若かりし弘法大師の修行の地である21番札所奥の院の舎心ヶ嶽。太龍寺から聖域へのアプローチと空海の見た世界を体感した。
"空"の由来の地
弘法大師・空海の呼び名を切り分けると“空”と“海”。“空“の名の由来となった場所が、21番札所太龍寺にあるという。
山上にある太龍寺を目指しロープウェイで標高を上げていくと、到着間際に山間の絶壁に微かに見える大きな弘法大師像。その場所こそ若かりし空海が修行をした場所であり、後に”空”の名を得るに至った重要な拠点ともいわれているそうだ。
そこは空海が19歳の頃、1日1万回100日間マントラを唱える修行である「虚空蔵菩薩求聞持法(こくうぞうぐもんじほう)」を成願。この修行を成し遂げたものは無限の記憶力を得られ、見聞きしたことが忘れなくなるといういわれがあるらしい。今日誰しもが知る影響力をもった弘法大師・空海。偉人にも修行の頃があり、そしてその足跡を感じられる場所を訪れた。
舎心ヶ嶽へのアプローチ
ロープウェイ駅を降りて太龍寺参拝の道とは別ルートを進み、奥の院である南の舎心ヶ嶽方面を歩いていくとすぐに人の気配が消えた。距離にして680mと短いが傾斜は急斜面。そして山側斜面には等間隔に並んだ八十八ヶ所の小さな御本尊が雰囲気を一層神秘的にする。ただの山歩きとは違うどこか神聖な空気感。
ある地点にくると、「ここからはお大師様がお迎えに来られます 御宝号をお唱えしながら登りましょう」と書かれた石標。そのまま歩みを進めていくと20分ほどで舎心ヶ嶽の石標に辿り着き、木々の隙間からは先ほどまで遠く小さく見えていた空海像の後ろ姿が視界に入ってくる。
突き出た岩肌に大きな空海像の後ろ姿、そしてその先に見える開けた絶景の組み合わせのコントラストがなんともいえない演出となっている。空海像への最後のアプローチは、岩を掴みながら鎖のサポートも利用しながら段差を越える。そして、その後ろ姿は生きているようで、どこか悪戯に近寄り難い気持ちにさせられる。
空海の見ていた世界
まさに絶景。空海が見ていた方角は、深い谷底が遠くまで伸びており、まるでモーゼの十戒の波のように山々が左右に避けているような景色が広がる。
視界のはるか遠く先には海。人の気配もないその絶景の場所でしばらく腰を下ろして立ち止まってみる。
「若かった空海はどんな気持ちでここに座っていたのだろうか?」自然とそんなことを考えたくなるような場所。立ち止まり、心の整理時間。西の高野山ともいわれる太龍寺。その後続く室戸半島沿いの”海”の世界に入る前に、“空”に近づいた世界で一旦心を”空”にして再スタートを切るのもいいかもしれない。心の余白があってこそ四国を楽しむ準備ができる。人によって様々なメッセージを得られるだろう。このような感覚を丁寧に感じながら四国の旅は続く。
【「21番札所奥の院 舎心ヶ嶽」 地図】