【29番札所国分寺】国指定重要文化財のこけら葺きの本堂と歴史ある楼門式仁王門

高知県南国市にある29番札所国分寺は、「土佐日記」の著者として知られる紀貫之が土佐守として赴任した場所で作品の舞台にもなりました。こけら葺きの本堂や、梵鐘、仏像などが国指定重要文化財で、文化財の宝庫でもあります。

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奈良時代に聖武天皇の勅命で全国各地に創建された国分寺

国分寺というのは、今から1300年ほど前の奈良時代に、聖武天皇の勅命「諸国の中心地に建立せよ」によって各国に建てられた寺院です。四国4県にもそれぞれ国分寺があり、四国八十八ヶ所霊場の札所(徳島県の15番札所国分寺、高知県の29番札所国分寺、愛媛県の59番札所国分寺、香川県の80番札所国分寺)にもなっています。

本記事では高知県土佐国の29番札所国分寺の寺院建築や文化財について、ご紹介していきます。

 

味わい深いこけら葺きの本堂

29番札所国分寺の仁王門から入ってまっすぐ正面にある本堂は、室町時代の1558年に長宗我部国親とその息子元親により建てられ、国の重要文化財に指定されていて、金堂(こんどう)とも呼ばれています。

屋根はこけら葺き、寄棟(よせむね)造りの重厚で味わいある建物です。
こけら葺きは薄くスライスした木の板で屋根を作る板葺きの一種で、ヒノキ、サワラ、スギといった水に強い樹種を使っています。1枚当たり1分(2mm~3mm)ほどの薄さの板を、1寸(約3cm)ほどの間隔で重ねていきます。新しいうちは白っぽい木の肌の色をしていますが、雨が重なるにつれて茶色っぽくなり、さらに黒っぽくなっていきます。

また、この本堂を力強く見せているポイントとして大きいのは、向拝(こうはい)の箕甲(みのこ)のつくりです。大屋根からそのまま続いて向拝へ流れていきますが、かなり上の方から向拝部分だけ盛り上がりはじめ、結果として箕甲が大きく落ちる形になります。それだけカーブが大きくなるように設計されています。瓦屋根ではこのようなつくりと見せ方はできません。仁王門を入ったところの遠目から見ると、向拝部分の存在感が際立って見えます。
※寺院建築の屋根の特徴や装飾に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧らください。

【寺院建築の楽しみ方④】屋根の種類とその形状からわかること

国分寺_本堂

国分寺の本堂は、こけら葺きの屋根と、向拝のつくりにご注目ください。

こけら葺きの代表的な文化財建築物としては京都の慈照寺いわゆる銀閣寺の観音殿や、桂離宮古書院などがあります。
2020年には「伝統建築工匠の技・木造建造物を受け継ぐための伝統技術」がユネスコ無形文化遺産に登録され、この中に「桧皮葺(ひわだぶき)」とともに「こけら葺」が含まれています。
また、吹寄垂木(ふきよせたるき)に室町時代の特色が現れています。垂木の規則的な配置や配列を崩して作る方法です。この本堂の化粧垂木(けしょうたるき)をよく見てみると、5本に1本くらいが少し間隔を変えて配置されています。現代では数寄屋(すきや)建築や茶室にわずかに見られる工法で、寺院や神社の建築ではほとんど見られないものです。規則性を破ることによって、変化を付け、インパクトも持たせるようにしてあります。
※寺院建築の軒裏のつくりや装飾に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方③】美しさは軒裏に集約される

また、本堂内部の海老虹梁(えびこうりょう)は土佐最古といわれる歴史あるものです。海老虹梁は高さが異なる柱や梁・桁との間を、斜めに直線の木材でつなぐのではなく、木材を曲げて加工してつなぐ材料です。

 

楼門式仁王門と平安時代の梵鐘

仁王門は江戸初期の1655年、土佐藩主・山内忠義により建てられた楼門式で、2階が鐘楼になっている形式です。1655年というと江戸時代の初期、現在から400年近く前で、文化財に指定されてもおかしくないほどの歴史があります。
2階に設置されていた梵鐘は今は本堂へ移されていますが、平安時代も前期のもので国指定重要文化財です。寺創建当時の作品で、鐘の口径が1尺6寸5分(約47cm)、高さ2尺5寸(約63.8cm)、重さ60貫(約225kg)あります。銘文はありませんが形から平安時代前期の作と推定されています。

国分寺_仁王門

仁王門もたいへん歴史がある建物です。門の先の本堂とのコントラストも国分寺の見どころのひとつです。

 

数多くの文化財と国史跡指定の境内

また、本堂と並んで建つ大師堂は1634年建立と、こちらも歴史ある建物です。1960年の修理でこけら葺きから銅板葺きに葺き替えられ、50年後の2011年にも新しく銅板に葺き替えられています。本堂より歴史は浅く建物も小さいながら、こけら葺きのままだったらこちらも文化財に指定されていてもおかしくはありません。しかしこけら葺きはコストがかかり、職人さんも減ってきている事情を考えると、維持していくには仕方ないこともあります。

国分寺には国重要文化財指定の仏像が2体あり、どちらも薬師如来です。一体は平安時代中期の作で、高さ3尺2寸2分(約99.5cm)のヒノキの一木彫り、よく見る薬師如来と違って手に薬壺(万病に効くという薬を入れた小さな壺)を持っていません。ちょうどこの時代を境に薬師如来の持物が変わるタイミングで、古い薬師如来の作りになっています。
もう一体は鎌倉時代の作で、高さ1尺8分(35.5cm)の寄木造り、手には薬壺を持っています。

このように建築物や美術品など、数多くの文化財が残り、さらにこの境内付近は「土佐日記」の作者「紀貫之(きのつらゆき)」が4年にわたって滞在した場所でもあることから、大正11年(1922年)に境内全域が国の史跡に指定されています。

 

寺院では例が少ないこけら葺きの傑作が鑑賞できる29番札所国分寺をご紹介しました。こちらには建物だけでなく仏像などの彫刻・美術品も価値あるものがあります。お遍路で国分寺を訪れた際には、今回ご紹介したポイントに着目してみると、新しい発見があるかもしれません。

 

【29番札所】  摩尼山 宝蔵院 国分寺(まにざん ほうぞういん こくぶんじ)
宗派: 真言宗智山派
本尊: 千手観世音菩薩
真言: おん ばざらたらま きりく
開基: 行基菩薩
住所: 高知県南国市国分546
電話: 088-862-0055

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。