【31番札所竹林寺】杮葺の屋根が美しい本堂と本式塔建築で再建された五重塔

高知県高知市の五台山にある31番札所竹林寺。屋根の反りや曲線が美しい本堂と、高知県内唯一の五重塔を、寺院建築の視点から解説します。400年近く前に建造された本堂と、築40年あまりの五重塔のそれぞれの歴史も興味深いです。

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屋根に注目すべき国指定重要文化財の本堂

31番札所竹林寺の本堂は、寛永22年(1644年)、土佐2代藩主の山内忠義(やまうちただよし)公により建設されたと伝わり、国の重要文化財に指定されています。1644年といえば江戸時代の初期なので400年近く前になります。山内忠義公は「功名が辻」で有名な山内一豊公の甥っ子にあたります。
本尊が文殊菩薩さまということで「文殊堂」とも呼ばれています。

本尊の文殊菩薩像は、竹林寺を開創した行基の作と伝わり、「日本三文殊(そのほかに、京都・切戸文殊、奈良・安部文殊)随一」の霊像と尊ばれていて、50年に一度の御開帳の秘仏ですが、2023年は開創1300年の記念の年にあたるため、2023年4月15日~5月14日(日)の1ヶ月間は特別に御開帳され、このほかにも記念行事がいろいろ開催されるそうです。

竹林寺_本堂

寺院のお堂をまじまじと見ることは少ないかもしれません。竹林寺のこの本堂を見て、どのようなことを感じられますか?

本堂の建築物観点での形式的な概要説明をしてしまうと、様式は室町時代様式、屋根形状は一層入母屋(いりもや)柿葺(こけらぶき)、五間四方(ごけんしほう)、などとなりますが、一般的にはあまり馴染みのない呼称です。
様式や形式よりも、ぱっとこの建物を見たときに、なんだか美しいな、とか、軽やかな感じがするな、といったイメージや感覚を大事にしてほしいと思います。
そして、なぜ美しく見えて、なぜ軽やかに見えるのか、その理由を理解すれば、四国八十八ヶ所霊場を何日もかけて巡礼するなかで、建物を鑑賞する、という楽しみや余裕が出てくるかもしれないと思うのです。
お遍路をまわる目的は、人それぞれだと思いますが、せっかくそれぞれの札所まで足を運ぶのですから、道中で目にすることのできる美しい四国の自然や海、親切な人たちとの出会いと同じように、建物の良さを味わうことができれば、お遍路がさらに楽しくなるかもしれないと思います。

本堂が美しく見える理由のひとつは、屋根の曲線にあります。隅へいくほど反りあがり、鳥が翼を広げたように見えます。とはいえ、どこの寺院の建物でも、隅は同じように反っています。反り具合に違いはありますが、反っていない寺院の建物は少ないかほとんどないと言っていいと思います。
竹林寺の本堂がより美しく見える理由は、杮葺のために屋根のラインがより強調され、さらに扇垂木(おうぎだるき)という工法だからです。
※屋根の形状や造作に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方①】反りや曲線の意味と機能美

【寺院建築の楽しみ方③】美しさは軒裏に集約される

【寺院建築の楽しみ方④】屋根の種類とその形状からわかること

 

杮葺と扇垂木について簡単に説明します。

杮葺というのは、木材の薄い板を並べた屋根のことです。屋根というと瓦のイメージがありますが、実は瓦が一般的に普及したのは江戸時代も後期になってからで、それまでは木の皮や板で屋根とする方が多かったのです。茅葺(かやぶき)や檜皮葺(ひわだぶき)など、瓦以外の屋根は古くからありまり、現在文化財に指定されている伝統的な木造建築物には、瓦だけでなく茅葺、檜皮葺、そして杮葺の屋根の建物も多く含まれています。
なかでも桧皮葺と杮葺は似ていますが、桧皮葺はヒノキの樹皮を使うのに対して、杮葺は薄くスライスした木の板で、どちらも瓦と比べて屋根の厚みを薄くすることができ、軒先や隅のラインが下地に近い形になります。

扇垂木とは、屋根を支える軒裏(のきうら)の垂木(たるき)が軒先へ向かって放射状に配置され、うちわや扇子のような形になることで視覚的に隅の方が広がって見え、結果的に軒の反りが強調されるという技法です。
この扇垂木は、真っすぐなノーマルの垂木と比べて手間がかかるため、財力に余裕のある施主しか発注できません。

扇垂木の例

扇垂木の例。屋根の反りや曲線、軒裏の細かな造作が、寺院建築の見どころです。

 

本式塔建築で再建された五重塔

竹林寺の五重塔は、昭和55年(1980年)、高さ31m、総ヒノキ造り、鎌倉時代初期の様式をもつ五重塔として復興再建されました。それより100年近く前の明治32年(1899年)の台風により倒壊して以来、再建を目指していたそうです。
高知県内に存在する五重塔は、この竹林寺のものが唯一です。

竹林寺_五重塔

桜や紅葉など季節によっていろいろな姿を見せてくれる竹林寺の五重塔は、高知のシンボルになっています。

築40年あまりという、社寺建築としてはまだ新しい五重塔ですが、純木造の本式塔建築で、令和の時代となった現代では法令的にも技術的にもほぼ建築不可能といえる塔建築物です。
現在の建築基準法は、このような伝統建築の工法を前提としていませんので、新築するのは厳しいのですが、40年前はなんとか法令と譲歩しあい歩み寄って実現したものと思われます。
※昔の建築工法に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方②】昔はどうやって巨大な建物を建造したのか

【寺院建築の楽しみ方⑤】地震による倒壊を防ぐ基礎・土壁・接合部の工夫

 

寺院建築の美しさやいろいろな技術をみることができる31番札所竹林寺の本堂と五重塔。ひとつの寺院の境内に、歴史が大きく異なる建物が併存するのも、お寺の様々なストーリーを感じさせます。
観光地としても人気な竹林寺で、建物に着目してみると、また新しい発見があることでしょう。

 

 

【31番札所】  五台山 金色院 竹林寺(ごだいさん こんじきいん ちくりんじ)
宗派: 真言宗智山派
本尊: 文殊菩薩
真言: おん あらはしゃ なう
開基: 行基菩薩
住所: 高知県高知市五台山3577
電話: 088-882-3085

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。