【41番札所龍光寺】瓦型銅板屋根とセパレートの唐破風向拝が特徴的な本堂

41番札所龍光寺は、神仏習合の名残を色濃くのこし、本堂の唐破風向拝の造りが独特です。また、屋根には瓦の形状に加工された銅板が使われており、これは四国八十八ヶ所霊場の札所で唯一なので、ぜひ注目してみてください。

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神仏習合の名残を色濃くのこす41番札所龍光寺

愛媛県宇和島市三間町にある41番札所龍光寺の境内の入り口は門ではなく石の鳥居です。石の鳥居をくぐると狛犬が迎え、左手に本堂、右手に大師堂があります。その真ん中の石段をのぼると赤い鳥居の先に稲荷神社の本殿があります。
龍光寺は大きな石を組み合わせた石垣の上に境内があり、まるでお城のようで、上から見下ろす景色は絶景です。

稲荷神社は元々は龍光寺と一体で、ここで稲荷大明神を感得した弘法大師空海が創建したとされていますが、明治の神仏分離令によって寺と神社がわけられました。
お寺と神社が同じ境内に存在するという形はたくさんあるとはいえませんが、全国的に見ればいくつかあり、各地にある「神宮寺」という名前が付くお寺が代表的なものです。今から約150年前、明治の廃仏毀釈によって仏さまが破壊されるという難事がありました。廃仏毀釈とは、仏教をやめて神道に統一し、寺や仏像などを壊す政策のことです。
その時地元の人たちが協力して仏像を神社に隠したりして、今でも神社に祀ってある仏像もあります。

41番札所龍光寺は、神仏習合であったかつての名残を色濃くのこしています。

龍光寺_稲荷神社

龍光寺の境内には、今でも稲荷神社の社殿が本堂の横にあります。

 

屋根の材質に注目の龍光寺の本堂

龍光寺の本堂は、方形(ほうぎょう)タイプの唐破風(からはふ)向拝(こうはい)付き、いずれも銅板屋根ですが、建築的に見ると不思議な点があります。それは、本体部と唐破風部の屋根の葺き方が違うこと、それによく見ると本体と唐破風がわかれていることです。
※寺院建築の屋根の特徴や装飾については、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方④】屋根の種類とその形状からわかること

龍光寺_本堂

本堂の屋根は瓦のように見えまずが銅板を加工しています。軒先や、唐破風の軒下の装飾にも注目してみてください。

本体部の屋根は、パッと見た感じは瓦のようですが、銅板を瓦のように成形加工してあります。銅板は柔らかいので加工はしやすいのですが、瓦の形のように波型・ウエーブを作るとなるとフリーハンドでは曲げられませんので、金型のようなものに銅板を乗せてプレスするということになります。ですので、この屋根は個人の板金職人さんではなく、金型で量産できる屋根メーカーさんの商品だということになります。

軒先には巴の付いた瓦と同様にしてあり、宝珠が乗っている頂点から四隅に向かっている棟も銅板を加工して熨斗棟(のしむね)に見えるように細かい作業がされており、先端の鬼飾りも銅でつくってあります。何気なくお参りしていると銅製であると気がつかないくらいです。

唐破風の部分は同じ銅板でも瓦型ではない普通の平らなやり方です。なので軒付けも段をつけて仕上げています。唐破風は全体が曲線になっているため、瓦型のやり方ではやりにくいためだと考えられます。
向拝として唐破風が付く場合は、他の多くの寺院の建物がそうであるように、本体からそのまま繋がっていることが多いのですが、こちらではセパレートになっています。もしかすると、本堂が建ってからのちに唐破風を増築したのかもしれません。いずれにしても、虹梁(こうりょう)や蟇股(かえるまた。上下2本の梁の間に束立ちしている彫刻)、組み物、大きく湾曲した垂木など、立派な装飾が施されていて、たいへん凝った造りになっているので、一見の価値があります。

 

瓦屋根と銅板屋根のそれぞれの特徴

現代の和風建築物の屋根は一般的に瓦屋根が多いのですが、神社仏閣では銅板もよく使われています。四国八十八ヶ所霊場の札所でも、銅板の屋根はよく見かけますが、寺院よりも神社の方が使われる割合は多いです。

銅板が屋根に使われるようになったのは100年ほど前からですが、神社はもともと檜皮葺(ひわだぶき)やこけら葺きが多く、お寺のように瓦屋根というケースは少なかったのです。檜皮葺やこけら葺きは耐用年数が25年程度とやや短く、代わりになる新しい屋根材を、と思った時に瓦と銅板があり、見た目が似ている銅板にすることが多かったようです。

一方寺院ではもともと瓦だったことが多いため、今も瓦文化が続いています。また、檀家さんや門徒さんの中に瓦屋根の関係の仕事の人がいることが多いため、身内の業者として慣例的に発注していることもあります。
お寺で使われるいぶし瓦の耐用年数は50年から80年ほど、銅板もそのくらいですが、瓦の場合は漆喰(しっくい)という粘土の補修や交換が必要なのでやや手間と費用がかかります。ただ最初の施工費用は同じくらいかやや銅板のほうが高いことが多いので、単純にどちらがお得とは言い切れないところです。

見た目では瓦の方が重厚で立体感があり、銅板はすっきりしてラインが美しく出る、という特徴があります。
もっとも異なる点は重量で、瓦は銅板の5倍から8倍ほど重く、耐震性でいえば銅板の方が有利ですが、昨今のように気候変動で暴風や台風が頻発すると、破損した屋根の修理は瓦の方がやりやすく、銅板は1ヶ所めくれると全体に及ぶ懸念があります。

瓦も銅板も一長一短ありますので、どのようなポイントを重視するかによって、選択されます。龍光寺の本堂の屋根は銅板を瓦状に加工した特殊なものですので、ある意味いいとこどりをしているのかもしれません。

 

41番札所龍光寺は、境内に今なお稲荷神社があり、参道には複数の鳥居が存在する、神仏習合の名残を色濃くのこすお寺で、他の四国八十八ヶ所霊場の札所とは明確に様子が異なりますので、その違いをじっくり感じてみていただきたいです。札所の本堂の中では唯一の、瓦型に成型された銅板が屋根に使われていますので、ぜひ着目してみてください。
この記事であわせてご紹介した宇和島城のように、お遍路道中では寺院以外にも歴史的な建築物がたくさんありますので、立ち寄って寺院建築と比較してみるのもおもしろいと思います。

 

【41番札所】  稲荷山 護国院 龍光寺(いなりざん ごこくいん りゅうこうじ)
宗派: 真言宗御室派
本尊: 十一面観世音菩薩
真言: おん まか きゃろにきゃ そわか
開基: 弘法大師
住所: 愛媛県宇和島市三間町戸雁173
電話: 0895-58-2186

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。