【城郭建築の基礎知識④】城郭の普請と建造物の施工(用語解説)

現代の日本には歴史的建造物としてお城が保存されていたり復元されたりしています。築城の基礎工事にあたる普請、建造物の施工がどのように行われてきたのか、城郭建築の分野でよく使われる用語とあわせて、具体的にご紹介します。

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※築城の計画や選地、城郭の設計に関しては、以下リンクの記事でご紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。

【城郭建築の基礎知識③】築城の計画・選地と城郭の設計(用語解説)

 

 

普請 -お城の基礎を造るー

築城工事の中で、石垣(いしがき)、土塁(どるい)、堀割(ほりわり)などの土木工事を「普請(ふしん)」といいました。城は堀と塁が防備の主線であり、その上に載る建物は単なる装飾であったといってもいいほどです。築城工事の8〜9割までは、この普請に時間が割かれます。

【お城の掘の種類】
堀は、防御のために掘った凹地です。堀の中に水の有無、掘り方や形状から、多様な形態に分類されます。 古代から中世にあたる1世紀から16世紀中頃までは、上幅4〜7m、 深さ2.5〜3.5m、16世紀中頃以降は、上幅12m、深さ7m余が多くなります。堀幅が12mと広くなっていったのは、長さ5.5〜6mの長柄槍(ながえやり)での攻防戦が主流となったからです。代表的な堀の形態は以下の2つです。

●水堀(みずぼり): 水堀は「濠(ほり)」とも書き、湧水や河川からの導水で水を張った堀のことをいう。平時には水運にも利用されていた。

●空堀(からぼり):堀の中に水のない堀。

水堀

水堀の例。

 

【お城の土塁の種類】
土塁は、堀を掘った土砂や削平造成した折の土砂を塁線に盛り固め守備に活用したり、攻撃の台座ともしたものをいいます。築造方法や形態の違いから、次のような種類があります。

●叩き土塁(たたきどるい):異なる種類の土砂を盛るたびに叩いて固めた土塁。

●版築土塁(はんちくどるい)・版築状土塁(はんちくじょうどるい):版築とは型枠を当てて、土・小石・砂などを交互に薄く突き固めるが、 版築状土塁は型枠を使わずに版築をしていく土塁のことをいう。

●切岸(きりぎし):緩斜面を削って角度を得る方法。削った上は曲輪の造成や土塁の築造に使われた。

土塁跡

土塁の跡。

 

【お城の石垣の種類】
石垣は、城郭の塁線に積まれた石積みです。従来からの分類である「野面積」「打ち込みハギ」「切り込みハギ」の3種を基本として、石材の加工方法や積み方の方法により、さらに細分化することができます。

●野面積(のづらづみ):自然石や採石した石材をそのまま積み上げた石垣。

●打ち込みハギ(うちこみはぎ): 石の角を平らにして互いに組み合わせて築いた石垣。

●切り込みハギ(きりこみはぎ):石の形を整形して、石の平面を平らにして積んで築いた石垣。

●算木積(さんぎづみ): 石垣の生命線となる隅部強化のため、長方形の石材を縦横交互に積み上げる方法。

●布積(ぬのづみ):細長い石を2つの石の下方に均等に荷重がかかるように積み上げる方法。横目地がそろって見える。

●亀甲積(きっこうづみ):石の形を六角形に整形して積み上げる方法。 枡形門の正面など人目につきやすい箇所に使われており、視覚を重視した積み方。

野面積

発掘中の野面積。

 

 

施工 -お城の建物を造るー

普請工事が完了すると、天守(てんしゅ)や櫓(やぐら)、さらに門や塀などの付属物の建築工事に取りかかります。

【お城の天守の種類】
天守は、城の象徴的な建物で、天主・殿主・殿守などとも記され、天守閣(てんしゅかく)とも称されます。安土城ではその詳細を記した「信長公記」で、すべて「天主」と記されているのが一例です。
中世の主殿建築の大棟上に望楼を挙げたのが始まりといわれることから、天守は「築く」 や 「建てる」とはいわず「あげる」といいます。
構造や構成から主に次のような種類に分類されます。

