをモチーフにしていたり、鬼瓦の上に筒のようなものが1本ないし3本設置されます。切妻と入母屋によくみられます。
鳩尾は魚をモチーフにしており、シャチの形なども含まれます。水の生物が用いられるのには、火除け・火災防止の意味が特に込められています。寄棟でよくみられます。
切妻と入母屋には、鬼瓦の下の破風板の頂点に懸魚(げぎょ・けんぎょ)が飾られます。元々は魚の形をしていたもので、火除け・火災防止の意味が込められています。
寺院の建物が失われる原因は、老朽化や地震よりも火災が圧倒的に多くなっています。火災の原因は堂内からもありますが、落雷や延焼による場合も多いので、火除けには昔から神経を使っていたことがわかります。
屋根の材料
屋根の材料といえば、瓦(かわら)のイメージが強く、四国は日本三大瓦のひとつである淡路瓦(兵庫県淡路島)の産地が近いのでよく使われています。
※日本三大瓦は他に、愛知県の三州瓦、島根県の石州瓦。
寺院や神社の屋根には、瓦以外にも多彩な材料が使われています。
【桧皮(ひわだ)】
ヒノキの樹皮です。薄い皮を何枚も重ねるようにして並べていきます。寺院の屋根にも使われますが、特に神社の方がよく使われています。近年は材料も職人さんも減っていて、25年程度の耐久性のため、年々減少している傾向にあります。
【銅板(どうばん)】
金属の銅を板状にしたものです。50年から100年という耐久性があり、屋根を軽くできるのが特徴です。桧皮によく似ているため、神社の屋根には特に多く使われています。
その他、木を薄く切ったこけら葺きや、金属のチタンを使うこともあります。
瓦以外の屋根はどれも厚みが薄いもので、屋根の曲線ラインがキレイに出ますので、寺院を訪ねた際に瓦以外の屋根を見かけたら屋根のラインをよくご覧ください。
鉄筋コンクリートの建物では、これらの屋根の他に塗装で防水加工をすることもあります。
四国八十八ヶ所霊場の札所の建物のなかには、文化財に指定されているものもたくさんあります。文化財には、国指定の国宝・重要文化財、県指定、市町村指定があります。建物の種類も、本堂、大師堂、山門、五重塔、多宝塔、鐘楼など様々です。
指定されるのは、歴史があることが明確で技術的にも価値の高いことが理由となり、建物を保存していくのが目的ですが、屋根は雨にあたるなどして傷みやすいので、数十年に一度はふき替えないといけません。文化財に指定され、建造から1000年以上経っているような歴史ある建物でも、屋根だけは何度も新しく取り替えられています。
屋根の形状の種類や装飾、材料をみると、その建物に込められた意味や役割、願いなどを読み取ることができます。長い歴史ある建物でも、屋根は何代も入れ替わっていくことも、ある意味歴史の変遷を感じることにもなりますので、寺院建築でぜひ屋根に注目してみてください。
※寺院建築の楽しみ方に関しては、以下リンクの記事に続きますので、引き続きぜひご覧ください。
【寺院建築の楽しみ方⑤】地震による倒壊を防ぐ基礎・土壁・接合部の工夫