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16番札所観音寺近くの「鱗楼」は大正時代創業の老舗料理旅館で、仕出し料理屋と旅館の両方の顔を持っています。家族経営の宿で、なんと全員が調理師免許保持者。食事の美味しさからリピーターになるお遍路さんも多いそうです。

 

家族4人全員が調理師免許を持つ料理旅館「鱗楼」

お遍路さんが泊まる宿の歴史や思いについてインタビューする遍路宿紹介シリーズ。今回は、徳島市の16番札所観音寺から徒歩5分の場所にある老舗料理旅館「鱗楼」にお邪魔しました。この「鱗楼」は、遍路序盤の難所である12番札所焼山寺周辺に泊まった歩き遍路さんが次の宿に選ぶことの多い宿です。

創業は大正時代。現在のオーナーは5代目で、家族4人で経営しています。鱗楼は仕出し料理も提供している料理旅館で、家族全員が調理師免許を持つ料理人の一家。そのなかでも主に献立作りを担当している尾杉千晶さん(5代目のお姉さま)に、宿の歴史と食へのこだわりについてお聞きしました。

鱗楼 尾杉千晶さんの書

お話ししてくださった千晶さんの書。食べることと美味しいものが大好きな千晶さんの気持ちが書にも表れています。

 

鱗楼の原点は仕出し料理を提供していた鮮魚店

千晶さんによると「鱗楼」の前身は魚屋だったそうで、魚屋が作る仕出し料理が評判となり(当時は法事などの席に鮮魚店が料理を提供していた)、料理旅館へと発展したとのこと。

代々続く料理旅館であることから、鱗楼の後継者はみな料理の修行をしており、千晶さんの父(4代目)は名古屋で、弟は福岡で、それぞれ修行の経験があります。母はというとNHKの「きょうの料理」で助手を務めた経歴の持ち主。もちろん千晶さん自身も辻調理師専門学校で2年学んだ食のエキスパートです。

鱗楼外観今昔

左の写真が創業当時の鱗楼で、右の写真が現在の姿。「鱗楼」の名前は鮮魚店からきているのではないか、とのことです。

 

食事に手間を惜しまない姿勢がリピーターを生む

代々料理人の家系で舌が鍛えられている尾杉さん一家。地元の新鮮な食材を使用するために、魚は1時間かけて市場まで選びに行き、豚肉も阿波市のブランド豚を買いに車を走らせるなど食材選びに手間を厭いません。味付けに関しても市販の調味料を使うのではなく、自分の納得する味を求めて、ポン酢からカレースパイスの配合まで、全て千晶さん自身が調合しています。

宿の食事は和食がメインで、素材を生かしたシンプルで丁寧な味付け、いわゆる「引き算の料理」を心がけているという千晶さん。ときには相手の年齢や顔色を見ながら、道中の別の宿と味が重複しないように、カレーや餃子、イタリアンなど和食以外の品をお出しすることもあるとか。

そんな配慮の数々を聞くと、千晶さんが「うちの料理を気に入ってお越し下さるリピーターさんが多いです」というのも納得です。

鱗楼 レモンシロップとシフォンケーキ

訪問時に出してくれた手作りのシフォンケーキと自家製レモネード。レモンには疲労回復に効果のあるクエン酸が含まれているので、旅人へのウェルカムドリンクにしているそう(梅の時期は梅ジュースになる)。

 

手作りの誕生日ケーキが夫婦を感動させたお話

そんな食へのこだわりぶりが生んだエピソードあります。

ある日、遍路途中の夫婦から予約の電話があり「その日は夫の誕生日なのでケーキを用意してほしい」との要望があったそうです。千晶さんは、市販のものではなく自ら焼いた15センチのケーキを準備し、食事の際にお出ししたところ、奥様の方がなかなか手をつけない。どうしたのかな?と思ったら、「もったいなくて食べられない」と泣いていたそうです。

市販のものを食べない・使わない千晶さんにとって「当たり前」だったその行為は、ご夫婦を感動させるには十分でした。その後、夫婦は大切にケーキを食べ、後日ふたたび、旅の道程でないにもかかわらず鱗楼に泊まりに来てくれたそうです。

他にも、四国遍路途中に鱗楼に泊まった外国人が、その後日本全国を一周し、旅の終わりに「ここが一番良かった」と再び来てくれたことがあるとか。何が良かったのかわからない、と千晶さんはいいますが、言葉の端々に垣間見える徹底したこだわりが泊まる人を惹きつけるのだと思いました。

鱗楼ブログ写真抜粋

鱗楼ブログには千晶さんの手によるお菓子や料理、生け花などの写真が載っています。

 

 

【「料理旅館 鱗楼」 基礎情報】

名 称 料理旅館 鱗楼(うろころう)
宿の形態 旅館
住所 徳島県徳島市国府町中268−1

料理旅館「鱗楼」の詳細情報とご予約はこちらから↓
四国宿泊予約サイト「お遍路さん家」【料理旅館 鱗楼】

 

今回お話を聞いて、とにかく感じたのは料理に対する真摯な姿勢。「鱗楼は施設が古い分、料理でもてなします!(笑)」と小気味好く言い切る千晶さんのお話に元気をいただきました。他にもアメリカ留学経験など面白いエピソードをたくさん聞いたので、お泊りの際に機会があればお話ししてみてくださいね。

 

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廣瀬美音子

札幌で生まれ育ち、東京にて都市計画コンサルタントに従事。結婚を機に香川に移住し、地方自治体勤務などを経て、2019年から株式会社四国遍路(https://shikokuhenro.co.jp/)に入社。お遍路文化を通じた新しい四国の楽しみ方を模索しています。日本酒とワインが好き。