高知県室戸市吉良川の台風被害から守るために生まれた"いしぐろ"に代表される独特の景観と建築方法や地域産業。立ち寄ると長居してしまう昔からの町並みについて。
台風被害から守るために生まれた、"いしぐろ"に代表される独特の景観
室戸岬を越えて26番札所金剛頂寺の参拝を終え、室戸半島の西側を北上していくと突然大きな看板と古い町並みが見えてくる。そこは「重要伝統的建造物群保存地区」に選定された吉良川町。明治に建てられた特徴的でどこか懐かしい風景を今に残している。室戸半島の南向きに面している吉良川町は、台風襲地として長年自然災害に苦労してきた歴史があり、建築様式を切り取っても生活圏に深く入り込んでいる。特に太平洋側から遮るものがないこの地形においては台風被害から生活を守るための知恵が建築様式となっており、それが現代にも残る土地独自の景観へと繋がっている。
特に目を引いたのは”いしぐろ”という外塀の石積み方法。丸く円盤型の石が規則正しく積んで見た目がどこか柔らかい印象を与えてくれる。海岸線沿いにいくと角が取れた丸く可愛らしい石がたくさん落ちていた。引き潮が強く、石と石がよくぶつかる影響なのだろうと想像していたが、この石がうまく家を守ために使われている。外壁は真っ白な土佐漆喰、強い雨風対策としての水切り瓦との組み合わせが独特の景観と独自の雰囲気を作っている。ここでの最大の自然災害は台風。その被害を抑える為の工夫が生活美として目に映る。建築知識がなくとも土地の合理性にあった景観は、単純に異国情緒を感じさせ旅の雰囲気盛り上げてくれる。
吉良川町の産業「備長炭」
産業無くして文化発展なし。ということで、吉良川で最も栄えた産業は良質な木炭と薪が取れることから盛んになった土佐備長が有名。温暖な地方の海岸部から山の斜面に生えるウバメガシを炭材とし、良質な備長炭の条件である、硬くしまっておりひび割れが少ないのはもちろん、叩くと不純物が少ないと想像させられる高音の金属音がする。元々は和歌山の紀州備長炭の製法を元に持ち込まれたものらしく、その品質の高さから高知を代表する産業のひとつとして成長していったとのこと。奥の深い世界。興味ある人にとってはたまらないだろう。
立ち寄ると長居してしまう昔からの町並み
コンパクトな町な為、歩きでも自転車でもどちらでも快適に散策できる規模なのも嬉しい。おしゃれなカフェや宿泊施設、ドラマやアニメに出てきそうな都市部ではなかなか見られない昔ながらのパン屋さんの入り口からは、おばあちゃんがコッペパンを次々とオーブンの中へ入れている。シンプルの極みとも呼べるそのパンと香ばしい匂い。統一感のある街並みと今も続く暮らし。特に観光用の手入れを意識していない昔からの”普通”が旅行者にとっては最も刺激的なものだ。
自転車旅のみならず室戸岬の宿泊や休憩場所としてここで一息つくのもオススメだ。ひっそりと、でも脈々と続く昔ながらの生活感に心地良さを感じるのは私だけではないはずだ。寄り道こそ自転車遍路の大きな楽しみと思わせてくれた吉良川町であった。
【「吉良川の街並み」 地図】