山間部に位置する神山町から徳島市内方面へ。緩やかな山をいくつか越えると、じきに多様な景色が両脇に広がってくる。田んぼや畑が両側に展開し、季節を告げる花々や農作物が目に飛び込んでくる。
彼岸花とスダチ畑の癒し
神山町を出て13番札所大日寺までの区間では、様々な風景の変化を楽しむことができる。その中でもところどころで出会う癒しの風景は絶品だ。
神山町を出発し、ほとんどといっていいほど大きな集落の見受けられない山間部で緩やかなアップダウン走行を繰り返していくと、いくつかのエリアでのどかな田畑を有する土地をいくつか通過することになる。なんだか随分可愛らしく絵になる無人販売所付近で、ここまでの山間部走行の疲れを癒すために少し休息を取ることにした。
視界はパンと開けているのだがそこに人影はほとんど見受けられず、いよいよ秋といえる10月に入ったことが感じられないほど、私が居住している関西地域と比べるとはるかに強い日差しが農作物に降り注いでいた。この日差しと気候が育むのか、周辺にはざくろやスダチがたわわに実をつけ、唯一、秋が近いことを知らせる独特の赤色を目立たせる彼岸花が田んぼのあぜ道で咲き始めていた。
畑のへりに少し座らせてもらい、汗をかいた身体に給水する。さわやかなそよ風がたわわに実る柑橘類の畑を抜けていく風景が、徳島の田舎を感じさせてくれる。都会を出てこの旅を始める前に思い描き、出会えることに期待を持っていた、そんな風景と時の流れがそこにはあった。
四国遍路巡りは、もちろん八十八ヶ所霊場を巡ることが本来の基本的な旅の目的ではあるけども、札所と札所をつなぐ遍路道の道中で学ぶことの方が実は多いのかもしれないと再認識。自動車やバスでの周遊と比べ、”どこでもちょっとストップ”が可能であることや、風や気温、そして走行中の土地に漂う匂いを直接体感しながら少しずつ進むことができるのも、自転車走行の大きなアドバンテージ。走行時、こんなのどかで色彩豊かな風景に出会うと、なんだか桃源郷にいるように感じることもあった。あくまで自力走行である自転車だからこそ、その心地よい疲れが風景の素晴らしさを倍増してくれるのかもしれないし、それらの癒しはよりいっそう絶品となる。