【寺院建築の楽しみ方②】昔はどうやって巨大な建物を建造したのか

寺院には、かなり昔に建てられた大きな建物や高層建築が残っていますが、当時の職人さんはどうやって建造したのでしょうか。寺院建築の楽しみ方をご紹介するシリーズの第二弾、材料の調達方法や運搬方法、工法、技術に関して解説します。

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どうやって建てたのかイメージするとおもしろい

四国八十八ヶ所霊場の札所には、長い歴史をもつ建物がたくさんあります。なかには戦後に建てられた鉄骨や鉄筋コンクリートの建物もありますが、多くは木造で戦前に建てられており、建造から1000年をこえる奈良時代に建てられたものまであります。

一般の住宅などの建造物と比較して、広大な敷地に大きなお堂や坊を建てたり、五重塔のような高層建築物も存在します。トラックやクレーンなどの重機も一切ない時代にこれらの大きな建築物はどのように建てられたのでしょうか。

建てられた当時の工法や、現代では考えられない職人達の重労働や技術をイメージできると、寺院の建築物の見方が変わったり、新たな楽しみ方が増えたりして、おもしろいと思います。

寺院建築_四天柱

寺院建築には太くて丸い柱が使われていることが多いです。

 

巨木を運搬する

建物を建てるには木材が必要で、寺院の大きなお堂などでは大きな柱を築くために、山深くから巨木を伐りだしてこなくてはなりません。
巨大な本堂の柱ともなれば直径は2尺になるものもあります。1尺はおよそ30cmなので、2尺だと60cmです。しかも「芯去り(しんざり)」といって、木の幹の芯を外した状態で、柱の直径を満たさなければなりません。木の幹を上から見ると、下の図のような形で柱をつくるので、実際の柱の大きさの2倍以上の木の幹の太さが必要です。

寺院建築_芯去り

木の幹の芯を外して太い柱をつくるには、巨木を切り出す必要があります。

なぜ芯を外すのかというと、柱に芯があると割れたり曲がったりねじれたりしやすくなるからです。つまり、高品質の建造物を建てようとすると、芯去りの木材のほうが強度も耐久性も高くなるということです。

とにかく大きな木が必要で、伐採するにも昔はチェーンソーなどはありません。大きなノコギリや斧で、コツコツと人力で進めなければなりません。やっとの思いで切り倒しても、山深くから平地の建築現場へと運搬するという難関が待ち構えています。

まず運び出すための道を確保しなくてはなりません。周辺の木をある程度切り倒し、巨木の下に差し込んだ丸太をローラーにして人力で移動させます。トラックももちろんありませんから、一日で進める距離は限られていたでしょう。
巨木と同じように、基壇や石段、礎石に使う石などの資材も、運搬には気の遠くなるような人数と日数がかかったと思われます。

材料が揃ったら、礎石の上に柱を設置し、まず屋根組みを造り、防水できるようにしてから造作をしていく、という手順は現代の工法とさほど変わっていません。ただ膨大な人数と時間がかかる点が違います。

仏さまが大仏のような大きなものであれば、前もって仏さまを安置してから建物を作っていくことになります。

 

高層建築物の建て方

五重塔のような高層建築物は、昔はどのように建てていたのでしょうか。塔の建て方は1パターンではありませんが、スタンダードな手順を紹介します。

寺院建築_善通寺五重塔

このような高層建築を、クレーンもない時代にどのような手順で建てたのかを、現場で見上げながら考えるのも面白いものです。一度チャレンジしてみてください。

まず、柱を置くための礎石を設置したら、塔の中心に立てる心柱(しんばしら)を据え付けます。心柱は真ん中あたりで継いであることが多いのですが、それでも10m以上の長さがあります。滑車のようなものと縄を使って綱引きのように人力で柱を持ち上げ、据え付けます。
五重塔の各層の柱は、内部の心柱と仏さまを囲むように四天柱(してんばしら)が4本、外周部に側柱(かわばしら)が12本あります。四天柱を建てて貫(ぬき)を通して中心部を固めます。その後、側柱を建てていきます。1層目の柱を立てて、柱の上の組み物や天井の骨格作業を終えると2層目の同じ作業に入っていきます。

現在のような足場や仮設階段などの部材はありませんから、すべて丸太を組み上げた簡単な足場での作業になり、上り下りするだけでも大変な労力ですし、ヘルメットも安全ベルトもありませんから、現代よりも大きな危険を伴ったものと思います。それでも徐々に高い場所での作業を進めていきます。

この作業を5層目まで繰り返しながら、各層の屋根作業を同時進行で進めていくことになりますが、一連の作業をとにかく早く進めなければなりません。
現在なら鉄パイプの足場で囲い、仮屋根を付けて雨風をしのぎながら屋内作業できますが、当時は青空作業ですから、できるだけ雨が降らないうちに進めなければ、建築中の内部や部材が濡れて傷んでしまいます。昔の大工さんは建築技術だけでなく、1ヶ月先の天気を読むなど、天候の経験的予測も一定程度身に着けていました。

上層まで組み終わると、いちばん上の相輪(そうりん)という金具を取り付け、最後に建具などの仕上げ材を付けます。骨格や屋根がすべて組みあがって少し時間がたち、木材の収縮変形や全体の荷重を馴染ませてから最終の仕上げをしないと、寸法が狂ったり扉が開かなくなったりといった不具合が出るからです。これは五重塔に限らず、木造建築にとって重要なことです。
木造住宅には通し柱という考え方があり、1階と2階を1本の柱が通っていますが、実は五重塔の各層は柱が通っておらず、極端に言えば乗っているだけです。真ん中を貫いている心柱も、各層とは接触さえしていない場合が多く、下の礎石と頂点だけに触れているだけです。しかも固定されず、礎石には乗っているだけ(浮いている場合もあります)、頂点からは吊っているだけです。
もし地震で揺れたら、各層がそれぞれ別の方向へ動き、心柱が中心で揺れることによってバランスを取り、全体の衝撃を吸収しています。これだけの細長い建物なので、さぞかし強く固定してあるだろうと思いがちですが、実は正反対の考え方で、どうして1000年以上前の人がそんなことをわかっていたのか、不思議で仕方がありません。地震で五重塔が倒壊したという事例はほとんどなく、失われた場合の理由のほとんどが焼失です。東京スカイツリーはこの五重塔の工法の考え方を応用して建てられています。

 

ここまで、昔の寺院建築の材料の調達方法や運搬方法、建築工法をご紹介してきました。寺院を訪れた際に、昔の職人さんの知恵や技術、苦労を想像しながら建物をみてみることをぜひともおすすめします。

※寺院建築の楽しみ方に関しては、以下リンクの記事に続きますので、引き続きぜひご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方③】美しさは軒裏に集約される

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。