別格20番札所大瀧寺は標高946mの大滝山の山頂付近に位置し、その道のりは険しい遍路ころがしの一つ。いくつかある登山道の中で、徳島/香川の県境になっている稜線を歩いて、寺を目指します。
登山口
高松方面から来る場合、国道193号(空港通り)を南に下って高松空港の近くを通り、塩江温泉郷(しおのえおんせんきょう)を過ぎて、徳島県との県境地点。道路標識上では「徳島県」に変わってすぐの右側丘の上に、こちらの神社があります。こちらの境内から別格20番札所大瀧寺(おおたきじ)がある大滝山へ通じる登山道が延びています。
登山口の標高は約260mで、大滝山は946m(大滝寺は910m)。結構な高低差があることが、数値や実際見ての景色からわかります。
【「金毘羅神社」 地図】
大窪寺からの続くストーリー
こちらは国道193号・377号が分岐する三叉路になっていますが、右折して後者の道を北へ向かって進むと88番札所大窪寺(おおくぼじ)へ行くことができます。
実際、四国八十八ヶ所霊場と別格二十霊場を同時に回っているお遍路さんは、大窪寺からここまで歩いてやってくると聞きますが、そこから当地まで距離が約9km。それから急坂登山。そして大滝山上で宿泊することができる場所は無いので、脇町(わきまち、徳島県)か塩江(しおのえ、香川県)どちらかに下山しなければいけません。大窪寺から大瀧寺へ全て徒歩で完結しようとすると、丸一日かかるかなりハードな行程を覚悟する必要があります。
バス利用であれば「さぬき市コミュニティバス」がこの近くまで運転されています。
「志度多和線」の「中山」という終点の停留所で下車すると、そこから徒歩数分でこちらの神社がある場所へ来ることが可能。
そのバスは、
志度-長尾-前山-第88番大窪寺-中山
というルートで運行されているので、前日に大窪寺の近くに宿泊していれば、翌日コミュニティバスの1便に乗車して「中山」まで、それから大滝山登山が可能です。けれど下り始発便で来て、寺へ行って戻って登り終便で戻ろうとするのは、バスの運行ダイヤ上なかなか難しいです。その辺りはバスの時刻表をにらめっこしながら計画を立てられるようになさってください。
さぬき市コミュニティバス志度多和線→https://www.city.sanuki.kagawa.jp/life/conference/route/green
以前は国道沿いに「穴吹-高松」線という、県をまたいで運行される珍しい路線バスが走っていたのですが、平成24年(2012)4月に休止、翌年廃止。現在は塩江から脇町の県境区間は公共交通機関が運行されていません。
阿讃國境の峠にまつわるお話
阿波(徳島)と讃岐(香川)の國境の道「猪之鼻越え/現国道32号」や「三頭越え/現国道438号」等は、古くから阿波から金毘羅詣(こんぴらもうで)の参詣道であり、特に三頭越え(さんとうごえ)はこんぴらさんへの最短ルートとして最も賑わいました。
またかつて阿讃両國には「借耕牛(かりこうし)」と呼ばれる、両国に無いものを補い合う相互扶助が行われていましたが、昔は藩を越えた行き来は自由に行えるわけではないので、それぞれの峠が阿讃両民の待ち合わせ・牛の受け渡し場所になっていたようです。
こちら国道193号の前身は、脇町から高松へ抜ける阿讃國境の一つ「清水峠(しみずとうげ、標高325m)」
元々、美馬地域から讃岐への往来は清水峠より西にある相栗峠(あいくりとうげ/577m)の方が歴史が古い。清水峠は相栗峠と比べて距離はやや長いけれど勾配が緩いため、後年国道整備が行われ、地域における阿讃連絡ルートの主役が逆転した経緯があります。
現在の国道193号の役割は「美馬-高松」間の連絡のほか、「徳島-丸亀・琴平」に向かうにあたり利便性が高いルートとして、頻繁に大型車が往来する道になっています。
登山の前に「こんぴらさん」に手を合わせて、順路である建物向かって左側へ進みます。
登山開始
「遍路道」と書かれた道しるべをここでも途中でも見ることができますが、いずれも「へんろみち保存協力会」規格のものではないようです。改訂が重ねられている現行の地図を確認したわけではありませんが、手持ちの遍路地図にこのルートは表示されていません。
看板で記されている表示内容から、どちらかといえば稜線歩きを楽しむ登山の切り口で整備や保全が行われている印象を受けました。
入山してすぐ上りが始まりますが、最初は勾配が緩い坂道が続きます。四国全域の遍路道沿いの木々は圧倒的に植林が多いのですが、ここは嬉しい自然林。雰囲気はとても明るい。
