JR土讃線にある「讃岐財田駅」は、香川/徳島県境に位置する無人駅です。開業以来100年をこえる駅舎の更新作業が始まりました。
讃岐財田駅
「讃岐財田駅」と書いて「さぬきさいだえき」と読みます。この地域の地名「財田」は「さいた」と濁らないので若干の相違点があります。これについては開業時の時代背景などの影響があったことと思いますが、一般的に公式呼称の概念が広まったのは明治時代以降のことで、どちらが公式ということが無かったのが理由であることが多いです。「財田」という地名を当時は「さいた」と呼ぶ人もいれば「さいだ」と読む人もいて、どちらも正解だったのでしょう。駅名を決める際に有力者の読み方が「さいだ」だったあたりの理由で、駅名は「さいだ」になったと想像します。
同様の事例で滋賀県に「米原」という地名がありますが、そちらにも「まいばら」と「まいはら」の読みがあります。
まいばら…駅名、現市名、学校名、旧インターチェンジなど
まいはら…旧町名、字名、現インターチェンジなど
1889年…官営鉄道(現JR)「まいばら」駅
1923年…「まいはら」町
1980年…北陸自動車道「まいばら」ジャンクション・「まいばら」インターチェンジ
2001年…高速道路関連を「まいはら」に改称
2005年…「まいばら」市
近年になってもこのような事象が起こっているので、これだけは固有名詞ということで一個一個覚えるしかありません。日本語が難しいといわれる理由の一つですね。
財田については、経験上「さいだ」と読む人と出会ったことがないのですが、「さいた」が正解だったとしても、駅名の変更はこれまた簡単なことではありません。個人商店などはそのままで良いかもしれませんが、公的な看板、道路標識、地図…これらは全て書き換えなければいけません。膨大な手間と莫大な費用が必要になるため、そのまま留め置かれることが多いです。
こうして見ていくとなんとなくですが、交通関係は濁音読みが採用されるほうが多いような気もします。さいだ、まいばら… 北海道の旭川駅も近年まで読みは「あさひがわ」駅でした。偶然でしょうか。
こちらの路線図をみると
海岸寺駅→別格18番札所海岸寺
多度津駅→77番札所道隆寺
宇多津駅→78番札所郷照寺
金蔵寺駅→76番札所金倉寺 ※読みは同じ「こんぞうじ」ですが駅名と寺名の字が異なります
善通寺駅→75番札所善通寺
琴平駅→金刀比羅宮
箸蔵駅→別格15番札所箸蔵寺
それぞれの寺院が駅から徒歩圏内なので、列車という公共交通機関を利用しながら四国八十八ヶ所霊場巡礼が可能なエリアといえますし、逆に考えれば各寺社がそれぞれの地域の中心的な存在で、それにあわせて鉄道が敷設されたとも考えられます。
しかしながら、讃岐財田駅を含む琴平駅以南は各駅停車の本数が少なく、一日6往復は全国的にも有数の閑散区間になっています(2024年現在)。
かといってそれだけしか列車が走ってないのかといえばそうではなく、右の通過列車時刻表にあるように、岡山・高松↔高知の特急は上下線とも概ね1時間に1本運転されています。特急は讃岐財田駅を含む琴平↔阿波池田の間は停車しないので、同区間の駅で乗降できるのが各駅停車限定になりそれゆえ列車到達難易度を高くしています。
駅舎のコンパクト化
現駅舎は2024年のゴールデンウィークが終わるまでで、その後解体に着手すると報道がありました。
JR四国さんが現在進めている駅舎のコンパクト化がこちらのもので、アルミ製の建屋に雨をしのぐことができる囲いとベンチがいくつかというもの。木造より耐候性・耐震性が高くメンテナンス経費が軽減されるとあります。
ただこちらのような駅舎にはトイレが設置されていません。結果的に讃岐財田駅の場合は自治体が駅前に水洗トイレを新築することでことなきを得ましたが、四国全体的に駅のトイレは縮小傾向(=閉鎖)にあります。
これは歩きお遍路さんにとっては由々しき事態で、ただでさえ多くはない遍路道上のトイレが更に減少していることになります。無くなって気付くのですが、駅のトイレは鉄道利用者のためのものであって、これまで好意で使わせてもらっている気持ちが自分自身欠けていたように感じております。
乗降数こそ多くはないものの、讃岐財田駅は地域の方々から大切にされてきました。時には清掃、時にはお花を生けたり、観光列車の四国まんなか千年ものがたり運行時には駅に集まって乗客に手を振るなど、地域住民の接点として機能していたように思います。
その溢れる感謝と思い出をこちらの寄せ書きに見ることができました。
讃岐財田駅前の「タブノキ」
このタブノキの樹齢は約700年といわれており、鉄道が敷設されるずっと前から存在する古くからの地域のシンボルですが、実は鉄道建設時に運行の妨げになるからと撤去する話があったようです。しかしながら工事関係者に不慮の事故が相次ぎ、住民の保存運動もあって伐採を免れた経緯があります。
タブノキはクスノキの仲間で、クスノキがそうであるように日本でタブノキを多く見ることができるのは、西日本や太平洋側の島嶼部です。伊豆諸島の八丈島に「黄八丈(きはちじょう)」と呼ばれる絹織物に草木染を施した伝統工芸品がありますが、そちらの染料はタブノキの樹皮から採れる液などが原料です。
当区間を走る観光列車に「四国まんなか千年ものがたり」があり人気を博しておりますが、その前面に掲げられるヘッドマークは讃岐財田駅前のタブノキが原案になっています。
上りの当列車の中には、このエピソードの紹介と共に、運転停車を行い、こちらの木の見学時間が設定されている便があります。
箸蔵古道
讃岐財田駅の近くには箸蔵古道の登山口があり、当駅で下車して歩行開始し、古道を経由して猪鼻峠を越えて箸蔵寺へ行くことが可能です。そして下山すると箸蔵駅があり、列車で讃岐財田駅に戻ってくることができます。
その作戦で注意しなければならないのが、箸蔵駅に発着する上り列車の本数が讃岐財田駅と同様にとても少ない点です。早めにスタートして、山中で日没にならないようにするのはもちろんとして、明るい時間でも箸蔵駅の発着列車を逃すと次の列車は2時間先のようなことがザラにあるので、頻繁に時計を見ながら進まないといけなかった記憶があります。
箸蔵駅から戻る方向が讃岐財田駅方面(=上り)だったとしても、次の上り列車の時間によっては一旦逆方向である下り列車で阿波池田駅へ行き、そこで特急に乗り換えて上り方向に戻るという方法もありじゃないかと思います。そうすると運賃はスムーズに上り列車に乗る時より必要ですが、お金と時間のどちらを大切にするかというところです。
旧駅舎解体とその後
この日は湿度が低く空は青空で、タブノキを含む新緑がとても鮮やかに映る爽やかな日和でした。
が、先月まで木に覆われるように存在した讃岐財田駅の駅舎が跡形もなく失われておりました。
様々な事情があって駅舎更新となったのでしょうが、実際この光景を目にすると寂しいものがあります。
タブノキはもちろん健在でこれからも地域のシンボルで在り続けるでしょうから、新しい駅舎が建った時にどのようなロケーションになるのか、今から楽しみです。
讃岐財田駅百年駅舎最後の春
桜と駅舎は2024年の春が最後になると思い、旧駅舎在りし日に動画空撮を行いました。訪れたときにちょうどアンパンマンラッピングの特急南風が讃岐財田駅を通過し、その様子を撮影できましたので、ぜひご覧ください。
【「讃岐財田駅」 地図】