空海を輩出した讃岐國の豪族「佐伯家」が使っていたとされる「雀紋」。それにあやかり香川県内のいくつかの寺では「三羽雀紋」が寺紋に使われているという話を耳にして、三羽雀紋の探求をはじめました。
きっかけは長尾寺で見つけた「三羽雀紋」
お寺めぐりをする中で、ふと気になった物事をカメラに収める人は多いと思います。私もご多分にもれず、87番札所長尾寺参拝の際に見つけた、ある「キュートなもの」を、写真に撮ってきました。
この時は、何とはなしに撮ったのですが、その後少し気になって調べたところ、意外に(?)所以のあるものだということがわかってきました。
雀は、四国や和歌山地方では、イタクラともいう。これはイタコ(巫女)と同じように予言する小鳥(クラ)を意味する。よくさえずるところから来ている。それゆえ、佐伯氏などは「さえ」にかけて雀紋を家紋にしている。
讃岐では三羽雀紋の寺が多いが、弘法大師を輩出した讃岐の佐伯氏の三雀にあやかったもの。(きものと悉皆みなぎHPより)
ふむふむ。雀紋は単に「かわいい」だけではないみたいですね。ちゃんと意味がある(そして佐伯の「さえ」と掛詞になっている)。なるほどと納得しつつ、他にはどこの寺で雀紋が使われているのか気になってきます。このことをきっかけとして、その後、雀紋のお寺を探すようになりました。
73番札所出釈迦寺の三羽雀紋は強そうな雀たち
寺紋を気にする様になってからしばらくして、73番札所出釈迦寺で三羽雀紋を見つけました。長尾寺の「ほのぼの」とした表情とは違って、こちらは少しイカツイ顔つき。強そうな雀が円陣を組んでいます。
同じ雀なのに、顔つきが違うとこうも印象が違うのかと驚きます。どういった経緯で表情に違いが生まれるのでしょう?
68番札所神恵院・69番札所観音寺の雀には「おしゃれな羽」がもう一つついている
その後すぐ68番札所神恵院・69番札所観音寺でも三羽雀紋を見つけました。ご存知のように68番札所神恵院と69番札所観音寺は同じ場所にあっても別寺ですが、寺紋は同じのようです。
佐伯家の邸宅跡にある善通寺に雀紋はあるのか?
これまで3つの三羽雀紋を見つけたことに満足しつつ、さらなる探求は続きます。雀紋は佐伯家が使っていたとのことなので「きっと佐伯家の邸宅跡にある善通寺には雀紋があるに違いない」と期待しつつ、75番札所善通寺に向かいます。
「さてさて、雀紋はどこにおわしますやら」と本堂(金堂)へと足を進めます。
本堂の幕にあったのは、16弁の菊に「善」の変形文字。どうみても雀紋の気配がありません。本堂以外にはあるかもしれないと、他のお堂を見て回りましたが、それでも発見できませんでした。善通寺には雀紋はないのでしょうか。
この日、主なお堂で見ることは叶わなかったものの、ネット上には「善通寺には三羽雀紋がある」といった情報も目にします。たまたま見逃してしまっただけなのか、今後も調査を続けたいところです。
2020年7月11日追記:
この後、善通寺の僧侶に寺紋のことをお聞きする機会があり、三羽雀紋の謎を解くことができました。別記事にまとめましたので、ぜひこちらも御覧ください。
【75番札所善通寺】「三羽雀」から「菊に善」への寺紋の変遷に秘められた「真言宗善通寺派」の歴史
三羽雀紋探求まとめ〜雀紋使用の経緯まではわからず
ということで、香川県内で「三羽雀紋」を見つけたのは上記の3つの寺ということになります。
これらのお寺で雀紋を使うことになった経緯を探ってみましたが、宗派からしてバラバラで3ヶ寺のわかりやすい共通項が見出せません。佐伯家の氏寺として創建された72番札所曼荼羅寺には雀紋は使われおらず、佐伯家と縁が深いことが理由になるわけでもなさそうです。なかなか謎深い寺紋の世界です。
三羽雀紋の「本当のこと」を知るにはさらに深掘りを続ける必要がありますが、ひとまず今回ご紹介した3ヶ寺の雀紋発見をもって、雀紋探求は一区切りといたします(後日、善通寺で雀紋を発見したので上記の記事で紹介しています)。
今後は「そのユニークさを愛でる・愛らしさを周知する」という方向で雀紋に接していく所存です。
ふとしたきっかけで始まった「三羽雀紋」の探求。お寺それぞれで表情も異なっていて、興味深い探求結果となりました。お寺巡りの中で、何か自分の興味あるテーマを見つけられると、視点が増えて色々な発見があり、一味違った楽しみが生まれると思います。