【西教寺奥の院】火山中腹に鎮座する弘法大師が刻んだ磨崖仏と穴薬師

香川県さぬき市の番外霊場西教寺の参拝を経て、弘法大師が彫刻した伝承のある磨崖仏を拝みに、奥の院へと向かいます。火山の中腹にある奥の院まで、西国三十三観音霊場のミニ霊場を巡りながらのプチ登山です。

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西教寺奥の院がある火山へと向かう

西教寺境内を散策したあとは奥の院へと向かいます。奥の院があるのは、お寺の裏にある「火山(ひやま)」の中腹。途中まで車道が通っていますが、標石によると1キロ弱の距離なので歩いていくことにしました。火山は標高160m程度の山で、高さはほどほどです。体力的には、それほど負担はないと思います。
※西教寺境内の様子は、以下リンクの記事でご紹介しています。

【西教寺】弘法大師空海とのつながりが色濃く遺る四国八十八番前霊場

西教寺奥の院標石

奥の院を示す古い標石には八丁と書いています(八丁は約870m)。

西教寺火山展望遊歩道

奥の院のある火山には遊歩道が整備されています。

 

登山道までの様子

西教寺を出て、お寺に向かって左の道を進むと平坦な田舎道に入ります。車が楽に通れる道幅で、視界もひらけて気持ちのいい道です。奥の院までの道は「西国三十三観音霊場」の写し霊場になっており、丁石とともに、奉納された石仏が道の脇に並んでいます。

西教寺奥の院への道

歩きやすくてのんびりとした田舎道。

西教寺奥の院丁石

道の途中で出会う西国三十三観音霊場の写し仏と丁石。

道の途中から、未舗装の登山道に入ります。奥の院までは舗装された道路も通っているので、どちらを選ぶのも自由です。

西教寺奥の院_旧遍路道

登山道の入り口がこちらで、気をつけないと見過ごしてしまいそうです。

 

奥の院への登山道を進む

未舗装の登山道は若干の急坂があるものの、危険な箇所はなく、全体的に手入れされている印象です(なぜか最後の方が薮道になっていたので、道の状況は時期によって違いがあるかもしれません)。道自体には不安要素はないのですが、猪が土を掘り起こした痕跡が見られたり、蜘蛛の巣に引っかかることも多かったので、杖があると安心できると思います。

西教寺奥の院上り道

木造の階段が部分的に整備されているので道に迷うことはありません。

西教寺_西国33観音霊場写し

ミニ霊場には一ヶ所に何体もの仏像が奉納されています。

西教寺奥の院薮道

徐々に道が藪に覆われてきて最後の方は藪漕ぎで蛇がいないかと戦々恐々でした。

 

奥の院の磨崖仏にご対面

登山道を登り終えると、山の中腹にある奥の院に到着です。低い山なので10分〜15分程度で登れます。奥の院からは魅力的な眺望に出会えます。

西教寺奥の院の眺め

ずいぶん高いところに登ったかのような眺めです。

お大師さまが彫ったと伝えられる磨崖仏は、奥の院のお堂の背後にあります。光背と仏様のお顔がくっきり見えますが、下半身部分は剥落しているそうです。なんとなくゆるーい表情をされた仏様で、気持ちも和みます。

西教寺磨崖仏

お堂背後の岸壁に彫られた磨崖仏と拡大写真。

 

