伊予国の終盤、65番札所三角寺の境内から山へと入っていく遍路古道があります。かつてのお遍路さんは皆訪れていたという「奥の院」と呼ばれる古刹「仙龍寺」へと続く道をご紹介します。
この道の始まりは65番札所三角寺から。
大勢のお遍路さんが訪れる札所の本堂前にありながら、現在この石に気を留める方はあまりいません。
地元での呼び名は "奥の院"。
当地が伊予国最後の札所となることから、一国無事に回れた報恩謝徳(報告と御礼)のため、お大師さまがいらっしゃる場所を目指していきました。
三角寺を出ると登り坂。
四国山地の前衛となる山を越えるので、それはそれは急な坂。
小一時間かけて登って行くと、峠部分にこのような案内板が立てられています。
「奥之院へ二十一丁」
「毎晩御本尊大師さまの御開帳や●●の修行があります」●わからない部分
「通夜をして御縁をむすびなさい」
通夜(つや)とは夜通し仏事に勤しむ事。
本来は葬儀前夜に行われる祭礼という意味だけではありません。
そうは言ってもひたすら勤行が行われていたわけではなく、想像ですが合間合間で寺院の方や巡礼者同士の会話や情報交換といったコミュニケーションが取られていたことでしょう。
そもそも三角寺自体が山上にあることに加えて、奥の院の立地が山の裏側となるため、日帰りが困難。
一晩泊めて頂くのに、ここは寺院なので、夜のおつとめがあったのです。
左から
「三角寺 五十一丁」 →65番
「奥の院 八丁」
「雲邊寺 五里」 →66番
「箸蔵寺 七里」
この場所が県境地域に位置するため、次の目標物と距離などの情報提供が不可欠。
今でこそスマートフォン等で自分の居場所から何からわかりますが、昔は紙さえ貴重なもの。
このような遍路石が貴重な手がかりだったのです。
地元で「奥の院」と呼ばれるこのお寺、正式名称は「仙龍寺(せんりゅうじ)」と言います。
四国別格20霊場の13番札所でもあります。
境内への入口ですが、ここからお堂へはまだまだ遠い。
通常「登った先が境内」であることが多いのですが、ここは「下った先が境内」。
あまり例がなく パッと思いつくところでは他に、45番札所岩屋寺へ向かう昔ながら遍路道でしょうか。
ここから先は一部崩落している危険箇所があり、歩行には注意が必要。
下って行くと途中に滝を見ることができます。
名瀑ここにあり! と言えど、存在はほとんど知られていません。
お不動さんが祀られていることから、ここが行場でもあることがわかります。
これが見えたらもう少し。
歴史ある名刹であることは誰も疑わないところですが、お寺というより古旅館。独特の雰囲気をもっています。
※仙龍寺のご紹介は以下リンクの記事に続きます。
【別格13番札所仙龍寺】「奥の院」と呼ばれる古刹は昔の旅館のような佇まい