【阿波国分寺庭園】15番札所国分寺の「阿波の青石」を駆使した国指定名勝庭園

「阿波国分寺庭園」は、四国八十八ヶ所霊場15番札所国分寺の境内にある国指定名勝の庭園です。地元特産の「阿波の青石」を豪快に配置した池泉観賞式庭園で、珍しい建築様式の本堂・瑠璃殿も含めた全体の構成・景観に特徴があります。

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「阿波の青石」を駆使した国指定名勝庭園「阿波国分寺庭園」

徳島県徳島市国府町矢野に位置する「阿波国分寺(あわこくぶんじ)」は、四国八十八ヶ所霊場の15番札所です。奈良時代の天平13年(741年)の聖武天皇の国分寺建立の詔(みことのり・勅命のこと)で、僧侶・行基(ぎょうき)によって建造された、全国68ヶ所に建てられた国分寺および国分尼寺のひとつで、阿波国の国分僧寺(こくぶんそうじ)が基になっています。
鎌倉・室町時代も建物は整っていたようですが、その後荒廃して江戸時代の元禄2年(1689年)の「四国遍礼霊場記(しこくへんれいれいじょうき)」 の図では、12個の礎石と塔の基壇、弥勒堂と家屋が描かれているだけになっています。
江戸時代中期の寛保元年(1741年)から徳島藩が再興を行って、文化7年(1810年)に唐様の現本堂である瑠璃殿を建てています。平成時代になって保存整備が行われた際の発掘調査で、18世紀末〜19世紀初頭頃に現本堂の建立に伴って、現在ものこる「阿波国分寺庭園」が整備されたと推定されました。

阿波国分寺庭園_15番札所国分寺境内

阿波国分寺の境内は、残念ながら隆盛期の面影は少なくなっています。

阿波国分寺庭園は、地元特産の「阿波の青石」を使った豪快な石組が特徴の池泉観賞式(ちせんかんしょうしき)の庭園で、本堂東側の枯池式(かれいけしき)庭園と、四周に石組を配した築山式枯山水(つきやましきかれさんすい)庭園で構成されています。
池泉観賞式とは、書院などの建物から眺める池泉庭園の形式のことをいい、座敷から最も素晴らしい景色を眺めることができるように、石組み、樹木、手水鉢、灯籠などが配されています。
枯池式庭園は、水を用いていないのに実際に池があるかのように石を組み、空っぽの池を表現しています。
築山とは、庭園をつくる場合に地面が平坦では変化がないので、自然の丘陵にならって土を盛って築く人工的な山のことをいい、さらに変化をつけるために、山の岩盤のように石を置いたり、森林をまねて樹木を植えたりもします。日本の風景の主要な要素である丘陵や山岳が、庭園に与えた影響は大きいといえます。
※枯山水庭園については、以下リンクの旧徳島城表御殿庭園の記事で詳しく説明していますので、こちらもぜひご覧ください。

【旧徳島城表御殿庭園】「阿波の青石」と「潮入りの庭」が特徴の豪華絢爛回遊式庭園

庭の石にすべて青石を使っているのが徳島らしいのですが、特に本堂西側にある立石は豪快で、本堂東側の枯滝、枯流れ、枯池の構成も力強いです。石を斜めに据えている部分が多いことは、技法の高さを示しており、平成12年(2000年)に国の名勝に指定されました。
国指定名勝とは、文化財保護法に基づいて国が認定している名勝のことです。令和5年(2023年)現在で、全国に408件あります。名勝とは、芸術上または観賞上価値が高い土地で、庭園、橋梁、峡谷、海浜、山岳などが該当します。
名勝は、自然的名勝と人文的名勝に分類されます。自然的名勝は、主に自然の働きによって形成され、歴史や文化にも支えられている景観です。人文的名勝は、日本庭園のような人為的に形成された景観で、阿波国分寺庭園はこれに当たります。さらに価値の高いものは特別名勝に認定されます。特別名勝は、国宝と同格で国から指定を受けている大変価値の高い景観です。

阿波国分寺庭園_阿波の青石

阿波の青石が豪快に配置されているのが特徴です。

 

珍しい2層屋根タイプの本堂・瑠璃殿と庭園の構成

阿波国分寺庭園の風情をより一層引き立たせているのが、本堂である瑠璃殿です。四国八十八ヶ所霊場の札所では珍しい本瓦葺きの2層屋根のタイプのお堂で、全体に立体感があります。
ガイドブックなどには一切説明されていませんが、どう見てもこの瑠璃殿を霊山に見立てて庭園が配置されています。仏教の世界観では仏さまは山にいるとされており、寺院では仏さまがいる建物はすなわち山、霊山である須弥山(しゅみせん)を想定しています。寺社の建造物の屋根に反りがあるのは山の稜線をイメージしているともいわれています。すべての寺院に〇〇山という山号が付いていることにも関連しています。
阿波国分寺の本堂が2層の屋根や立体感あるスタイルに設計されたのは、もしかして庭園のためではないかと思えるほどです。また、境内には奈良時代に建てられた七重塔の巨大な礎石が残されています。西側に七重塔を配して金堂・講堂が直線上に並ぶ東大寺式伽藍配置になっています。
青石の豪快な使い方から安土桃山時代の作庭とされてきた経緯がありますが、前述の江戸時代前期の絵図からもこの説は否定され、作庭時期ははっきりしていませんでしたが、平成時代の発掘調査により、本堂の建立と近い時期の作庭と推定され、本堂との関連性が非常に強い庭園であるといえます。

阿波国分寺庭園_本堂・瑠璃殿

阿波国分寺庭園を鑑賞する際には本堂・瑠璃殿と庭の造作物との関係にも着目してみてください。

 

お遍路道中で、お遍路さんは当然のことながら必ず参拝する15番札所国分寺ですが、この立派な阿波国分寺庭園をじっくりと観賞することなく、次の札所へと進んでしまうお遍路さんが多いのは残念なことです。その豪快な青石の石組と本堂も含めた全体の構成・景観をぜひお楽しみください。

 

【「阿波国分寺庭園」 地図】

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この記事を書いた人

建築・不動産・旅のテーマが得意なライター。社寺系ゼネコンに勤務経験があり、四国八十八ヶ所霊場の札所建築物の改修工事に携わったことがあります。仏教に興味があり、2022年には四国のお遍路巡礼もしました。ライターとは別名義で作家として小説も書いています。