八十八番結願札所大窪寺。
深山に抱かれたこの山寺から海へと続く巡礼路は、日本神話の大物主との神婚譚で名高い倭迹迹日百襲姫(やまとととひももそひめ)と讃岐との関係の深さを示すレイラインが潜んでいます。

修験道の記憶を色濃く伝える大窪寺と二至のレイライン

長い遍路の旅も最後の仕上げ、八十八番札所の大窪寺に参ればついに結願です。
大窪寺の正式名は医王山遍照光院大窪寺、本尊は薬師如来。

薬師如来は左手に薬壺を持つのが通例ですが、大窪寺の薬師如来(秘仏)は薬壺のかわりに法螺貝を携えています。
薬をもたらす代わりに、法螺貝の響きによってすべての厄難諸病を吹き払うと伝えられています。

堂宇は背後に女体山を背負い、そこから連なる山並みが壁のように続いています。
元はこの山域を修業の場とした修験者たちの拠点でした。
修験者は、入峰する際に法螺貝を吹いて魔除けとしますが、そうした修験道場としての記憶が本尊の像容として受け継がれているのかもしれません。

女体山を背負う大窪寺本堂。

女体山を背負う大窪寺本堂。

寺伝によれば、養老年間(717-724)に行基がこの地を訪れ、草庵を結んで修行したのが始まりとされ、弘仁年間 (810-823) に唐から帰朝した空海が奥の院の岩窟で虚空蔵求聞持法を修したとされます。
さらに、空海は谷間の窪地に堂宇を建て、薬師如来坐像を刻んで安置し、さらに三国伝来の錫杖を納めて、大窪寺と名付けたとされます。

大窪寺の構造を検証すると、まず、本堂をはじめとする堂宇は、北の山並みを背にして南を向いています。
これはノーマルな構造です。
本堂の南西には仁王門があり、それを潜って西参道が伸びています。
この参道は夏至の日出と冬至の入日の二至ラインに一致しています。
冬至の日に境内の内側のほうから仁王門方向を見ると、冬至の入日が仁王門に掛かる形になっています。

大窪寺の仁王門には冬至の太陽が沈む。

大窪寺の仁王門には冬至の太陽が沈む。

大窪寺西参道は冬至の入日の方向を指している。

大窪寺西参道は冬至の入日の方向を指している。

 

遍路結願後に進む夏至の日出ライン

また、本堂の北西方向には矢筈山があり、その方向は夏至の入日に一致します。
また本堂から見て北東には東女体山がありますが、その山頂方向は夏至の日出方向に一致します。
こうした構造も、二至(夏至と冬至)の太陽出没を神聖視した修験道の名残りだと推定されます。
大窪寺-東女体山のラインをさらに北東に延長すると、後述する水主神社のご神体山の一つである那智山頂から、その先の與田寺を通り、三本松の港に達します。
この三本松港はかつて関西と四国を結ぶ主要航路の一つで、大窪寺で結願した遍路は、港近くにある與田寺に立ち寄り、ここで船待ちをして戻っていったのでした。
與田寺は、結願した遍路が最後に立ち寄る寺であったため、四国八十八ヶ所総奥の院とも呼ばれるようになったと伝えられていますが、大窪寺と二至ラインで結ばれる構造を見ると、もっと深い関わりがあるものと思われます。

三本松港にほど近い與田寺は、四国八十八ヶ所総奥の院とも呼ばれる。

三本松港にほど近い與田寺は、四国八十八ヶ所総奥の院とも呼ばれる。

また、大窪寺で結願した後、一番札所の霊山寺に向かう遍路もいました。
彼らは、いったん引田の海岸まで出ると、街道を東へ向かい、讃岐と阿波の国境の大坂峠を越えていきました。
この大阪峠越えのルートは、屋島の源平合戦の際に、義経の軍団が越えたルートでもありました。
彼らは、阿波側に上陸し、大坂峠を越えて、決戦地である屋島へと向かいました。

いずれにしろ、大窪寺を後にして東へ向かった遍路は、途中で水主神社を通ることになります。
水主神社の祭神は倭迹迹日百襲姫であり、大和と深いつながりを示すレイラインを描いているのです。
※倭迹迹日百襲姫と水主神社の詳しい内容は以下の記事につづきます。

倭迹迹日百襲姫の源流を示す讃岐のレイライン【「水主神社」編】

 

【88番札所】  医王山 遍照光院 大窪寺(いおうざん へんじょうこういん おおくぼじ)
宗派: 真言宗
本尊: 薬師如来
真言: おん ころころ せんだり まとうぎ そわか
開基: 行基菩薩
住所: 香川県さぬき市多和兼割96
電話: 0879-56-2278

 

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内田一成

聖地と呼ばれる場所に秘められた意味と意図を探求する聖地研究家。アウトドア、モータースポーツのライターでもあり、ディープなフィールドワークとデジタル機器を活用した調査を真骨頂とする。自治体の観光資源として聖地を活用する 「聖地観光研究所--レイラインプロジェクト(http://www.ley-line.net/)」を主催する。