【52番札所太山寺】鎌倉時代の様式美を現代に伝える大迫力の本堂と仁王門

52番札所太山寺は篤い観音信仰の聖地として昔から崇められ、寺院建築視点でも鎌倉時代の様式美を現代に伝える貴重な建築物が遺るお寺です。大迫力の国宝の本堂と、国指定重要文化財の仁王門を中心に魅力をご紹介します。

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愛媛県内最大クラスの木造建築である国宝の本堂

52番札所太山寺は739年に聖武天皇の命により行基菩薩が開山しましたが、それより150年前の587年には、真野長者が創建していたと伝わっています。歴代の天皇にも厚く信仰され、昔は広大な寺域と多数の堂塔を誇ったお寺です。

太山寺の仁王門から境内へ、さらに山門をくぐると、正面に見えるのは本瓦葺きの大きく重厚な本堂です。入母屋(いりもや)造り、正面7間奥行9間、嘉元3年(1305年)に再建されたもので、四国八十八ヶ所霊場の札所に現存する本堂では2番目に古いとされるものです。

太山寺_本堂

太山寺の本堂はなんといってもその大きさと迫力に圧倒されます。

遠目からすぐに目が留まるのは優雅な曲線を描く美しい屋根です。石段まで来ると木部が見えます。建物正面には8本の太い柱が構え、柱の上部にはシンプルな組物が軒を支えます。柱と柱の間には彫刻を施し、透慕股(すかしかえるまた)が配置された和様の建築ですが、組物や肘木(ひじき)のデザインは禅宗・大仏様です。折衷的な鎌倉時代初期の様式が残り、しかも規模が大きい (愛媛県内では最大クラスの木造建築)ことから、 国宝に指定されています。

本堂や他の建物も共通してほとんどが鬼面の鬼瓦になっています。どれもサイズは控えめで、全体の印象に奥ゆかしさを与えています。
寺院建築の中でも屋根は重要な割合を占めることはいうまでもありませんが、屋根の印象を決めるのは実は瓦ではなく、大工さんの下地に大きく左右されます。もっとも重要なのは屋根の曲線で、曲線を決めるのは屋根屋さんではなく大工さんだからです。言い換えると、屋根屋さんは基本的には大工さんが決めた屋根のラインに沿って瓦を並べていきます。瓦であれば、分厚いので多少の調整ができますが、銅板などの薄い板金の屋根では、より大工さんの下地のままになります。
大工さんはいきなり現場で屋根を作り始めるのではなく、「原寸」という、現場と同じスケール(大きさ)で一度下書きをしてシミュレーションしてからスタートします。自然で美しいアールを描くため、始点と終点を結んだ糸を重力でたるませたラインを引いて決めます。設計図では微妙な曲線を表すことはできませんので、最後は大工さんが経験上で建物の形や高さなどすべての要素を含めてどれがもっとも美しく見えるかを判断することになります。

 

四国八十八ヶ所霊場の札所のなかでも有数の篤い観音信仰の聖地

本堂の内陣では、正面の厨子は秘仏、左右両側の厨子に3体づつある6体の十一面観音菩薩立像は、台座共に平安時代後期の作で一木造り、国指定重要文化財です。

太山寺の御本尊は十一面観音菩薩で、四国八十八ヶ所霊場の札所のなかでも有数の篤い観音信仰の聖地です。お寺を創建した真野長者は豊後国(今の大分県)から大阪に向かう途中に海難に襲われますが、その際観音菩薩に救われたことからはじまります。
太山寺にある国指定重要文化財の6体の十一面観音菩薩立像は、歴代の天皇が納められたといいます。十一面観音は、千手観音や馬頭観音などと同じく聖観音菩薩(観自在菩薩)の変化バージョンですが、頭の上に10の面があり、あらゆる方向に顔を向け、苦しむ人々を深い慈悲で救う仏さまです。
奈良の聖林寺や滋賀の渡岸寺の十一面観音様が有名ですが、秘仏である太山寺の観音様は御前立ちを拝見する限り聖林寺の国宝の十一面観音様に似て非常に美しい仏さまです。

 

鎌倉時代の折衷様式を今に伝える仁王門

仁王門の建立も本堂と同じ約700年前、鎌倉時代の1305年です。

太山寺_仁王門

鎌倉時代の様式美を現代に伝える仁王門。

入母屋造の2間、単層で間口3間の八脚門で、連子窓(れんじまど)を用いていることや垂木が扇垂木ではなくすべて並行になっていることなど、全体の様式は和様建築ですが、組物や肘木の曲線は禅宗・大仏様に特有のRのような曲線です。こうした折衷タイプの特徴が鎌倉時代の様式を現代によく伝える歴史的建造物として、国の重要文化財に指定されています。
また、国指定重要文化財ではありませんが、境内中腹にある三の門も仁王門並みに堂々とした佇まいでバランスが良い建築物です。行きと帰りとで門を見比べてみてください。

 

52番札所太山寺には鎌倉時代の建築様式を現代に伝える規模が大きい貴重な建築物が遺っています。観音信仰の聖地として崇められてきた歴史とともに、建築物の迫力を感じてみてください。

 

【52番札所】  龍雲山 護持院 太山寺(りゅううんざん ごじいん たいさんじ)
宗派: 真言宗智山派
本尊: 十一面観世音菩薩
真言: おん まか きゃろにきゃ そわか
開基: 真野長者
住所: 愛媛県松山市太山寺町1730
電話: 089-978-0329

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。