【87番札所長尾寺】レイライン的な観点から見た札所の構造

87番札所長尾寺は、源平合戦とエピソードと関連が深いお寺です。平野に位置するお寺からみえる山々や、周辺にたくさんある史跡に目を向けると、他地域との歴史的なつながりもみえてきます。

スポンサーリンク

 

レイライン的な観点から見た札所の構造

四国八十八ヶ所の札所は、由来書はもとより、様々なガイドブックや寄稿文などで、その歴史が紹介されています。そんなこともあって、すでに語り尽くされているような印象がありますが、個々の札所をその構造から分析するレイラインハンティングの観点で見直してみると、今まで語られてこなかった札所の歴史や、個々の札所に込められた古の人の思いが明らかになってきます。
今回は、さぬき市エリアの87番札所長尾寺をご紹介します。

 

明るく伸びやかな風景が広がる東讃に点在する聖地

海沿いにあって海人の伝説を伝える86番札所志度寺。静御前の母方の出自が近く、その勢力範囲だったと伝えられる長尾寺。いずれも海を活躍の場とする一族が崇めた聖地で、その名残りが各所に残る。
一方、四国山地が間近に迫る谷間に位置する88番札所大窪寺は、忌部氏などの山の民との縁が深い。

お遍路さんにとっては、結願へ向かっての最後の仕上げの道のりであり、足が急ぐ。リピーターや一般の観光客、あるいは車で巡るお遍路さんにとっては、コンパクトに讃岐らしい自然の変化と文化の変化が味わえるエリアであり、札所だけでなく、その間にある様々な史跡なども巡りたい。
また、結願した後、大窪寺から再び海へ向かうエリアにも、日本神話との関わりの深く、空海はもとより最澄も滞在して修行したと伝えられる古社・水主神社などがあり、讃岐の歴史の古層を味わえる。

さぬき市 レイライン 地図

海岸縁の志度寺から内陸へ向かい、長尾寺からは次第に傾斜を強めながら、最後は一気に山を越えていく大窪寺までの行程は、四国独特の海と山の文化を繋いでいくグラデーションが味わえる。

 

87番札所長尾寺(ながおじ)

<由緒>

四国八十八ヶ所87番札所長尾寺
天台宗 補陀洛山観音院
本尊:聖観世音菩薩

寺伝によれば天平11年(739)、行基が聖観音像を刻んで堂宇に安置したのが始まりとされる。年頭7日に、空海が護摩符を丘の上から人々に投げ与えたという伝説から、毎年1月7日に「福奪い」行事が催される。静御前の母の実家が近くで、義経が亡くなった後、静御前は母とともにこの寺で得度し、髪を納めた。その静御前の剃髪塚が境内にある。

 

海人族による尊崇と太陽信仰の符合

前の札所の志度寺から長尾寺への遍路道は平坦で長閑な道で、海からそのまま続く平野に位置していることがわかります。静御前の母親の一族は、この周辺を本拠にした豪族で、源平合戦の折には源氏方について、大いに力を発揮したと伝えられていますが、海戦が得意な彼ら海人族が加わった効果は大きかったでしょう。

長尾寺 本堂

毎年1月7日の福奪いは、本堂前のひらけた境内で行われる。

長尾寺 三羽雀

寺紋は「三羽雀」で、空海の出自である佐伯氏の家紋と同じであることから、空海とも非常に縁が深いことがわかる。

長尾寺 静御前剃髪塚

静御前の剃髪塚は本堂向かって左側にある。

また、長尾寺から見ると北東にある双耳峰「大鉢山」の鞍部が夏至の日出方向に当たります。長尾寺がある三木町周辺には讃岐らしいビュート状の山が点在し、古代から修験道の行場として使われていましたが、長尾寺と大鉢山の位置関係から、修験道の本拠としても機能していたと想像できます。
古代から瀬戸内海の海運のベースとして栄えた長尾寺周辺には、多くの古い史跡があります。大鉢山と同様に修験道と縁の深い白山や嶽山、海から豊玉姫が川を遡上したという伝説に因んで創建されたとされる二つのわにかわ(和爾賀波・鰐川)神社、また、行基創建の寺社の他、行基が考案したとされる日本式のサウナ「から風呂」もあります。この空風呂は、かつて瀬戸内海沿岸に数多くありましたが、現在でも使われているのは、ここひとつだけとなっています。また、行基が造営したといわれる鍛治池のほとりにある薬師堂は静御前が源義経の菩提を弔った庵だと伝えられています。これらの趣き深い古跡巡りも、ぜひ札所巡りに加えたいところです。

からふろ

今でも稼働している行基の「から風呂」。国内で、ここが唯一現存する。

静薬師

静御前が義経の菩提を弔ったと伝えられる薬師堂の裏には、静御前とその家族、従者の墓がある。

 

札所周辺の史跡や、源平合戦の経緯など、少し視野を広げてみると、地域のより深い歴史や他地域とのつながりもみえてきて、興味関心がどんどん広がっていきます。

 

【「87番札所長尾寺」 地図】

四国遍路巡礼に
おすすめの納経帳

千年帳販売サイトバナー 千年帳販売サイトバナー

この記事を書いた人

聖地と呼ばれる場所に秘められた意味と意図を探求する聖地研究家。アウトドア、モータースポーツのライターでもあり、ディープなフィールドワークとデジタル機器を活用した調査を真骨頂とする。自治体の観光資源として聖地を活用する 「聖地観光研究所--レイラインプロジェクト(http://www.ley-line.net/)」を主催する。