【豊楽寺】山間部の大豊町にある杮葺きが引き継がれる高知県唯一の国宝建築物「薬師堂」

高知県大豊町にある豊楽寺には、平安時代に建造されたと推定される高知県唯一の国宝建築物「薬師堂」があります。多くの人が関わり現代に引き継がれている見事な杮葺きの屋根や、国指定需要文化財の複数の仏像にご注目ください。

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高知県の山間部で貴重な文化財を現代に伝える「豊楽寺」

高知県の山間部の大豊町(おおとよちょう)にある豊楽寺(ぶらくじ)は、真言宗智山派の寺院で、神亀元年(724年)に行基菩薩が開創したと伝わっています。本尊は薬師如来で、柴折薬師(しばおれやくし)と呼ばれ、愛知県・鳳来寺の峰薬師、福島県・常福寺の嶽薬師と共に日本三大薬師に数えられます。

境内には行基杖かけの杉、腰かけ石などがあります。 伽藍は現在は薬師堂を残すだけですが、これが高知県で唯一の国宝建築物で、本尊の薬師如来像と脇侍の阿弥陀如来像・ 釈迦如来像は国の重要文化財に指定されており、貴重な文化財がのこっているお寺です。

山間部に立地していて、お遍路道中からは少し距離がありますが、JR土讃線・大田口駅からおよそ1kmで、自家用車であれば高知道・大豊ICから約10kmですので、同じく大豊町にある日本一の大杉として名高い「杉の大杉」と一緒にぜひ訪れてみていただきたいです。

 

見事な杮葺きの高知県唯一の国宝建築物「豊楽寺薬師堂」

豊楽寺薬師堂は、方5間、軒一重、入母屋(いりもや)造、柿葺(こけらぶき)です。
※寺院建築の屋根の種類や形状に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方④】屋根の種類とその形状からわかること

豊楽寺_薬師堂

高知県唯一の国宝建築物である豊楽寺の「薬師堂」です。

安置されている本尊の薬師如来坐像と釈迦如来坐像と阿弥陀如来坐像は平安時代末期の制作とされ、釈迦如来像の像内墨書に1151年の作と記されて、薬師堂も同じ時の建立と推定されていますので、現存する四国最古の建造物になります。厨子1基と棟札1枚を含む中央の方3間を内陣としていますが、外陣は前を広く、後を挟くした特異な平面をもっています。明治時代に内陣を後方に寄せるなどの改変が加えられたという記録がのこっています。

方形つまり正方形に近い仏堂ですが、正面が側面よりもわずかに長くなっています。室町から戦国への移行期、1574年に長宗我部元親(ちょうそがべもとちか)、さらに江戸初期の1637年に山内忠義(やまうちただよし)が修理し、前面中央に1間の向拝(こうはい)が付け加えられました。
正面中央の3間に板扉があり、両端を連子窓(れんじまど)、両側面の前側1間だけを板扉にして、ほかの柱間と背面は板壁です。
堂の周りに高欄付きの縁がめぐります。柱上の組物には簡単な舟肝木(ふなひじき)だけを置きます。屋根の軒裏は、一重の垂木を幅広い間隔で並べた一軒の疎垂木(まばらだるき)で、横木を入れて木舞裏(こまいうら)としていますので、全体的に簡素な外観です。
※寺院建築の装飾に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。

【寺院建築の楽しみ方③】美しさは軒裏に集約される

内部には方3間の内陣が堂内のかなり後側に設けられています。 外陣を広く取ったためですが、そのため内陣の背面と堂の背面との間隔が非常に狭くなっています。このように後世の改変も多いのですが、平安時代末期の面影を伝えています。

約900年前の平安時代に建てられた豊楽寺薬師堂の特に魅力的なポイントは、他の国宝建築物と共通する雰囲気とかその独特の佇まいですが、具体的に言えばやはり杮葺きの屋根です。軒先と隅、さらに箕甲(みのこう)のラインがキレイに出ていて、これが900年間維持されていることに感動させられます。薄い木の板でできている杮葺きの耐久年数は30年から40年程度ですので、この900年間に20回以上葺き替えられ、現代に引き継がれていることになり、その時代時代で建築物を後世に伝えるために尽力した人がいたことを物語っています。

【「豊楽寺」 地図】

 

地域の歴史を物語るものが多数展示されている「定福寺」

豊楽寺から東へ1駅の豊永駅から約2kmのところに定福寺(じょうふくじ)があります。豊楽寺と同様に奈良時代に行基菩薩によって創建された真言宗智山派で、新四国曼荼羅霊場61番札所です。
本尊は阿弥陀如来で、境内に熊野神社があります。宝物館では珍しい 「笑い地蔵」 などが拝観できます。境内の豊永郷民俗資料館では「土佐豊永郷及び周辺地域の山村生産用具」2,595点を収蔵公開し、吉野川上流域の楮の皮剥ぎや柚の様子を今に伝えています。
「土佐打刃物発祥の地」とよばれる香美市土佐山田町に近いことから、斧や鎌などの鍛造品の収集は量質ともに充実しています。境内には万葉植物園と蓮池もあり、夏には大賀蓮(おおがはす)が大輪の花を咲かせ、蓮祭りも催されます。
2002年まではユースホステルも経営し、宿泊者は五大修行を体験することができました。3kmほど南にある龍王の滝が行場で、その先の梶ヶ森(加持ヶ峰)が奥ノ院になっており、七仏霊場巡りが行われています。

定福寺には、地域の歴史を知ることができるものが多数展示されていますので、豊楽寺とともに拝観されることがおすすめです。

定福寺

定福寺も長い歴史があり、それを感じられる文化財や展示物がたくさんあります。

【「定福寺」 地図】

 

高知県の山間部に四国の仏教の歴史を物語る貴重な文化財がのこされています。お遍路道中では沿岸部を進むエリアが多いですが、山の自然と引き継がれる歴史・文化を体感すべく、山間部にも足を向けてみていただければと思います。

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。