愛媛県松山市北条地区の沖に浮かぶ「北条鹿島」は、自然豊かで、野生のシカが生息する景勝地・観光地です。島の見どころや俳優・渥美清がお忍びでたびたび訪れたというゆかりの場所などを訪ねました。
シカの渡船で「北条鹿島」へ
「北条鹿島(ほうじょうかしま)」は愛媛県松山市北条地区(旧 北条市)の西方の海上約300mのところに浮かぶ、周囲約1.5km、標高144mの小島です。春は桜と新緑、夏は海水浴とキャンプ、冬は釣りが楽しめる観光の島で、島名の由来にもなった島に生息している野生のシカは愛媛県の天然記念物に指定されています。
遍路道中だと、53番札所円明寺と54番札所延命寺の間に位置し、遍路道も松山市と今治市を結ぶ海岸線を進むので、立ち寄りやすい場所にあります。
北条鹿島へのアクセスは、JR伊予北条駅より徒歩10分のところにある鹿島公園渡船乗り場から島へ渡る渡船が出ています。渡船の名前はずばり「かしま」で、なんとシカのオブジェが屋根に飾られています。
渡船は4月~10月は日中1時間に3便、11月~3月は1時間に2便で運航していますので、島のアクセスはとても便利で、いついっても待ち時間は少ないです。
船に乗船すると、船内のアナウンスの声は地元松山市出身のタレント・友近です。
シカの歴史は古く、鎌倉時代に九州から持ち帰ったとの伝承があります。島にはシカ園内と野生のシカが70頭あまり生息しており、売店でシカの餌を売っているので餌やり体験もできます。
早坂曉と渥美清
「花へんろ」「夢千代日記」をはじめ数々名作ドラマを生み出した松山市(旧 北条市)出身の作家・脚本家の早坂曉(はやさかあきら)と、「男はつらいよ」の寅さん役で有名な俳優の渥美清(あつみきよし)の句碑が島内にあり、観光名所になっています。二人は無名時代に浅草の銭湯で出会って以来の親友で、早坂さんに連れられて北条鹿島を訪れた渥美さんは島をたいそう気に入り、お忍びでたびたび訪れていたそうです。
ふたつの句の両方に「遍路」という言葉が入っているように、鹿島がある北条地域ではお遍路さんが行き交う姿が風物詩となっていて、地域の人の生活にお遍路文化が根付いていることを感じさせます。
周遊船で名所「水晶ヶ浜」「石門」「玉理島・寒戸島」へ
北条鹿島には海水浴場、キャンプ場、山頂に展望台、鹿島神社などがありますが、鹿島の一番の景勝地は島の裏側のビーチです。白い砂浜の「水晶ヶ浜」や、波によって浸食した奇岩「石門」があります。
※アーチ状になっていた石門は、2018年に上部が崩れてしまいました。
かつては歩いて周遊することも可能でしたが、現在は崩落の危険から島の裏側への道は通行止めで立ち入ることができません。しかし鹿島周遊船「花へんろ(愛の航路)」で、船に乗って島の裏側をみることができます。
周遊船の運航については次のようになっています。
●周遊船乗り場:鹿島桟橋乗り場(鹿島発着)
●運航日時:
1)7月第2土曜日~8月31日までは10時37分~日没まで1時間おきに運航(予約不要)
2)上記以外の期間は10時37分~日没までで利用希望日の前日17時までに申し込み
※2名より運航。
また、周遊船の見どころは水晶ケ浜や石門だけにとどまらず、「伊予の二見」と呼ばれ、夕日の絶景スポットでもある夫婦岩「玉理島(ぎょくりじま)・寒戸島(かんどじま)」も巡ります。
渡船は3分の短時間の船旅ですが、周遊船は30分程度の遊覧ができますので、北条鹿島の風景・名勝と、瀬戸内海の潮風をゆったり感じるのにおすすめです。
名物「北条鯛めし」と渥美清が愛した「あさぎりの間」
北条鹿島では地域の名物の「北条鯛めし」を食べることができます。愛媛県の郷土料理の鯛めしには大きくわけて2種類あり、今治市(東予)や松山市北条(中予)のエリアを中心に根付いているのが、鯛をご飯と一緒に炊き込む鯛めし、宇和島市(南予)周辺のエリアでは鯛の刺身をタレにつけ込み薬味といっしょにご飯にかけて食べる漁師風鯛めし(宇和島鯛めし)です。
炊き込みタイプの北条鯛めしを食べるために訪れたのは、桟橋からすぐの所にある太田屋旅館鹿島店です。店内に入ると2階の大広間に案内され、三方を海に囲まれた絶景の展望海上座敷でした。
名物の食事もさることながら、私が太田屋旅館鹿島店を訪れたのは、渥美さんがお忍びで滞在した「あさぎりの間」を拝見するためです。お店のスタッフさんに許可をいただき「あさぎりの間」を見せていただきました。
渥美さんが都会の喧騒から離れて、ここで日がな一日海を眺めて心を癒していたのだろうと想像すると感慨深かったです。
北条鹿島は、陸地からわずか3分の船旅でたどり着くことができる、自然豊かな景勝地です。お遍路文化ともゆかりが深く、お遍路道中で立ち寄るのにもアクセスが良いですので、島に渡って非日常に身をゆだねるのもよいのではないでしょうか。
【「北条鹿島」 地図】