【旧徳島城表御殿庭園】「阿波の青石」と「潮入りの庭」が特徴の豪華絢爛回遊式庭園

徳島県徳島市にある「旧徳島城表御殿庭園」は、安土桃山時代を代表する豪華絢爛な庭園で国の名勝に指定されています。地元で採れる「阿波の青石」が使われているのが特徴で、かつては園池に海水が引き込まれ干満がありました。

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徳島城に整備された豪華絢爛な庭園「旧徳島城表御殿庭園」

現在の徳島県徳島市にあった徳島城は、安土桃山時代の天正12年(1585年)に蜂須賀家政(はちすかいえまさ)によって築城されて以降、蜂須賀氏歴代の居城となりました。丘陵部に本丸と二の丸などが設けられ、麓に藩主の居館と表御殿や西の丸が築かれていました。現在は、徳島城跡が大規模な公園「徳島中央公園」として整備され、藩主の居館跡に博物館が建設されていて、その東側に庭園が保存されています。
※徳島城と徳島中央公園について、以下リンクの記事でご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。

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「旧徳島城表御殿庭園」は、徳島城の表御殿の庭として、慶長5年(1600年)頃に作られたと伝えられています。昭和16年(1941年)に国の名勝に指定されました。庭園面積は9917.35㎡、うち名勝庭園指定面積は5024.79㎡の広大な庭園です。
庭石として「阿波の青石」といわれる緑色片岩がふんだんに使われているのが特徴で、枯山水部分は小書院に面していて、 特異な石の原産地ならではの華やかさを見せています。江戸時代には、 池部分は藩主の居間に接していたのですが、現在は両方合わせた回遊式の庭園になっていて、築山泉水庭とも呼ばれます。この庭園の作者は、客として滞在していた武将で茶人の上田宗箇(うえだそうこ)とされています。

室町時代、禅宗の僧侶たちは、水墨画や禅宗思想の影響により、水を使わずに石や砂利で河川や海洋を表現した「枯山水」をつくり出しています。禅宗とは、臨済宗や曹洞宗などの座禅を主とする宗派です。枯山水は水がなくてもよく、経費もあまりかからないことから、枯山水の庭ががつくられることが増えていきました。
枯山水の成立は、三重県の北畠氏館跡で園池の周囲の一部に数個の石を立てたものとされています。京都の大徳寺(だいとくじ)の大仙院(だいせんいん)では、山奥から流れ出た水が川となって、大海に注ぐ様子を石組と白川砂で表現したものに変化しています。龍安寺(りょうあんじ)では、コケ以外には植物はなくなり、15個の石と白川砂だけを使うだけという、究極的な姿になっています。
江戸時代の広大な庭園では、園池、築山、石組、滝、橋、茶室、待合、飛石、燈籠などを巧みに配置するだけでなく、徒歩や舟で巡りながら茶室で遊んだり、庭園の光景の変化を楽しんだりできるように工夫がされていました。こうした庭園を、巡って楽しめる庭園という意味から「回遊式庭園」と呼んでいます。
奈良時代の平城宮東院庭園や平安時代の嵯峨院の大沢池、室町時代の鹿苑寺(金閣寺) 庭園なども、大規模な庭園なので回遊して楽しめますが、一般的には江戸時代の大名庭園などの様式を説明する場合に限って「回遊式庭園」と呼んでいます。

旧徳島城表御殿庭園_回遊式庭園

江戸時代の大名庭園として、大規模な回遊式庭園が全国各地に作られました。

 

海水を引き入れた「潮入りの庭」

以前は、数寄屋橋下から地下水路を通して海水が内堀から園池へ入る構造だったため、園池は干満がありました。
江戸時代の大名の別邸だった海辺の下屋敷では、大規模な園池が設けられる場合が多かったので、水道上水では水量が不足するために、手近にある海水を使うしかありませんでした。海水は潮の満ち引きがあることから、旧浜離宮庭園や旧芝離宮庭園などでは石組などが見え隠れするように工夫して、景観が変化するのを楽しめ るようにしています。このような海水を入れた庭園を「潮入りの庭」と呼んでいます。潮入りの庭をつくることは地方にも広まって、和歌山県には紀州藩主が造営した養翠園(ようすいえん)が残っています。変わったところでは、淡水である琵琶湖の水を引いていた旧彦根藩松原下屋敷も、月の引力で水面が上下することから潮入りの庭の一種とされています。
旧徳島城表御殿では、昭和21年(1946年)の昭和南海地震で地盤沈下が起きて水位が上昇したために、昭和32年(1957年)の修復工事で海水を止めてしまい、現在は雨水と給水に頼るようになっていますが、現在も園池の水が多い時には、飛石伝いに対岸に渡れない状態になり、干満の名残がみられます。できることなら元のように海水を入れて、名園を復活させてもらいたいと思ってしまいます。

旧徳島城表御殿庭園

旧徳島城表御殿庭園は、阿波の青石とかつては海水を引き込んでいた園池が特徴の広大な回遊式庭園です。

 

旧徳島城表御殿庭園は、阿波の青石や海・川に近い立地を活かした庭園で、地域の歴史や特性を色濃く反映した史跡です。お遍路道中では、徳島市街地に立ち寄ったり宿泊したりする人が多いと思いますので、徳島中央公園内にある徳島城跡や旧徳島城表御殿庭園などにぜひ立ち寄っていただき、徳島のかつての繁栄の様子を感じてみてください。

 

【「旧徳島城表御殿庭園」 地図】

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。