翌朝再度戻った75番札所善通寺の境内で、生命力溢れる長寿の楠がとても大きなエネルギーを与えてくれた。戒壇めぐりでは”同行二人”の意味を改めて深く体感することとなった。
力をくれたくすのき
前日に75番札所善通寺へ到着したのが夕方遅くとなってしまったことと、境内での前日の不思議な体験が心を惹き、翌朝また参拝を行うことにした。
朝の光に包まれた善通寺は前日とは全く異なる雰囲気が漂い、なんだか別のお寺のように感じた。金堂がある東院の側に、とても立派な大楠が2本ある。いずれも樹齢千数百年といわれ、弘法大師が子供のころにここで遊んだり、木の下で修行したとも伝えられている。弘法大師の誕生と善通寺の創建を示しながら現在も生き続ける樹木なのだ。
その幹に触れながら、当時の風景を頭の中で可能な範囲で想像してみた。人間としてはある時この世を去ったが、のちもその教えを深くこの世に浸透させた空海。そしてその人物がもしかしたら触れたかもしれない樹が今も現実に生き続けている。そんなことを想像していると、不思議な力が湧いてきた。この1000年に日本で起こった数々の戦や災害を全て生き抜いてきた事実について考えてみると、1000年間も木が生き残れるなら、お遍路を一周することくらいわけがない、とまだしばし残る結願までの道のりがとても楽に感じることができた。強い生命力を持つ樹から、私は間違いなく力をいただいたと感じた体験だった。
大師堂と戒壇めぐり
前日到着が遅い時間となったため入ることができなかった「戒壇めぐり」を体験してみた。大師堂(御影堂)の下の真っ暗な空間を通る100メートル続く道を歩く体験で、そこを通ると弘法大師とご縁を結ぶことができると伝えられている。
階段を降りて真っ暗闇の中へゆっくりと吸い込まれていく。私はひとりだったため、左手で壁を触り、「南無大師遍照金剛」と唱えながら進む。怖がることはもちろんないが、ひとりで歩いていると初めの頃はやはり怖さや不安を感じる。目や光があることに対するありがたみを心から感じる。
少しずつ先を進むとだんだんと慣れてきて、恐怖心が和らいできた。初めは”一人”という意識が強く働いていたことから怖さを感じたのだが、弘法大師がいつも隣で歩いてくれていることを差す「同行二人」という言葉を心の中に思い起こすと不思議と心が和らいでいく感覚を得た。ちょっとした体験ではあったがなんだか心がすっきりとして、良い一日のスタートを切れたことに感謝した。
【75番札所】 | 五岳山 誕生院 善通寺(ごがくざん たんじょういん ぜんつうじ) |
宗派: | 真言宗善通寺派 |
本尊: | 薬師如来 |
真言: | おん ころころ せんだり まとうぎ そわか |
開基: | 弘法大師 |
住所: | 香川県善通寺市善通寺町3-3-1 |
電話: | 0877-62-0111 |