愛媛県今治市にある「今治城」は、瀬戸内海に面する海岸に築かれ、海水を引き入れた堀やかつては船で城に出入りができた特徴的な水城です。築城の名手・藤堂高虎による名城で、日本三大水城のひとつに数えられます。
海水を引き入れた堀が特徴的な日本三大水城のひとつ「今治城」
愛媛県今治市は海の街です。瀬戸内海に面し、北に来島(くるしま)海峡、 東に燧灘(ひうちなだ)を控えた昔も今も海上交通の要所です。そんな潮風が吹きつける海岸に築かれたのが「今治城(いまばりじょう)」です。
香川県・高松城、大分県・中津城とともに日本三大水城(みずじろ)のひとつに数えられています。かつては、内堀、 中堀、外堀と堀が3重にめぐらされ、すべての堀に海水を引き入れていました。海岸の地形を最大限に活用した城です。 中堀には「舟入(ふないり)」と呼ばれる場所があり、城が現役で使われていた当時は海から船で、掘や城内への出入りもできました。 現在は周囲1.2㎞ほどの内堀が残るのみですが、水城の趣は健在です。内堀には今も瀬戸内海の水が流れ込み、タイやヒラメなどの魚が泳いでいます。
※城郭建築の設計や選地、種別の用語に関しては、以下リンクの記事で詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。
【城郭建築の基礎知識③】築城の計画・選地と城郭の設計(用語解説)
築城の名手・藤堂高虎
二の丸跡の鉄門跡には「勘兵衛石(かんべえいし)」という巨石があります。慶長2年(1597年)から始まった今治城築城で総奉行だった渡辺勘兵衛(わたなべかんべえ)が用いた石といいます。
その勘兵衛がつかえた今治城主が、築城の名手といわれる藤堂高虎(とうどうたかとら)です。慶長5年(1600年)の関ヶ原の合戦で戦功をあげ、宇和島城に東伊予を加増されました。その際に高虎が入城したのは、 中世の伊予の支配拠点で、現在は59番札所国分寺がある地域の国分山城(こくぶやまじょう)でしたが、山城だったため、水陸の基地にふさわしい新たな城地を求めました。そうして、現在の瀬戸内海沿岸の海岸に城を築いたのです。
本丸、二の丸の石垣の下に犬走(いぬばしり)という細い通路がめぐらされており、これは高虎の時代の遺構です。
高虎は、その勇ましい名前に反して保身が上手い「おべっか使い」のイメージがありますが、言い換えれば稀代の世渡り上手といえるでしょう。 仕えていた豊臣秀吉の病状が悪化し、もはや再起不能とみられたころから、徳川家康のもとにしきりに出入りし、豊臣家の内状を逐一報告しました。家康が、関ヶ原前夜に豊臣大名を懐柔したりおどしたりして味方にひき入れる内部工作をしたことについては、この高虎の内報が大きく影響を与えたといいます。 家康は「高虎には用心せねば。なんといっても近江の草深い在所から這い出し、その半生において何度主人を変えたかかぞえきれぬほどの世巧者な男だ」と思っていたといいますが、関ヶ原ののち十数年、 高虎はなおもそれを持ちつづけてきたため、最初は世巧者でやっていたことが、彼自身家康への忠誠心とかわりないものに変質しているように思え、家康もまた気を許すようになったといいます。
櫓や天守の再建で貴重な文化財の展示も
今治城の建造当時は、二之丸に藩主館、中堀以内に側近武士の屋敷、外堀以内に侍屋敷、城門が9ヶ所、櫓が20ヶ所とかなり大がかりな造りだったと伝わっています。慶長14年(1609年)に高虎が伊勢国津城(現在の三重県津市)に移封となり、慶長15年(1610年)に解体され、天下普請の丹波国・亀山城(現在の京都府亀岡市)に移築されたそうです。
しかし藤堂家の今治領2万石は飛び地として残り、高虎の養子の藤堂高吉(とうどうたかよし)が居城していました。このころの天守は望楼型天守が主流でしたが、今治城では新たに層塔型天守を造りました。以後、高虎がこの様式を江戸城をはじめとする城郭普請に採用したことで、高虎の天守建築が近世における天守建築の主流となっていきました。
明治維新の廃城令によってほとんどの城郭建築が破却されましたが、今治城は内堀に囲まれて二の丸跡と本丸跡が残ります。二の丸跡には昭和55年(1980年)に武具櫓(ぶぐやぐら)、昭和60年(1985年)に御金櫓(おかねやぐら)、平成2年(1990年)には山里櫓(やまざとやぐら)が再建されました。現在は、御金櫓は郷土美術館、山里櫓は古美術館となっています。
本丸跡には昭和55年(1980年)に再建された5層6階の天守閣がそびえています。再建された天守内部には今治城や今治藩に関連する資料が展示されています。
今治城は、築城の名手・藤堂高虎による縄張りの名残が現代にものこり、日本三大水城とされるにふさわしい特徴的な造りです。再建された天守や櫓からかつての姿をイメージすることができ、貴重な文化財などが展示されているので、歴史探訪にぜひ訪れてみてください。
【「今治城」 地図】