69番札所観音寺は、奈良・興福寺に倣った伽藍配置が特徴で、その中心となる国指定重要文化財の本堂は中金堂と呼ばれています。総反りの屋根や珍しい鬼瓦、伽藍配置とお堂の名称に関して深堀りしていきます。
69番札所観音寺の国指定重要文化財の本堂(中金堂)
69番札所観音寺は、唐から帰った空海が住職を務めたと伝わっています。空海が住職であったころ、同じ敷地内にある68番札所神恵院とともに奈良の興福寺に倣った伽藍配置になっていました。中金堂(ちゅうこんどう)、東金堂(とうこんどう)、西金堂(さいこんどう)を備えた七堂伽藍の形式になっていたとそうです。中金堂を本堂として聖観観世音菩薩を、東金堂には弥勒菩薩を、西金堂には薬師如来と12神将をそれぞれ安置しました。
現在の観音寺は、仁王門から石段を登り、正面に大師堂、右手に本堂である国指定重要文化財の中金堂があります。間口3間、寄棟(よせむね)造り、流れ向拝(こうはい)の本葺き瓦です。
※寺院建築の屋根の形状や装飾に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。
現在の中金堂が建造されたのは江戸時代ですが、室町時代の材料も残っています。全体に朱色に塗られていますが派手な装飾や組物はありませんが、屋根は総反りになっています。
※寺院建築の反りや曲線の意味と機能美に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。
総反りは隅だけでなく軒先の真ん中から少しずつ全体が反っていて、直線の部分がない造りです。また、本堂の隅は鬼の顔をした鬼面鬼瓦ですが、鬼の角が2本縦に並んでいる珍しい鬼面文鬼瓦になっています。少々マニアックな話ですが、四国八十八ヶ所霊場の札所のなかでもこのような鬼瓦は他に高知の札所に2ヶ所あっただけと記憶しています。
御本尊の聖観世音菩薩は通常は非公開の秘仏ですが、御前立ちから推測すると、よく見る蓮の華を持って印をむすぶ立像ではなく阿弥陀如来座像のような形の珍しい観音様ではないかと思われます。
また、観音寺には国指定重要文化財の釈迦涅槃像があります。藤原時代の作とされ、お釈迦様が沙羅双樹の下で頭を北に向けて身を横たえている仏像で、お釈迦様の臨終の姿を彫ったものといわれています。涅槃図と呼ばれる、同じ様子を描いた絵は様々な寺院で見られますが、実際に彫刻されたものは国内では多くありません。毎年2月15日の涅槃会と4月18日の花祭りの当日のみ公開されています。
本堂と金堂の呼び方の違い
寺院で御本尊が安置されているお堂はふつう本堂と呼ばれます。御本尊以外に仏さまがいらっしゃる場合は観音堂とか薬師堂とかいう祀られている仏さまによってネーミングされていることが多いです。四国八十八ヶ所霊場の札所はほとんどがそれに倣っています。
ですが、今回の観音寺のように一部の寺院では本堂にあたるお堂のことを「金堂(こんどう)」と呼ぶことがあります。前出の奈良・興福寺では金堂が3つあり、四国八十八ヶ所霊場の札所では75番札所善通寺や80番札所国分寺でも本堂が金堂と呼ばれています。
本堂と金堂は単に呼び方が違うだけで同じものなのかというと、似ているけど厳密には少し違うものです。ポイントは人が入るかどうかです。実は、平安時代より前は仏さまがいるお堂に参拝で入ることはあまりなく、建物の外から拝んでいました。奈良の東大寺の大仏殿のように仏さまのお顔がお堂の外から見えるイメージです。そして仏さまを拝む場所として、金堂の前に「礼堂(らいどう)」が建てられました。本堂というのは、もともとこの礼堂と金堂を合体させて人が仏さまと同じ空間で参拝できるようにしたものです。
比叡山延暦寺の根本中堂も金堂と礼堂をあとから合体させたもので、中に入るとその造りがわかります。ですので、本堂は中に入ると畳が敷いてあって人が拝めるようになっておりますが、金堂は入っても石畳みなどになっていることが多いのです。
鎌倉時代よりあとに建てられた金堂は、実際には既に人が入る前提になっていることもあり、ふつうの本堂のような形式に改められていることが多いです。なので、造りは本堂であっても、昔は金堂だったということで、金堂という呼び方がされている場合もあります。
69番札所観音寺の奈良・興福寺に倣った特徴的な伽藍配置とお堂のネーミングに関してご紹介しました。寺院によって、お堂にはいろいろな名前が付いていますが、その名前から建物の歴史やお寺の由緒、仏さまの種類などが想像することができます。お堂の名前に着目することで、寺院の歴史を深堀りする一歩になるのではないかと思います。
【69番札所】 | 七宝山 観音寺(しっぽうざん かんのんじ) |
宗派: | 真言宗大覚寺派 |
本尊: | 聖観音世音菩薩 |
真言: | おん あろりきゃ そわか |
開基: | 日証上人 |
住所: | 香川県観音寺市八幡町1-2-7 |
電話: | 0875-25-3871 |