32番札所禅師峰寺から33番札所雪蹊寺の間には県道の一部を船で渡る珍しい遍路道があります。地元住民の生活の足として長く続く「渡し船」は、歩き遍路も助けてくれる貴重な存在です。
「県営渡船」と「浦戸大橋」の選択
32番札所禅師峰寺を出発すると、お寺の境内から眺めた「桂浜(かつらはま)」の方向に進んでいきます。次の33番札所雪蹊寺は、浦戸湾を隔てて対岸にありますので、海を渡る必要があり、ふたつのルートからの選択になります。
まずひとつの手段は「浦戸大橋」を渡るルートです。
この橋は昭和47年(1972年)に完成した全長1480mの大きなもので、元々は自動車専用有料道路として運営されていた(現在は無料)そうです。
歩き遍路さんも歩行することができますが、元が自動車専用設計だったので、歩道がとても狭く、しかも特筆すべきはその高さで海面から50mもあり、歩くには少々スリルを感じることでも有名な橋です。
ただ、この橋を渡ると、高知県の有名な観光地「桂浜」があり、風光明媚な弓型の砂浜のほか、坂本龍馬像、坂本龍馬記念館、土佐闘犬センター、桂浜水族館などいろいろな観光スポットがあるので、余裕があれば立ち寄るのもよいかもしれません。
そして、もうひとつの手段で、私が選択したのが「県営渡船」を使うルートです。
船で湾を渡るのですが、ここは県道278号線の一部として無料で運航されている、その名も「県営渡船 龍馬」。わかりやすすぎる愛称がついている渡し船なのです。
歩き遍路さんの中には「全道程自分の足で歩ききらなければ」なんてこだわる方もいらっしゃるとは思いますが、ここはれっきとした「道」ですし、珍しい経験にもなるので、ぜひ利用することをオススメします。
ちなみに、今ほど交通事情が発達していなかった時代の昔の遍路道は、船も重要な移動手段だったそうです。
現代でも、遍路道として昔の名残を残す船ルートがありますので、また別の記事でご紹介したいと思います。
ということで、湾の方向に向かって小さな半島の集落「種崎(たねざき)」を進んでいくと、渡船場に到着です。
運航時間を要チェック
渡船を利用する際に中止しておきたいのが「運航時間」です。
当然ですが四六時中運航されているわけではなく、出航時間が決まっています。
6:30~20:00の間でおおむね1時間に1往復の運航なので、出航直後に渡船場に到着なんてことになると、1時間の待ち時間が発生することもあります。
運航時刻表の掲載もある詳しい情報のリンクをはっておきますので、事前にチェックしておいてください。
長浜種崎間県営渡船のご案内(高知県HP): http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/170106/tosen1.html
※場所案内のGoogleマップの表示がおかしい?ようなので、ご注意ください。
ちなみに私は30分ほど待ち時間がありましたが、渡船場に待合小屋があり、ベンチ、机、トイレや自動販売機もあるので、ちょうどよい休憩時間としてゆっくりしていきました。
なぜか地元のおにいちゃんがコンビニ弁当をぶらさげて小屋に入ってきて昼食をとり始めたので、遍路関係の話をして盛り上がってしまいました。
地元の人の憩いの場にもなっているようで、こういう地域との接点、地元の人とのふれあいもできてしまう渡し船なのです。
地元民の生活の足として大活躍
この渡し船の起源は正確な記録が残っていないそうですが、明治時代から運航されていたようです。
地域住民の生活の足として重宝され、利用者が増加してきた昭和30年代に木造からカーフェリーになり、昭和50年代までは船の建造費捻出のために有料運航されていたとのこと。
利用者が多い時期には年間60万人ほどの利用があったそうですが、前述の浦戸大橋の開通の影響もあり、現在では年間7千人ほどと大きく減少しているらしいです。
ただ、地元に根付き、愛され、生活感があふれていると私は感じたのですが、そのひとつが「自転車での乗船」です。
明らかに対岸のスーパーに買い物に行きますという雰囲気を醸し出している皆さまを見ていると、渡し船が日常に溶け込んでいる感じがとても心地よかったです。
これはよそ者だからこそ抱く感覚で、地元の人は意識していないことなんだろうと思います。
そしていよいよ出航です。
船と景色を楽しむぞと思ったのもつかの間、5分ほどのあっという間で対岸の長浜地区にある「梶ヶ浦渡船場」に到着してしまいます。
せっかくならもう少し船と海を楽しみたかったのですが、そんなことを思うのは歩き遍路ぐらいなのでしょうね。歩き遍路道の中でも希少な「船ルート」をぜひお楽しみください。
【県営渡船種崎待合所 地図】
【長浜種崎間県営渡船 問い合わせ先】
高知県 土木部 高知土木事務所
電話:088-882-8141