【寺院建築の楽しみ方①】反りや曲線の意味と機能美

寺院にある建築物は特徴的で、日本の寺院には千年をこえる昔の木造建築物が残っているほどの歴史があります。寺院建築の楽しみ方をご紹介するシリーズの第一弾、特徴のひとつである「反りと曲線」の意味と機能美について解説します。

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「そうだったのか」お寺さんの建物

四国八十八ヶ所霊場の札所は文字通り88ヶ所の寺院で構成されていますが、すべてに建物があります。しかも、どの寺院にも本堂・大師堂が必ずあり、どれも小屋のような簡易なものではなく立派な木造建築です。
本堂はそれぞれの寺院のご本尊(如来さま、菩薩さま、明王さまなど)をお祀りし、大師堂は弘法大師さまをお祀りしているのは、お遍路を経験されている人にはいうまでもありませんが、寺院境内にはその他のお堂や多宝塔などの建築物があったりします。大きさや形状に違いがあり、建てられた目的もそれぞれ変わってきます。

寺院の建物は、仏さまをただ雨風から守るだけでなく、色々な意味や進化があって今の形になっています。これから、寺院建築の意味や魅力、楽しみ方、時には技術的なことも含めてご紹介していければと思います。
寺院の建物がどうしてこうなっているのかということを理解すれば、お遍路で札所を訪れたときはもちろん、近所のお寺に少し立ち寄るだけでも、新しい発見や楽しみが増えることでしょう。

寺院建築_軒先

先人たちが長い時間をかけて受け継ぎ磨いてきた寺院建築の術は、みればみるほど、知れば知るほど、奥深さがあります。

 

なぜ曲線になっているのか

四国八十八ヶ所霊場の札所に限らず、神社仏閣の建物は程度の差はあれ、反りや曲線が用いられています。屋根だけでなく、虹梁(こうりょう)と呼ばれる梁(はり)も曲がっていたり、丸みを帯びた彫刻がされていたり、柱も丸い形状になっていることもあります。
一般的な住宅やマンションでは直線的になっているのが一般的な部材が、寺院では曲線的になっていることが多いです。

木材などの材料はまっすぐに切って製材したほうが効率的で経済的ですし、大工さんの手間もかかりません。なのにわざわざ手間も時間もかけて曲線にするのは、寺院の建築物が人間のためではなく神様や仏さまのための建物だからです。
もともとは、仏教は1000年以上昔の飛鳥時代に中国から輸入された宗教ですが、その際に寺院の建築技法も伝わってきました。中国や韓国の寺院も曲線的で、屋根などは日本の建築物よりも反りあがっていることが多いです。

しかし、単純に仏さまのほうが人間より偉いからお金や手間・時間をかけて作っているのではなく、仏さまや神様に対するリスペクトがあるというのが、曲線にする理由であると思った方がよいでしょう。
日本人は昔から、仏さまや神様は「山」にいらっしゃると漠然と感じていました。神社では山そのものがご神体になっていることもあります。
寺院でも、高いところにいる仏さまが山から下界を見ているというイメージで、仏教の世界観でも仏さまは須弥山(しゅみせん)の上方にいるとされ、お堂の内陣には須弥壇(しゅみだん)があり、その上に仏さまを安置しています。
つまり、寺院や神社の建物は山に見立てられており、屋根は山の稜線にあたるイメージのため、ふもとから山頂に向かって曲線になっていることを表現していると考えられます。これらの説明には諸説ありますが、寺院の名称には宗派に関係なく「〇〇山」という山号を持つことを考えると、納得できます。たとえば1番札所は「竺和山・霊山寺」、75番札所なら「屏風浦五岳山・善通寺」という山号が付いています。

寺院建築_関帝廟

中国寺院の建造物は、そう言われてみると、反りが強かったなと思い出されるのではないでしょうか。

 

なぜ反りあがっているのか

寺院建築の屋根は、端へ行くほど反りあがっています。なぜでしょうか。
先ほどご紹介した曲線を作るためであったり、また、美しく見せるためであったり、あるいは、大きく見せるためといった理由もあるかもしれません。
しかし現実的な理由としては、軒が下がるのを防ぐという目的もあります。

寺院の建物は、一般的な建物と比べて軒(のき)が深くなっています。つまり、壁より屋根が出ている部分が長くなるように作られています。
どうしてかというと、建物を守るためです。雨が多い日本では、雨水が壁に当たりやすく、さらに寺院の場合は天井や建物が高いため、風の影響で壁が雨に濡れやすくなり、従って腐りやすくなってしまいます。
そのため、できるだけ壁のラインから屋根を張り出して軒を深くする必要があります。

一方で、軒を出せば出すほど重みがかかり、軒先が垂れて下がりやすくなります。特に隅の部分は、三角形の対角線になりもっとも負担がかかる部分です。隅に行くほど反りあがらせておけば、多少下がってもお辞儀するような垂れ方にはなりません。垂木(たるき)や桔木(はねぎ)という部材で支え、隅には隅木(すみぎ)という太い木材を入れることでなんとか克服しようと昔の大工さんは考えたのです。桔木というのは、屋根裏にある仕掛けのことで、軒先と梁とを天秤のようにつないで支えている、目には見えないものです。
長い歴史の中で、少しでも建物を長持ちさせるために工夫に工夫を重ねているのが寺院や神社の建物です。
その結果、厳しい自然環境にも関わらず日本には建造されてから1300年をこえると伝わる世界最古の木造建築(奈良・法隆寺の五重塔)が残っています。

寺院建築_多宝塔

寺院建築の知恵と技術が、建物を長い期間残すことができる土台となっています。

 

皆さんも、お遍路を回りながら、寺院の建物を鑑賞して、仏さまやお大師さまは人間が造った山の建物にいらっしゃるんだなと思い、同時に建物を造った名もない大工さんの苦労も想像して手を合わせてもらえたらと願います。

※寺院建築の楽しみ方に関しては、以下リンクの記事に続きますので、引き続きぜひご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方②】昔はどうやって巨大な建物を建造したのか

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。