●望楼式天守(ぼうろうしきてんしゅ):下層の二階造りの入母屋屋根の大棟上に望楼を載せた形式。

●層塔式天守(そうとうしきてんしゅ):各層が一定の比率で小さくなって重なっていく形式。 中層の入母屋屋根をはじめ破風飾りが全くない場合が多い。

●独立式天守(どくりつしきてんしゅ):天守だけが単独で建つ形式。

●連結式天守(れんけつしきてんしゅ):天守に小天守か櫓が廊下塀や多聞櫓で結ばれる形式。

●複合式天守(ふくごうしきてんしゅ):天守に小天守や櫓が付属する形式。

●連立式天守(れんりつしきてんしゅ):天守と小天守や櫓を多聞櫓で連結させ天守曲輪を形成する形式。

●御三階櫓(おさんがいやぐら):天守の喪失後や天守に代わるものとして建てられた三層櫓。

望楼式天守模型

望楼式天守の模型。

姫路城_連立式天守

連立式天守の例「姫路城」

 

【お城の特徴的なしつらえ】
●鯱(しゃちほこ):天守や櫓の大棟左右の両端に雌雄一対であげる。 頭部が龍で尾部が魚の形をしている想像上の動物。 水を呼び、木造建築である城を火災から守ってもらうという、火除けの目的。 多くは瓦製だが、木型や銅型の上に金箔を張ったものもある。

●石落し(いしおとし):天守や櫓、櫓門の壁面、塀の出張りに設置された防御用開口部のこと。下方に開口し、真下方向にいる敵を標的にしている。 開口部は幅20cmほどで、 普段は蓋をして、 使用時に蓋を取り除いて開ける。
用途としては、石を落とすほかに煮え湯や汚物などを落として敵を迎撃する設備とする一方、間口の狭さからおもに鉄砲、弓矢や槍で迎撃するものともされる。 石落しから何で攻撃したかは諸説ある。
その形状から袴腰型(はかまごしがた)・戸袋型(とぶくろがた)・出窓型(でまどがた)の3種に大別されるが、天守台櫓台からの出張りのある櫓や天守では、張り出した床面を石落しとして利用した例も多かった。

●破風(はふ):天守櫓の屋根の上、もしくは軒に付けられる装飾。軒の中央部を上方に曲線状にまげる唐破風(からはふ)、屋根の中央部を三角形にした千鳥破風(ちどりはふ) 、逆V字形で切妻造りの屋根につく切妻破風(きりづまはふ)、千鳥破風が2つ並ぶ比翼千鳥破風(ひよくちどりはふ)などの種類がある。

●華燈窓(かとうまど):天守櫓などに付けられた装飾された窓。花頭窓、火灯窓とも表記される。

金鯱模型_名古屋城

名古屋城の金鯱の模型。

唐破風、千鳥破風、華燈窓がすべて揃った天守の例。

 

【お城の櫓の種類】
櫓(やぐら)は、矢蔵・矢倉とも記され、弓矢を収納・常備していた塁上の物見や防御攻撃を目的とした建物です。門上に周囲を陣幕で覆った舞台状の形から、戦い方や時代の変化とともに、様々な形態へと進化していきました。櫓には、極めて多彩なタイプがありますが、その一例を紹介します。

●平櫓(ひらやぐら):単層の櫓。

●多聞櫓(たもんやぐら):塁上に建つ細長い長屋状の櫓。 多くは単層であるが、二階建ての多聞櫓も存在する。

●太鼓櫓(たいこやぐら):時刻や火災など緊急事態を報せるため太鼓を備える櫓。

 

 

お城というと天守に目が行きがちですが、お城の機能としては、基礎工事にあたる石垣、土塁、堀割などの普請が非常に重要で、時間も技術も必要になります。建造物にもその機能や役割に応じて、様々な種類があり、先人が築き上げた知恵を受け継がれてきた技法が詰まっています。

※城郭建築の歴史の変遷に関して、以下リンクの記事でご紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。

【城郭建築の基礎知識①】日本のお城の変遷(原始-古代-中世-戦国時代-安土桃山時代)

【城郭建築の基礎知識②】日本のお城の変遷(江戸時代-近代-現代)

 

 

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。