四国山地の奥深くの秘境に佇む「祖谷のかずら橋」は、昔の作り方を現代に受け継ぐスリル満点の吊り橋として知られています。国内外の観光客が多数訪れる人気スポットになっている理由と四国遍路とも関連する空海にまつわる伝説を探ってみました。
国指定重要有形民俗文化財の吊り橋「祖谷のかずら橋」
徳島県の西部に位置する三好市(みよしし)、香川県や高知県との県境にも近い四国山地の山深い場所に、今やたくさんの外国人観光客も訪れる世界的な有名スポット「祖谷(いや)のかずら橋」があります。かずら橋とは、「シラクチカズラ」という植物のツルを編んで作られた吊り橋です。

祖谷のかずら橋は秘境の渓谷に佇んでいます。
今から約800年ほど前、西祖谷山村(にしいややまそん)にかずら橋が架けられました。当時は軍馬の調練をはじめ、木挽(こびき)・杣(そま)と呼ばれる林業、猟師の往来、剣山(つるぎさん)信仰のための交易路としても、このかずら橋が使われていました。かつては祖谷一帯に13本ものかずら橋が架けられていたそうですが、時代とともにその多くが姿を消し、現在残っているのは、祖谷のかずら橋と、少し離れた奥祖谷(おくいや)の「二重(にじゅう)かずら橋」の、わずか2ヶ所のみです。
このかずら橋が国内でもほぼここだけに残った背景には、祖谷ならではの地形と気候が関係しています。川幅40〜50mほどの距離なら、本来は川辺に丸太を並べる方が早く丈夫な橋を架けられますが、祖谷は日本一降水量が多いといわれる高知県の山裏にあたり、降った雨が「日本三大暴れ川」のひとつ「吉野川(よしのがわ)」に集中する土地です。祖谷川も増水が頻繁で丸太橋では流されてしまうため、峡谷の高い位置に橋を架ける必要がありました。そこに、しなやかで丈夫なシラクチカズラが自生していたことと人々が逃れ住んだという、いくつもの偶然が重なり合って祖谷のかずら橋が生まれ、長い間受け継がれてきました。
祖谷のかずら橋にシラクチカズラが用いられたのには、主に3つの理由があると考えられています。
1つ目は、追っ手が迫った際に斧などで一瞬で断ち切れるという防衛のためです。2つ目は、水気を好んで長くしなやかに伸びる強度の高さです。3つ目は、険しい峡谷で現地調達できる材料として手の入りやすかったことです。
祖谷のかずら橋に使われているシラクチカズラの総重量は約5〜6tにもなり、長さ約45m、幅約2m、川面からの高さは約14mの場所に、大量の原料を使った橋が手作業で編み上げられていることに驚きます。
また、橋の床には「さな木」と呼ばれる丸太が等間隔に渡されているだけで、その間には大きな隙間が空いており、歩くたびに谷底が見え、スリルを味わうことができることが、現代において観光スポットとしても人気になっている大きな要素です。

さな木の間は想像以上に大きな隙間が空いており、棉sる時にはドキドキします。
こうした歴史的・文化的価値が評価され、国の重要有形民俗文化財にも指定されています。老朽化を防ぐために3年に一度、架け替えが行われていて、技術も伝承されています。なお、安全性を確保するため、現在のかずら橋は内部に鋼製のワイヤーを通し、その外側を伝統的なシラクチカズラで覆う構造になっています。

