【20番札所鶴林寺】山門の迫力がある四天王像と各層で建築様式が異なる貴重な三重塔

20番札所鶴林寺の山門には運慶作と伝わる力強い四天王像が安置されています。各層で建築様式が異なる三重塔は、江戸時代の建築文化を知る上で貴重な建築遺産です。国指定重要文化財の秘仏・地蔵菩薩像の伝説とともにご紹介します。

 

20番札所鶴林寺の山門の四天王像は運慶作か

20番札所鶴林寺は急な坂道を登ってたどり着く四国八十八ヶ所霊場の中でも難所として知られています。創建は古く、平安時代の798年に遡ります。
境内入り口に建つ山門の両側には四天王像があります。これが鎌倉時代の仏師・運慶の作と伝わっています。

四天王とは須弥山(しゅみせん)の東西南北の方角を守っている守護神で、持国天(じこくてん)、広目天(こうもくてん)、増長天(ぞうちょうてん)、多聞天(たもんてん)のことです。それぞれに特有の持物(宝刀や如意宝珠、巻物など)を持ち、仏法を守る最前線の戦いの仏さまとして知られていますが、特に多聞天は単独で信仰の対象となるほど強い仏さまとされ、別名を毘沙門天(びしゃもんてん)と呼ばれます。聖徳太子をはじめ、武田信玄などの戦国武将も深く信仰していました。

鶴林寺の力強い作りの四天王像は、運慶の作風の特徴である迫力を感じます。

鶴林寺_山門

運慶作と伝わる四天王像が安置されている仁王門。

 

一つの塔に三つの建築様式が交じる貴重な三重塔

山門からさらに石段を登り、正面に見える本堂を右へ入ったところに三重塔があります。三重塔なので3層で作られていますが、それぞれの層で少しずつ作りが違います。

組物については、どれも三手先(みてさき。組物が3段で軒の出を支えている造り)で深い軒を支えていますが、見た目でわかりやすいのは軒まわりや高欄(こうらん)です。

軒まわりはどれも二軒(化粧垂木(けしょうだるき)が2段階で出ている)でさらに隙間がないほどの間隔で垂木が並んでいますが(繁垂木(しげたるき)という)、特に化粧垂木が3層目だけ強めの扇垂木(おうだるき。隅へ行くほど垂木が放射状に広がる造り)になっています。

高欄というのは手摺りのようにぐるっと回っている部材です。
1層は組物間を彫刻で飾ったり、軒下の軒板支輪(のきいたしりん)に雲の彫刻を施して装飾的に作り、高欄は擬宝珠(ぎぼし)を付けて縁をめぐらせた唐様になっています。擬宝珠とは、高欄の入り口や隅に配置された小さな宝珠のことです。
2層では、軒は二軒繁垂木で、高欄は組高欄という和様です。組高欄とは、高欄の手摺りが隅で直角に交わる箇所に柱や擬宝珠を設けず、それぞれの手摺りが水平のまま直角に組んで交わる様式です。
3層では軒は扇垂木、高欄は逆蓮柱(ぎゃくれんちゅう)という禅宗様になっています。逆蓮柱とは、高欄の柱の頭部分に、蓮の花を逆さまにした形のものを装飾のためにつけたものです。
※軒裏の垂木や組物に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方③】美しさは軒裏に集約される

また、内部のことなので外観では見えませんが、この三重塔の真ん中に立っている心柱は2層目から上のみだということです。つまり、上から吊っているだけということになります。

かなり建築の専門的な解説になってしまいましたが、あまり言葉に引っ張られる必要はなく、なんとなくそれぞれの階で雰囲気が違うな、という感覚で三重塔をみてみていただければと思います。時間があればじっくり見ながら間違い探しみたいに比べてみてはいかがでしょうか。

鶴林寺の三重塔は徳島県の有形文化財に指定されていて、江戸時代の建築文化を知るうえで貴重な建物といえます。

鶴林寺_三重塔

各層で建築様式が異なる三重塔。

 

弘法大師作と伝わる国指定重要文化財の秘仏・地蔵菩薩像

鶴林寺の御本尊は地蔵菩薩です。

お地蔵さまといえば、笠子地蔵などのように道端に佇んで日常的に私たちを見守っているような、とても身近な仏さまのイメージです。しかし実は非常に責任の重い任務を持った仏さまで、お釈迦様の入滅(亡くなって)から次の弥勒菩薩が地上に現れるまでの56億7000万年のあいだ、人々を苦しみや悲しみから救うのが地蔵菩薩の役割とされています。
しかも人間界だけでなく、地獄界に落ちた人々など六道すべてが対象になっているため、お地蔵さまは6体並べられていることが多いのです。地蔵菩薩はまた、幼くして命を落とし、賽の河原で鬼たちにいじめられている子供たちを救うともいわれています。

お大師様が現在の鶴林寺がある山野で修行していると、地蔵菩薩を守りながら二羽の鶴が舞い降りてきたため鶴林寺というのが寺名の由来だそうです。
鶴林寺の御本尊の地蔵菩薩像はお大師様が彫ったと伝わり、国指定重要文化財です。秘仏となっていますが、四天王のひとり毘沙門天と、不動明王に守られた御前立ちを拝むことができます。

 

山深い20番札所鶴林寺には寺名の由来にもなった鶴の伝説と、四天王像や三重塔などの貴重な文化財があります。たどり着くのに苦労するお寺ですが、体を休めながら、じっくりとお寺の雰囲気や建築物を楽しむのがおすすめです。

 

【20番札所】  霊鷲山 宝珠院 鶴林寺(りょうじゅざん ほうじゅいん かくりんじ)
宗派: 高野山真言宗
本尊: 地蔵菩薩
真言: おん かかかび さんまえい そわか
開基: 弘法大師
住所: 徳島県勝浦郡勝浦町生名鷲ヶ尾14
電話: 0885-42-3020

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。