この道が徳島・香川をわける県境になりますが、行動ログを取りながら進んで最終的にルートを確認したら、ほぼ全てのルートが県境に沿った道を経由していました。
地図の等高線を見るに最初は山のすそ野のような地形ですが、途中から線の幅が狭くなる。すなわち勾配が急になります。
実際歩いてみると全くその通りで、最初の頂上に上がるまでの登りが一番きつい。
全体を通してあまり道の損傷はみられません。ルートが谷間などを経由するのではなくずっと稜線、すなわち常に付近では一番高いところを経由しているからだと思われます。もちろんこの時たまたま何もなかっただけで、天候等によってはその限りではない可能性もあります。
道の状況について大瀧寺が管理やルート推奨を行っているわけではないので、そちらに尋ねるのは遠慮した方が良さそうです。
山の県境を歩いたり越えたりすると、片方→自然林、もう片方→植林、のように、山の管理方法や陽当たり等の影響により植生が異なる場合がよくあります。けれどここではそれはあまり感じられません。勾配のきつさはともかく、雰囲気は素敵な原生林の道です。
あまり景色が変わらずだんだん単調になってきた感がありますが、最初の頂上まではもうすぐです。
徳島県と香川県の間には讃岐山脈(阿讃山脈とも)が連なっていますが、この道はその山脈を東西に横断するルートの一部。66番札所雲辺寺(うんぺんじ)も同じ讃岐山脈にあるので、西へ向かえば理論上はお寺に行くことが可能です(歩いたことはありません)。
一つめの頂上
木々の間から(感覚的に)遥か向こうに見える鉄塔の辺りが、別格20番大瀧寺・西照神社(にしてるじんじゃ)がある地点。
全体の距離が「10」だとしたらこの地点は「4」
これまでの道のりよりここからの距離の方が長いわけですが、「前半…距離が短くて勾配がきつい」「後半…距離が長くて勾配が緩い」の違いがあります。
「見えたー!」「まだあんなに!」
印象は人それぞれだと思いますが、あそこまで行けば今回の登山の目的達成です。
これまでもここからも阿讃県境の稜線歩きであることには変わりませんが、一つ目の頂上から先は展望が開ける部分が多いので爽快感が増します。アップダウンもこれまでよりはマシになりますが、
所々にこのような上り坂があるので、最後まで油断は禁物です。
大滝山上到着
これは登山を行っていると時々出くわすシーン。山の中に巨大な人工建造物があるわけですが、変化という点で嬉しくなります。
大瀧寺へ直接向かう場合は、この車道参道を進まず合流した県道を徳島県側へ回り込むと、寺の入口があります。もしくはこの車用の参道を進んで西照神社を参拝。その後、境内から下りる階段を経由して、大滝寺へ行く順路も考えられます。
ここではどの参拝ルートが正しいのかがわかりませんが、元々両社は神仏混淆の「西照権現(にしてるごんげん)」と呼ばれた山岳信仰寺院。大瀧寺に祀られている本尊が「西照大権現(にしてるだいごんげん)」なのはその名残です。せっかく苦労してこの場所を訪れたのであれば、ぜひ両者ともご参拝ください。
所要時間と失敗談
特に大きな休憩は取らずきびきび進みましたが、ふもとから頂上まで約3時間半かかっています。
<仮コースタイム>
9:00入山
12:30-13:30西照神社/大瀧寺
17:00?下山
同じ道を戻る場合、登りと下りで同じだけ時間がかかることは無いと思いますが、一日で登って下りようとするとこれくらいのタイムテーブルになります。かといって山の頂上に宿泊施設はないので、必ず下山しなければなりません。
今回はあろうことか12時に入山したので、山の上で薄暗い時間になりました。
来た道を下ると山の中で真っ暗になるのでそれは危険と判断して車道を下りましたが、この車道が距離が長く下山途中で日没。ふもとの「夏子ダム(なつごだむ)」まで下りてもまだゴールではなく、登山口に停めてある自家用車を回収しに戻る必要がありました。
けれど交通量が多く歩道が無い国道193号を歩いて戻るのは危険。そこで夏子ダム休憩所に留まってタクシーを利用して登山口へ戻りました。その場所はタクシーの営業所からも近くないので、呼んだタクシーに来てもらえるまでこれまた小一時間。ありったけの防寒着を来てタクシーの到着を待ち、来たタクシーに乗って登山口に戻った時には20時を過ぎていました。
大滝山へ歩いて登ろうとすると非常に時間がかかる上、下山も自力で下りる必要があります。このような失敗が無いよう、阿讃稜線ルートを歩いて上がる場合は時間の余裕を十分持って、下山をどうするかまで考えてから入山されるようにしてください。
【「別格20番札所大瀧寺」 地図】