昔の姿を現代に受け継ぐかずら橋は、国内外から高く評価されています。
四国遍路も関連する空海にまつわる伝説
祖谷のかずら橋の起源として、2つの伝説が語り継がれています。
①落人説(おちゅうどせつ)
祖谷地域は、平安時代末期の源平合戦における讃岐国(さぬきのくに、現在の香川県)での屋島(やしま)の合戦に敗れた平家の落人たちが逃れ、身を隠して暮らしたと伝わる秘境の集落です。追っ手が迫った際にすぐ橋を切り落とせるよう木材ではなくツル植物で橋を編んだといわれています。
②空海説(くうかいせつ)
平安時代に四国を巡行していた、のちに真言宗を開く高僧・空海(くうかい)が、川に阻まれて困っていた村人たちのために、この橋を架けたといわれています。
全国各地で空海が水に関する困りごとを解決したという伝説が数多く残っており、四国内のお遍路道中でも「橋を架けた」「泉を湧かせた」「井戸を掘った」といった伝説がたくさんあります。
確かな記録が残っているわけではなく、今も謎に包まれたままですが、空海説が祖谷に伝わっていることが、空海信仰が四国の隅々まで波及し、長い間受け継がれてきたことを物語っているといえるでしょう。困っている人々を助けるために奇跡を起こしたという空海伝説がかずら橋の起源にも関係していることに歴史浪漫を感じます。
お遍路道中としては、同じ三好市内に四国八十八ヶ所霊場の中でもっとも標高が高い約927mの場所に位置する66番札所雲辺寺(うんぺんじ)、また、香川県の「こんぴらさん」として有名な金刀比羅宮(ことひらぐう)の奥の院である別格15番札所箸蔵寺(はしくらじ)があります。
雲辺寺も箸蔵寺もそれぞれにロープウェイが設置されるほどの到達難易度が高い山岳霊場ですが、祖谷のかずら橋も渓谷の道を山深くに進んでいく秘境中の秘境です。たどり着くのには少々苦労しますが、ジブリの世界に迷い込んだかのような道のりも含めて雰囲気を楽しんでいただければと思います。
スリルと大自然を体感できる空中散歩
私は、幼い頃に一度だけ祖谷のかずら橋を訪れたことがあり、今回は令和3年(2021年)7月末に大人になって久しぶりの再訪となりました。幼い頃の記憶はあいまいだったので、今回の訪問ではただワクワクした気持ちで現地へ向かいました。かずら橋の入口に到着し、改めて橋の全貌を見ると、とても風情のある橋だと感じました。
いざ渡ろうと一歩踏み出すと、思っていた以上に揺れがあり、さな木の隙間は想像以上に広く、しっかり捕まっていないと落ちてしまいそうなほどのスリル感がありました。橋の下を流れる祖谷川はとても綺麗な色をしていましたが、ゆっくり眺める余裕はなく、ただ渡りきることに必死でした。渡り終えたあとは、まるでジェットコースターに乗ったあとのようになり、子どもの頃はスリルや恐ろしいという印象は特になかったのですが、大人になってからの感じ方の違いに驚きました。

必死に捕まっていないと落ちてしまいそうな感覚になる、スリル満点の空中散歩でした。
祖谷のかずら橋周辺の楽しみ方と断崖絶壁にたつ「しょんべん小僧」
祖谷のかずら橋を渡ってすぐの場所には、落差約40mの「琵琶(びわ)の滝」があります。平家の落人が都をしのんで琵琶を奏でたという伝説から名付けられたそうです。緑に囲まれマイナスイオンたっぷりの空間は、かずら橋を渡って汗をかいたあとの休憩にぴったりの癒しスポットです。

琵琶の滝の近くに寄ると、冷たい水しぶきがかかり、夏の暑い最中にとても気持ち良かったです。
祖谷のかずら橋の周辺には、食事処やお土産店もあり、徳島の郷土料理「祖谷そば」や、渓流で育ったヤマメ・イワナの串焼きなど、山の幸を味わうことができます。かずら橋を渡ったあとは、山深い郷土の味を満喫しながら、ほっと一息するのも楽しみ方のひとつです。

祖谷川を眺めながら食べた川魚の串焼きは、大自然の開放感も相まって絶品でした。
また、祖谷のかずら橋からは少し離れますが、祖谷地域の名所として知られるのが「しょんべん小僧」です。かつて祖谷街道の開削工事に関わった作業員や子どもたちが、谷底まで200mはあるという断崖の岩の上で度胸試しをしたという逸話にちなんでたてられた像で祖谷ならではのユニークなスポットなので、少し足をのばしてぜひ訪れてみてください。

断崖絶壁にたつしょんべん小僧の像は、現在は柵が設置されて安全な場所から見ることができますのでご安心を。
祖谷のかずら橋を訪れるならベストシーズンは、新緑がまぶしい春から初夏にかけてや紅葉が美しい秋です。その中でも特に11月は、渓谷全体の木々が色づき、かずら橋とのコントラストの景観が素晴らしいのでおすすめです。
空海が架けたとも伝わる祖谷のかずら橋は、お遍路さんにもぜひ訪れてみていただきたいスポットです。足元の谷底と橋の揺れを体感しながら、祖谷に伝わる伝説に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
【「祖谷のかずら橋」 地図】










