【1番札所霊山寺】軽量で最高峰の耐久性をほこるチタン製屋根の本堂

四国八十八ヶ所霊場の1番札所霊山寺の本堂の屋根は、パッと見た感じは普通の瓦屋根に見えますが、実はまったく別の素材でチタンという金属が使用されています。軽量で耐久性が高いなど様々な利点があるチタン屋根についてご紹介します。

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チタン製屋根の本堂

1番札所霊山寺の仁王門を入ると、池が目に飛び込んできて、まっすぐに橋を渡ると本堂があります。本堂は数年前に大がかりな改修工事が終わっていて、最大の特徴はチタン製の屋根です。

霊山寺_本堂_チタン製屋根

霊山寺の本堂の屋根は角度的に少し見づらいのですが、お寺参拝時にはぜひ注目してみてください。

チタン(Titanium。化学記号は「Ti」で示される)は、建材として使用されだしてからはまだ歴史が浅いですが、耐熱性・耐摩耗性・耐久性に優れていることから航空機や自動車、医療機器や人工関節などの材料として、世の中で広く用いられるようになっています。
また、丈夫であるにも関わらず軽量であることも大きな特長で、福井県鯖江市などで作られているメガネの材料としても採用されるようになってきました。

チタンを屋根材に使用した場合、何年くらいもつのかというと、半永久的に老朽化しないといわれています。しいていえば、1500年とも2000年ともいわれており、瓦屋根がだいたい50年、銅板屋根でも80年くらいといわれている耐久年数と比べれば比較になりません。
さらに驚きなのは軽さです。瓦と比べれば10分の1、銅板と比べても2分の1程度の軽さなので、建物への負担が大きく減り、耐震性も上がります。特にお遍路の札所のように参拝者が絶えないようなお寺では、地震で瓦が落下し参拝者が危険にさらされる、というリスクが限りなく低減されます。

また、何色かのカラーに発色ができ、寺院の屋根に使用する際には、瓦に近い色に加工されています。これは塗装ではなく、変色に近い発色という作業なので、定期的な塗り替え作業などのメンテナンスが不要です。かなり近くから見ても瓦なのかチタンなのかわからないくらいの再現性です。

チタン自体は厚さ0.3mmという薄い板ですので、本葺き瓦の形や和瓦型に成形してより瓦に似せることもできます。鬼瓦もチタンで作ることができますが、チタン製の屋根に瓦の鬼を設置しても違和感はありません。
建築物の屋根にチタンを使うことはこの10年ほどで増えてきています。たとえばお寺でいえば東京の浅草寺の本堂と五重塔もチタン製の屋根です。高野山の塔頭と金閣寺の茶室にもチタンが使われています。
お寺以外でも東京・奈良・九州の各国立博物館やお台場フジテレビの球体展望室など、恒久的な建物に使用される例はたくさんあります。

浅草寺_チタン製屋根

浅草寺のチタン製の屋根の写真です。瓦と見わけるのが難しいぐらいの再現性です。

四国の寺院では、私が知る限り霊山寺で初めてチタン製の屋根が採用されたのですが、これだけの利点がありながら採用されることが少ないのは、とにかく高額になるからです。材料費用を比較すると瓦や銅板の3~5倍の価格になります。かなり資金力のあるお寺でしか採用することは難しいでしょう。
チタンは優れた性能を持つ金属ですが、産出量は少ないわけではなく、いわゆるレアメタルというわけではありません。ただ、鉄鋼メーカーでの精製工程に手間がかかるため高価になっています。
また、チタンが半永久的な耐久性がある建材なので、それを屋根に使用した場合に、そもそも建物がある程度恒久的な構造になっていないと、建物の方が先に建て替え時期を迎えるようではもったいないということになります。

霊山寺の本堂は、境内から一段上がった場所に建っていて、そのうえ屋根の勾配がゆるいので、せっかくのチタン製の屋根が地上から見えにくいのが残念ですが、建物を丈夫にすることによって「仏さまを守る」「参拝者を危険から守る」というお寺側の信仰心とやさしさを感じられるかと思います。

 

宝珠が印象的な大師堂と戦火の歴史を刻む多宝塔

霊山寺には本堂以外にも注目していただきたい建造物があります。仁王門を入って本堂に行く手前右の大師堂と左の多宝塔です。

大師堂は方形(ほうぎょう)造りに流れ向拝(こうはい)が付き、さらに本瓦葺きという豪勢で重厚な建物ですが、てっぺんの宝珠(ほうじゅ)と露盤(ろばん)が大きく存在感があります。
宝珠とは、厄難を除き、ほしい物が思いのままに出せるという玉のことで、如意(にょい。自由自在に、の意)宝珠ともいわれます。霊山寺の大師堂の宝珠は燃えあがる炎まで表現されています。
露盤というのは、宝珠を乗せている台座のことです。鬼瓦よりも重く、大きければ大きいほど重量が増えていきますので、屋根裏の補強が必要になるので、霊山寺の大師堂はかなりしっかりした造りになっていることが宝珠や露盤の立派さからもわかります。
※寺院建築の屋根の種類や装飾に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方④】屋根の種類とその形状からわかること

霊山寺_大師堂_宝珠

池の対岸の少し遠めから大師堂を見ると、宝珠の存在感が際立ちます。

多宝塔は下層が四角形、上層が円形という高野山の根本大塔と似た造りになっています。1500年代の戦国時代に長宗我部元親の侵攻により火が放たれたため、大部分は明治時代の改築によりますが、もともとは室町時代に建てられたものでおよそ600年の歴史があります。

 

順打ちで1番札所からスタートするお遍路さんは、お参りに一生懸命で先を急ぐ気持ちもあり、建築物にまで注目できないかもしれませんが、少し気持ちに余裕をもって、特徴ある建物もぜひご覧になってみていただければ幸いです。
四国八十八ヶ所霊場初のチタン屋根の本堂は一見の価値ありですし、他の建物の瓦屋根と見比べてみるとおもしろいと思います。

 

【1番札所】  竺和山 一乗院 霊山寺 (じくわざん いちじょういん りょうぜんじ)
宗派: 高野山真言宗
本尊: 釈迦如来
真言: のうまく さんまんだ ぼだなん ばく
開基: 行基菩薩
住所: 徳島県鳴門市大麻町板東塚鼻126
電話: 088-689-1111

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。