山の上に佇む12番札所焼山寺。ミニベロでの登坂と参拝にトライすることになった。ゴールを目指す途中、人生で初めて見ることになったお遍路小屋に驚き、山奥の集落では地元の人々とのちょっとした一瞬が旅の1ページに刻まれた。
お遍路小屋の衝撃
四国全土のお遍路道では、お遍路さんたちが無料で休憩、場合によっては野宿を行うことができる小屋が数多く存在する。地元の人達の厚意によるものである。
12番札所焼山寺へ県道43号をミニベロで登っていった途中で、私にとっては人生で初めてお遍路小屋を見つけた。歩き遍路さんは野宿する人も多く、12番札所まで県道43号のルートで進む場合には、タイミングや天候によってはこの小屋で休憩や宿泊をすることができる。初めて目にするお遍路小屋のあまりにもシンプルな佇まい、しかしながら旅をする人が必要とする最低限のものが十分に揃っていることなど、今までみたことのない空間は私に不思議かつ強い印象を与えた。
何故そこまで強い印象が残ったのかなんとも説明が難しいのだが、四国ならではの風習といえる誰でも使用できるこんなスペースは、独特の空気感を持っていた。実はこの小屋の隣には、ちゃんとトイレも設置されている。時計、ベッド、椅子、そしてなんと、備え付けの電子レンジまで設置されていた。遍路小屋の机の上には、ここを利用したお遍路さんが書き残したゲストブックがあった。中を見てみると、一番最近の利用は2020年8月の終わりだった。私が訪れたのが9月30日なので、1ヶ月程度しかたっておらず、かなり最近だ。ドアもなく、山奥のお遍路小屋で過ごす夜は、人によっては怖くて不安な夜となるだろう。この小屋で泊まった歩き遍路さん達は、どのようなことを考えながらこの空間で夜を過ごしたのだろう、いったい何を感じながら朝ここで目を覚ましたのだろう、などと様々なイマジネーションを膨らませた。また、誰がこの小屋を管理しているのだろうかということも知りたくなった。四国に根付くお遍路文化、信仰を胸に、特に過酷な歩き遍路を行う人々を気遣う地元の人達の優しさを深く感じ取りながら、急な勾配の坂道に苦労しながら進んだ。
ちなみに私はたまたまこのあたりでトイレに行きたかったタイミングだったのだが、こちらのお遍路小屋のトイレを使う勇気が出なかった。まだまだ修行が足りない。
山奥で暮らす人との出会い
山奥の道、自転車をこいだり押したりしながら進んでいく途中、小さな古民家に住む人との出会いがあった。景色が綺麗でしばし眺めていると、一軒の古民家の縁側に座っていたおじいちゃんが遠くから手を降ってくれた。どこまで行くのかと大声で尋ねられた。そのあとまた、ある家の犬が吠え、家主と思われるおばあちゃんが家から出てきて、同じくどこまで行くのか、とまた遠い距離から話しかけられた。「焼山寺まで!」と答えたら、「頑張れやー!」と返事が返ってきた。
その頃には相当な坂道に疲れていたことと早く山を登ってしまいたい気持ちが強かったため、彼らとの会話はそこで終わった。だけど本当は、そのおじいちゃんとおばあちゃんがこんな山奥でどんな暮らしを営んでいるかを知りたかった。本来のお遍路道から少し外れた場所を進んでいたため、特に自転車でこの道をゆく人を普段あまり見かけることがなかったからか、話しかけてきてくれたのだろう。次の機会にはもっと積極的にコミュニケーションをとってみて、もっともっと土地を理解することにトライしてみようと決めた。
【「県道43号沿いのお遍路小屋」 地図】