【40番札所観自在寺】本堂の銅板屋根の軒付けと大師堂のヒノキの耐久性に注目

40番札所観自在寺の本堂は、シンプルで潔い銅板屋根で「軒付け」に特徴があります。大師堂は総ヒノキ造りで、その耐久性に注目です。度々火災に見舞われた歴史があり、再建に奔走された人達の努力あってこその立派な寺院建築です。

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40番札所観自在寺の火災に見舞われた歴史

愛媛県愛南町にある40番札所観自在寺は、807年に平城天皇の勅命を受けた弘法大師空海によって開かれました。嵯峨天皇も何度か訪れるなど、皇室や宇和島藩にもゆかりの深いお寺です。

かつては48坊を擁する大伽藍だったそうです。しかし江戸時代初期の1675年の火災で焼失し、その後再興を果たしますが、戦後の1959年に再びの火災で本堂を失いました。度重なる火災によって貴重な建物が失われたことは残念です。
それでもお大師様作と伝わるご本尊の薬師如来は失われることはありませんでした。お寺や地元の人たちが協力して救い出したのでしょう。現在は50年に1度開帳される秘仏となっていて、次の開帳は2034年の予定とのことです。

 

本堂の銅板屋根の「軒付け」に注目

門から入ってまっすぐに進むと戦後の火災のあとに再建された本堂があります。コンクリート造りで入母屋(いりもや)、向拝(こうはい)はなく、鬼飾りも控えめですっきりしています。このような平らな銅板を使った屋根はシンプルでストイックな印象さえあります。金、銀に次ぐ高級な金属の銅なので、費用はけっして安くはなく、年数によって色を変えながら長期間にわたる耐久性があります。
※寺院建築の屋根の形状や装飾、材料などに関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方④】屋根の種類とその形状からわかること

観自在寺_本堂

すっきりして潔い銅板屋根の本堂です。

この本堂の銅板屋根の特徴として他に「軒付け(のきづけ)」があります。軒先に厚みがあり、その部分を銅で包んでいます。よく見ると、軒先だけでなく入母屋の妻壁(つまかべ。側面の三角形の部分の壁)まわりにも三角形に同じような厚みがあり、同じ仕様になっています。
この軒付けは建物によりますがおよそ5寸から8寸くらい(約15cm~約25cm)の厚みになることが多いです。隅に行くほど反りあがり、厚みが大きくなります。観自在寺の本堂は薄いところで6寸くらい、隅の方で8寸くらいに見えます。
この部分は銅板を1枚でべたっと張ることはほとんどなく、必ず段を付けます。厚みや建物の種類によって決めますが、3段か5段が多く、原則的には奇数にしますが、観自在寺は4段なので珍しいといえます。
本堂や大師堂といった格の高い建物ほど段数を多くしますので、同じ境内の中でたとえば門や鐘楼堂のほうが本堂より段数が多いということはまずありません。
時々分厚い軒付けで7段という建物もありますので、お寺や神社に行って銅板の屋根をみかけたらこの軒付けに注目してみてください。

 

大師堂の建材「ヒノキ」の驚くべき性能

観自在寺の仁王門は総ケヤキ造り、大師堂は総ヒノキ造りになっています。
ケヤキは東北地方を中心に四国や九州も主な産地で、国産材の中で最高級の木材です。硬くて耐久性が高いことで知られています。
ヒノキの主な産地は木曽や吉野などですが、四国では高知県のヒノキが有名です。木材の単価は硬く長持ちするケヤキの方が高価ですが、ヒノキも木造建築に向いています。ケヤキより柔らかく加工がしやすいのですが、かといって粘りがあって強く、木の肌が美しい針葉樹です。ヒノキは切り倒してから200年から300年ぐらいは強さが増し、それからだんだん弱まっていくという不思議な強さを持った木です。1000年経ってもちょうど切り倒した新品の時と同じくらいの強度があります。ほんのりと赤みがあり脂も多く香りもいい木材です。
日本人はおよそ1300年前の飛鳥時代の昔からヒノキを使った木の文化を持っていて、ヒノキの使い方を熟知していました。1000年の寿命のヒノキを使えば1000年は持つ建物を作れるといわれます。これはヒノキだからできる話で他の木材ではできません。
実際に約1300年前のヒノキが今も建物を支えている奈良の法隆寺は世界遺産になっています。
お寺や神社を訪ねたら、手の届く柱を触ってみて、ケヤキとヒノキの肌質を味わってみてください。

観自在寺_大師堂

総ヒノキ造りの大師堂は、建材にぜひ着目してみてください。

現代で残念なのは、戦後の森林開発などで日本の山は痩せてしまい、大きなヒノキが取れなくなっていることです。なにしろ、今植林したヒノキが巨木になって木材として伐採できるまでに1000年待たなければならないのです。そのため近年は、大きいヒノキが必要な場合は台湾のヒノキを輸入することがあります。日本のヒノキとはやや性質が異なりますが、仕方がありません。

 

40番札所観自在寺は度々の火災に見舞われていますが、お寺や地元の人の努力によって、寺の歴史を守り、立派な堂宇を都度再建されてこられたのでしょう。貴重な寺院建築の現在の姿を、これからも末永く見られ続けることを願ってやみません。

 

【40番札所】  平城山 薬師院 観自在寺(へいじょうざん やくしいん かんじざいじ)
宗派: 真言宗大覚寺派
本尊: 薬師如来
真言: おん ころころ せんだり まとうぎ そわか
開基: 弘法大師
住所: 愛媛県南宇和郡愛南町御荘平城2253-1
電話: 0895-72-0416

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。