【まんのう町】阿讃國境の三頭トンネル手前に立つ県境越えの方向を示す標石

香川県と徳島県は陸上で接しているため両県をまたぐ県境の道がいくつか存在します。現在の香川県まんのう町と徳島県美馬市をつなぐ三頭峠を越える道を示す標石が、まんのう町側の峠道入口にあたる場所に残されています。

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三頭トンネル手前の標石

国道438号三頭トンネル手前に、かつての三頭峠越えの道の順路を示す標石が残されている。

 

かつての阿讃國境「三頭越え」

三頭トンネル手前の標石_正面のみの標石

こちらの標石で字が彫られているのは正面のみ。


<正面>
右指差し
右 さんとふ
左 むら
(それぞれに)道


さんとう道→三頭道、三頭峠へ向かう道
むら道→現在の香川県まんのう町琴南地区

香川県と徳島県の県境の多くは阿讃山脈(あさんさんみゃく)に沿って存在しますが、その中で香川県のほぼ真ん中で徳島県と県境が接する場所にあるのが「三頭越え(さんとうごえ)」もしくは「三頭峠(さんとうとうげ)」です。峠に祀られる剣霊(けんれい)・山王(さんのう)・清竜(せいりゅう)の三社を合わせて「三頭神社」といい、この地域を「三頭」という地名で呼ぶようになったそうです。
三頭越えは金毘羅大権現(現・金刀比羅宮)へ向かう金毘羅街道の一つであり、とりわけ阿波國↔金毘羅の最短ルートになることから観光での往来はもちろん、両地域で必要なものを運搬して受け渡す物流ルートでもあり江戸時代から多くの人々が行き交いました。徳島から最短ということは淡路島や和歌山などの近畿地方南部から徳島に上陸する者にとっても金毘羅大権現への最短ルートにも成り得ます。

こちらの石は、字が彫られているのが1面のみで、本サイトでたびたびご紹介している中務茂兵衛による遍路標石のように建立年度や人物は記されていません。左の方向に「こんぴら」と書かれていても良さそうなものですが、その部分は削れたり消えてしまったりしたかもしれません。

 

現代の阿讃國境「三頭トンネル」

三頭トンネル

徳島県美馬市と香川県まんのう町を結ぶ全長2,648m(徳島県側1,483m・香川県側1,165m)の三頭トンネル。

現代の三頭越えは国道438号三頭トンネルを車で数分で通過することが可能です。トンネルの設置は比較的新しく平成9年(1997)3月のことで、それまで、古くは峠越えの古道が、トンネルが開通するまでは一車線幅の林道が県境越えを担っていました。

三頭トンネルの開通によって、峠区間は片側一車線が確保され一般車両が不安なく通行することができるようになりました。トンネル開通の翌年に明石海峡大橋が開通して淡路島経由の本州四国連絡ルートが確立されると、徳島自動車道を経由して美馬インターチェンジで下りて国道438号を徳島県側から三頭トンネルを通って金刀比羅宮を目指す動きが生まれました。
また物流面でも、徳島県↔香川県中讃・西讃の最短ルートにもなり、物資を輸送するトラックが往来するようにもなります。三頭トンネルの開通は乗り物とルートは若干違えど、かつての三頭越えが現代に復活した瞬間でもありました。

平成9年(1997)3月 三頭トンネル開通
平成9年(1997)12月 美馬IC開通
平成10年(1998)4月 明石海峡大橋開通
※この時点で高松自動車道がほとんど開通していなかったので、こんぴらさんを目指すには徳島自動車道経由のほうが早かった。

なお、三頭トンネルとその前後道路は制限速度が40km/hなので気を付けてご走行ください。

 

三頭越え古道の入口と大師堂

三頭トンネル手前の標石_古道への分岐を示す

写真右奥に見える白い手すりの橋を渡ると、三頭峠への山道が始まります。

三頭越えの古道へ香川県側である琴南(ことなみ)方面から来る場合は、三頭トンネル方面へ行かずこちらの標石がある地点で右に曲がります。

三頭越え登山口_久保谷の大師堂

三頭峠への登山口にあたる場所にお堂があり、地名を取って「久保谷の大師堂」と呼ばれます。

境内に少しおじゃまして祀られている石仏さまを観察させてもらうと、堂名のように弘法大師であったり阿弥陀三尊(阿弥陀如来、無量寿如来)、金毘羅大権現など主に当地周辺にゆかりがある神仏でした。おそらく最初から全ての神仏がここに集合していたのではなく、集落や峠道などに点在していたものをこの場所に集めて管理するようになったのかな、という印象を受けます。

金毘羅街道として機能していた時代は峠を越えて来た旅人、これから峠を越える旅人が一息つく場所にあたり、すなわち茶店のような機能もあったのではないでしょうか。旅人同士や店主との他愛もない会話から旅の情報交換、神仏信仰の話、かつてそのようなコミュニティがこの場所にあったことを想像することができます。

三頭峠までの距離を示す道標

登山口から三頭神社がある三頭峠までは距離1,850m。

久保谷の大師堂 標高約440m
三頭越え 標高約795m

平均すると1m進むごとに約20cm標高が上がる計算です。もちろん勾配は一定ではないので険しい道のりであることに変わりはありませんが、峠までの所要時間は約1時間ほどでしょうか。

今回は峠越えをしておりませんが、三頭越えの古道歩きを楽しむ場合は、徳島県・香川県どちらから入山するにしても公共交通機関が存在する場所ではないので自動車が必要です。両県とも三頭トンネル手前に自家用車を駐車することができる広さのスペースがありますが、そこが駐車可の場所かどうかは不明です。


①三頭峠へ行き同じ道を戻って車がある場所へ
②三頭峠を越えてから三頭トンネル反対側の入口へ下山してトンネルを経由して車がある場所へ
③久保谷(香川県側)から三頭峠へ行きそこから稜線づたいに竜王山を経由し、林道に下りて車がある場所へ


①は確実ですがちょっと面白味に欠けます。
②は所用時間は早いのですが、トンネルを歩行する時間が長く大型車両の往来が多いので環境があまりよくありません。
③はもれなく香川県最高峰の竜王山(1059m)に立つことができ退屈はしませんが、相応の準備身支度と時間の余裕が必要です。

 

三頭越えは、現代では道としての機能はほぼ失われており、お遍路さんが立ち寄るような場所でもなくなっていますが、かつてはお遍路とも関連が深かった金毘羅大権現に参拝に向かう旅人がたくさん行き来した貴重な史跡です。地域での弘法大師信仰を現代に伝える大師堂もありますので、このような古道に着目してみると、かつてのお遍路さんの動きを考察することにもつながるかもしれません。

※かつて徳島県と香川県の間で盛んに行われ、三頭越えでも多くの行き来があった「借耕牛」という習慣に関して、以下リンクの記事でご紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。

【まんのう町】かつて存在した香川と徳島のWin-Winな関係「借耕牛」

 

【「三頭越えを示す標石」 地図】

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この記事を書いた人

四国遍路案内人・先達。四国八十八ヶ所結願50回、うち歩き遍路15回。四国六番安楽寺出家得度。四国八十八ヶ所霊場会公認先達。 高松市一宮町で「だんらん旅人宿そらうみ(http://www.sanuki-soraumi.jp/)」を運営。