地元では「津寺」の愛称で呼ばれる25番札所津照寺は、太平洋に近い立地であることからか、海にまつわる話が多く残されています。土佐藩主・山内一豊を嵐から救った「楫取地蔵」や、身を捧げて港を開いた「一木権兵衛」の話が有名です。
—– 記事に登場する主な地名・単語
第24番最御崎寺・東寺(だい24ばんほつみさきじ・ひがしでら)
第25番津照寺・津寺(だい25ばんしんしょうじ・つでら)
第26番金剛頂寺・西寺(だい26ばんこんごうちょうじ・にしでら)
室戸三山(むろとさんざん)
土佐國(とさのくに)
参勤交代(さんきんこうたい)
慶長年間(けいちょうねんかん / 1596~1615)
楫取地蔵大菩薩(かじとりじぞうだいぼさつ)
室津港(むろつこう)
海神(わだつみ)
—– 記事に登場する主な人物
山内一豊(やまうちかつとよ / 1545~1605) … 豊臣秀吉・徳川家康に仕え、関ヶ原の合戦において東軍に戦功を上げたことにより、土佐藩を与えられ初代藩主となった。
野中兼山(のなかけんざん / 1615~1664) … 土佐藩家老。多くの改革で藩財政を支えたが、同時に過酷な政策は多方面から反感を買うこととなり、失脚。土木事業に功績が多くみられる。
一木権兵衛(いちきごんべえ / 1628~1679) … 土佐國布師田生まれ。野中兼山に取り上げられ、主に室戸方面の港湾改修にあたった。
紀貫之(きのつらゆき / 866?~945?) … 国司として土佐國に赴任。任期を終えて帰洛する際の紀行を参考に、土佐日記を著す。
武田徳右衛門(たけだとくえもん / ?~1814) … 伊豫國越智郡朝倉村(現・今治市)生まれ。寛政6年(1794)から文化4年(1807)にかけて四国各地に標石を建立した。
丘の上に祀られる海上安全のお地蔵さま
25番札所津照寺の山門をくぐると否が応でも目に入る、長い階段。津寺の本堂はこちらの階段を登った丘の上にあります。
これは歩き・自家用車 / 個人・団体、いずれの遍路も通る道。事情により上がれない場合は麓から遥拝させて頂きましょう。
祀られる本尊は 楫取地蔵大菩薩
慶長年間のできごと。
土佐國藩主・山内一豊が参勤交代で江戸に上がる際、室戸岬沖で激しい嵐に遭い、船を操縦することができなくなった。その時、見知らぬ青年が現れ船の舵をしっかり握り、一行が乗る船を無事に陸へ導いた。
無事に岸へ上陸した一豊が気付いた時にはその青年は姿は無く、ひとまず命が助かった御礼参りのため、近くにあったお寺(=津寺)を訪れた。
階段を上がり御堂を開き、さあお参りをしようと本尊に目をやると、その姿はぐっしょり濡れた御姿だった…
以来、津寺のお地蔵様は船を安全に導く "楫取地蔵" と呼ばれるようになり、海の仕事に従事する人たちを中心に特に信仰を集めるようになった。
また、"かじとり" は 「火事取り」 に通じ、実際に津寺で火災が起こった際、本尊が僧に姿を変え、村人に火災発生を伝え、難を逃れた話が伝わります。
境内入口にある大岩の話
山門の裏、参道左手に置かれた大きな岩。かつて港の入口にあり、船の往来を妨げていた岩を、海神に人柱として身を捧げることによって工事を成し遂げた人物の話が伝わります。
土佐藩・野中兼山に取り立てられ、普請奉行として室戸付近の港湾開削にあたった 「一木権兵衛」
室津港にはこの岩があり、それを取り除く工事にあたったがなかなか取り除くことができず、工事は難航していた。
そこで権兵衛は、工事成功の暁には海神にその身を捧げることを誓い、見事工事を成功させた。
改修後は潔くその身を海神に捧げた権兵衛の事を村人は大きな悲しみと感謝の念をもって神社を建立。現在 "一木神社" として、津寺の参道脇に祀られている。そして見事取り除かれた大岩は津寺参道のこの場所に移され、権兵衛の功績を伝え続けている。
前述の山内一豊や土佐日記を書いた紀貫之も立ち寄ったとされる、古くから風待ち・潮待ち、悪天候時には往来する船舶の避難が行われた歴史ある室津港。
この場所は南海トラフとの関連が深く、地震が発生するたびに土地が隆起して、それによって港が浅くなることが繰り返されている。
権兵衛さんの時代に港を塞いでいた大岩は、昔は海の底にあったものが地震により出現したものと想像される。
武田徳右衛門標石
室戸三山はそれぞれ
東寺… 最御崎寺
津寺… 津照寺
西寺… 金剛頂寺
と呼ばれている。
津寺の入口には、次の札所への距離を示す武田徳右衛門氏の標石が残されています。
【25番札所】 | 宝珠山 真言院 津照寺(ほうしゅざん しんごんいん しんしょうじ) |
宗派: | 真言宗豊山派 |
本尊: | 地蔵菩薩 |
真言: | おん かかかび さんまえい そわか |
開基: | 弘法大師 |
住所: | 高知県室戸市室津2652-イ |
電話: | 0887-23-0025 |