お堂の中の巨石に刻まれた仏像を拝む

奥の院には「穴薬師」と呼ばれるお堂があり、剥き出しの巨石に彫られた仏像を拝することができます。

西教寺奥の院堂内

お堂の中の巨石は迫力があります。

西教寺奥の院仏像

岩壁に彫られた仏像が多数祀られていました。

ここで、さぬき市教育委員会が設置した解説看板から、奥の院の解説部分を転載いたします。

西教寺奥の院

西教寺の北西、標高160mの火山中腹に整形された平坦地に位置し、凝灰岩の岸壁に磨崖仏が彫刻されている。 堂の西側の巨石に彫刻されている磨崖仏は弘法大師が一夜で掘ろうとしたが鶏が鳴いたので中止したとする伝承をもつ。
像は光背をあらわす円形のくり込みをつくり。上半身が半肉掘りされている。下半身は岩盤が剥落しており、本来の形状は不明である。胸部には合唱のような表現が見えるが、自然の割れ目か人為的な彫刻かはっきりとしない。古くから薬師如来とされているが像の特徴からは薬師如来と断定することはできず、大日如来など他の如来像となる可能性もある。制作時期は像の形から平安時代後期から鎌倉時代前期が推測される。
この磨崖仏の東にある堂は穴薬師と呼ばれ、堂内奥の巨石に小石仏が多数彫刻されている。また、磨崖仏から上の段にも平坦地があり、凝灰岩の岸壁に毘沙門天像や大日如来の梵字が彫刻されている。これらは磨崖仏から後の時代に追刻されたものである。 -さぬき市教育委員会

 

さぬき市教育委員会の解説によると、今見てきた磨崖仏や穴薬師の他にも仏像彫刻があるとのこと、年代は別々ですがこの地に仏像を掘り納める伝統があったことがうかがえます。薬師如来と伝えられる磨崖仏も大日如来の可能性があるなど、彫刻された年代も含め、伝承と異なる部分はあるようですが、西教寺奥の院は歴史ある霊場であり、弘法大師信仰を今日に遺す貴重な聖地であることには変わりないかと思います。

また、同看板によると、この火山は、柔らかく加工のしやすい凝灰岩質の山で、平安時代より採石場として利用された歴史があり、産出した石は、四国から近畿、中国地方にまで流通していたそうです。この地方(さぬき市大川町)を荘園として治めていた京都安楽寿院の石仏にも、火山の石が使用されており、平安時代には都との結びつきも深かったとのこと。
この火山が信仰の場所として今日まで遺ってきたのは、仏像や五輪塔など神聖な用途で使われる石の産出地であったことや、都と結びつきが深かったことなども影響しているかもしれませんね。

 

下り道は舗装路を利用

火山の遊歩道はさらに続きがあるのですが、奥の院が目的だったので、そのまま下山することにします。ちなみに遊歩道を進むと、瓶盥(びんだらい・びんだらえ)という池にたどり着きます。土佐の長宗我部元親が讃岐国に攻め入り、火山に隣接する雨滝城を攻め終えた兵士が、池で頭(鬢/びん)を洗ったことに由来する池とのことです。

西教寺奥の院火山道しるべ

瓶盥への分岐を示す道しるべ。

瓶盥への道には進まず、そのまま山を降ります。下り道も景色がひらけて素敵な眺めです。

西教寺奥の院下り道

舗装路が続きますが車は入れません。

舗装された道沿いにも、新しい西国三十三ヶ所観音霊場の写し霊場がありました。

西教寺新しい33観音

記念碑には平成12年完成と書いていました。

西教寺奥の院帰り道

しばらくすると車道に出るので左へ進み、すぐに元の道が見えてくるので不安なく下山することができました。

車道側には奥の院への道しるべが設置されていますが、見落としやすい上にその先は車が通れません。駐車するスペースもわずかしかないので、西教寺の駐車場に止めてハイキングも楽しみながら奥の院に向かうのがおすすめです。

西教寺奥の院に入る道

車で通ると見落としてしまいそうな道しるべ。

西教寺門前の大木

2本の大木が印象的な西教寺の門前には参拝者とお墓参り用の駐車場があります。

 

西教寺から奥の院へは、徒歩で往復1時間程度で巡り終えることができます。登山道は木陰が気持ちの良い道でなので、野生生物への対策を十分に行えば、歴史を感じる楽しい散策道になるでしょう。西教寺〜奥の院は、コンパクトな中にバラエティに富んだ体験ができるので、気軽な気持ちで訪れてみてはいかがでしょうか。

 

【「西教寺奥の院」 地図】

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この記事を書いた人

札幌で生まれ育ち、東京にて都市計画コンサルタントに従事。結婚を機に香川に移住し、地方自治体勤務などを経て現在に至る。お遍路文化を通じた新しい四国の楽しみ方を模索しています。日本酒とワインが好き。