26番札所金剛頂寺の登山口にある「民宿うらしま」は、前身の「ドライブインうらしま」時代からお遍路さんが泊まっていた老舗の遍路宿。明朗快活な女将がきりもりしていて、困った時にはバイトもできる、懐の深い宿です。
26番札所の麓にある老舗の遍路宿「民宿うらしま」
お遍路さんが泊まる宿の歴史やオーナーの思いについてインタビューする遍路宿紹介シリーズ。今回は、「室戸三山」のひとつ、26番札所金剛頂寺へと向かう参道にある「民宿うらしま」さんを訪ねました。
オーナーの中屋さんは高知県室戸市の東側にある三津のご出身で、民宿うらしまと合わせて室戸市内にある3つの宿を経営しているスーパー女将です。
多くのお遍路さんを迎えてきた中屋さんに、宿についてお話をお聞きしました。
3つの宿を任されるようになった経緯
もともと、高知市内の34番札所種間寺近くで宿を営んでいた中屋さんが、民宿うらしまの運営を引き継いだのは平成20年。前身の「ドライブインうらしま」の経営者から声をかけられ、施設を借りる形で運営をはじめ、平成23年には施設を取得して経営者となりました。姉妹店である「民宿とうの浜(27番札所神峯寺登山口)」も同じような経緯で平成28年に経営者となり、室戸市の山側にある「民宿 山小屋」も含め、現在は3つの宿を運営しています。
民宿うらしまの看板には「喫茶」の文字がありますが、喫茶店を経営しているわけではなく、あくまで宿泊客の食堂としての位置付けなのだとか。ただ、お遍路さんが来たときは、労いのコーヒーをお出しすることもあるそう。
中屋さんが見てきたお遍路さんあれこれ
「民宿うらしま」に泊まるお遍路さんについてお聞きしたところ、常連のお遍路さんとして、柴谷宗叔(しばたにそうしゅく)氏の名前が出てきました。
柴谷宗叔氏は読売新聞の記者を務める傍、四国遍路を始められたトランスジェンダーの尼僧です。車での四国八十八ヶ所霊場100巡を達成した他、高野山大学では博士号を取得。現在は、性的少数者の駆け込み寺である「性善寺(大阪市)」の住職となっています。
今はお寺の運営があるためか遍路に来ることはないようですが、中屋さん曰く「お酒をたくさん飲む豪快な人。頭も良く、性的少数者を支援していることもあって、社会的な常識を超えているような人。」だったようです。私は中屋さんの話ではじめて柴谷宗叔氏のことを知りましたが、なかなか興味深い人物だと思いました。
性善寺ホームページ:https://shozenzi.jimdofree.com
そのほか、「時折、池山神社を目指す人が泊まる」と話す中屋さん。池山神社とは26番札所の(元)奥の院のことで、宿泊者が目指すのは「池山池」。26番札所の山奥にある「雨の後にしか姿を見せない幻の池」で、テレビ番組「マツコの知らない世界」で紹介され、訪れる人が増えたのだとか。
中屋さんも見たことはないという池山池ですが、ネットではその神秘的な姿を見ることができます。柴谷宗叔氏のことも池山池のことも今回初めて知ったので、勉強不足を反省するとともに四国遍路の奥深さを改めて感じました。
旅の途中でお金がなくなったら「民宿うらしま」で働ける
続いて中屋さんに「民宿うらしま」のおすすめポイントについて聞いてみたところ、「安いことと、ご飯の量が多いこと」ときっぱり。「食事が貧相なのは嫌なので、おかずをたくさん出してしまう」と語る中屋さんですが、安さと食事もさることながら、中屋さんのきっぷの良さに惹かれる人も多いのではと思います。
また中屋さんは「旅の途中でお金がなくなった人はうちで働けばいい」とも言います。実際に、取材した日も住み込みでお手伝いをしているお遍路さんの姿がありました。
仕事の内容は「その人が得意なことでOK」とのこと。掃除、料理、草抜き、畑の世話、事務仕事…やって欲しい仕事はたくさんあるのだとか。バイトのことを記事にすべきか迷っていたら「ぜひ書いて!」とこれまたきっぱりの中屋さん。昔は宿で稼ぎながら旅をする人も多かったとのことです。
旅人も宿も持ちつ持たれつ、来るもの拒まずの姿勢に、懐の深さを感じました。
【「民宿うらしま」 基礎情報】
名 称 | 民宿うらしま |
宿の形態 | 民宿 |
住所 | 高知県室戸市元甲1901-4 |
「民宿うらしま」の詳細情報とご予約はこちらから↓
四国宿泊予約サイト「お遍路さん家」【民宿うらしま】
3つの宿の経営者として忙しそうな中屋さんでしたが、さっぱりとして気持ちの良い人柄そのままに、宿は風通しの良い雰囲気に満ちていました。また、バイトができるのも大事なポイント。旅人にとって、お守りのような宿です。