愛知県大府市にある知多四国霊場88番札所円通寺は、知多四国霊場巡礼満願の寺院であると同時に次への始まりの寺院でもあります。お遍路さんもご利益にあやかりたい烏枢沙摩明王と馬頭観音にご縁があります。
満願の知多四国霊場88番札所円通寺の本堂再建
愛知県知多半島の北中部の丘陵地帯で、田畑が多く農作物の生産が盛んで、西部を伊勢湾岸自動車道が南北に走る大府市(おおぶし)に、知多四国霊場88番札所円通寺(えんつうじ)があります。
奈良時代の天平元年(729年)に、都から派遣された「行基(ぎょうき)」が、草ぶきの家に手彫りの馬頭観音と准胝観音(じゅんでいかんのん)を安置したのが円通寺のはじまりと伝わっています。その後、平安時代の「天慶(てんぎょう)の乱(939年)」と、鎌倉時代末期の「建武(けんむ)の乱(1333年)」の戦乱に巻き込まれ、堂塔を焼失しました。室町時代に入り、貞和4年(1348年)に臨済宗の高僧・夢窓国師(むそうこくし)が円通寺の惨状をみて中興しました。
荒廃や復興を繰り返したため、宗派も様々にかわり、現在は曹洞宗の寺院です。山号の瑞木山(ずいぼくざん)の由来は、円通寺が現在建っている場所一帯の山をさしているといわれています。
令和5年(2023年)に現在の本堂が再建され、現時点では知多四国霊場の札所の中でもっとも新しい本堂です。寺院建築ならではの伝統的な技法が施されたお堂ですので、参拝の際はぜひ細部までご覧になってみてください。
円通寺の御本尊は馬頭観音と子安准胝観音の2体で、複数の御本尊があるのは非常に珍しいケースです。1300年以上前に行基が手彫りした仏像が今ものこっているとされ、貴重なものです。
馬頭観音は149・4cm、子安准胝観音は141・6cmと大きいのが特徴です。奈良時代や平安時代の仏像は、大きくて立派なものが多いです。時代が新しくなるにつれて小さくなる傾向がありますが、これは、寺院に巻き込まれることが増え、そのような緊急事態の際に持ち運びしやすいようにしたというのが理由のひとつです。
現在円通寺がある一帯は、江戸時代頃までは近くまで遠浅の海が広がり、船着場からは北の熱田神宮まで渡し舟があったと伝わっています。周辺は川が多く、陸上の移動は不便だったでしょうから、船での移動が日常の交通手段であったことがうかがえます。
お遍路さんもご利益にあやかりたい烏枢沙摩明王と満願の寺院の意味と役割
円通寺は、烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)とのご縁があることで知られています。全ての不浄を消し去る神様で「トイレの神様」とも呼ばれますが、円通寺の烏枢沙摩明王は、さらにいつまでも腰から下が元気で誰の支えも受けず健康で過ごせるご利益があるとされています。
これは、知多四国霊場88番札所=最後の札所=しもの札所で「しも弘法」や、寺号に通寺と入っていることから「つうじの神様」などということからのご縁という説もあります。
毎年10月29日は烏枢沙摩明王の縁日で法要が開催されています。
お遍路さんが巡礼するために足腰が丈夫であることは重要なので、円通寺の烏枢沙摩明王のご利益はたいへんありがたいものです。私も円通寺の烏枢沙摩明王の御札を拝受し、誰にも負けない腰から下を目指して、お遍路を頑張っています。
四国をはじめとした八十八ヶ所霊場巡礼の場合、札所の順番通り進むと、1番札所から最後の88番札所までで満願(結願)しますが、知多四国霊場88番札所円通寺では、満願の証明書などは発行していません。
これは知多四国霊場の特徴的なところで、どのお寺からでも、どのような巡拝の仕方でも気軽に参拝してほしいとスタイルが、他の八十八ヶ所巡礼に比べて浸透しているからだと思います。そう考えると、知多四国霊場の札所はすべてがスタートであり、すべてが満願の札所になりうるのです。
また、満願したからといって終わりではありません。何度も繰り返し巡拝し、功徳を積み重ねてもらいたいという考え方で、さらにつきつめれば、巡礼は特別なことではなく、日常生活の一部として、何回でも何回でも人を訪れ気兼ねなくお参りしてほしいという札所の想いもあります。
さらに知多四国霊場の札所の配置による事情もあります。札所番号順に巡拝をしている人でも、86番札所観音寺→5番札所地蔵寺→88番札所円通寺→87番札所長寿寺の順番にお参りする人が多いです。番号順に進むよりも、この順番で参拝した方が距離的効率が良いのです。知多四国霊場では、札所番号順に巡拝しようとすると、長距離移動をして元の場所に帰って来なければいけないことや、狭い範囲に札所が密集していて番号順に並んでいなかったりするので、札所番号は気にしすぎない方が巡拝しやすい事情があります。
また、88番札所円通寺と1番札所曹源寺は両方とも知多半島北部にあり、距離が近いので、88番札所を参拝したあとにすぐに1番札所に行きやすい配置で、自然と知多半島を右回りにぐるぐる円で循環するようになっていて、いつまでも終わりはありません。
※1番札所曹源寺に関しては、以下リンクの記事でご紹介しています。
【知多四国霊場1番札所曹源寺】昔から知多半島の入口の重要拠点だった巡礼スタートの寺院
馬頭観音とJRA中京競馬場とのつながり
円通寺の入口には、お地蔵様が目印の知多四国霊場の石柱があります。この石柱は、昭和50年(1975年)に名古屋競馬株式会社(中京競馬場)と中京馬主協会の協力で建立されました。また、愛知県豊明市にあるJRA中京競馬場の敷地内一角に小さなお堂があり、黄金の馬頭観音様が祀られていて、円通寺住職が年に何回か出かけて法要をしています。
これらの取り組みは、御本尊の馬頭観音と競馬の馬との関連性から生まれました。馬頭観音は、煩悩や不安を取り除いてくれるご利益があるとされていますので、中京競馬場にあるお堂には、馬の健康祈願のために競馬関係者がお参りされたり、必勝祈願をする競馬ファンもたくさん見かけ、開運スポットにもなっております。円通寺にも競馬ファンが石柱目当てに訪れたり、何か物事を決断するときの不安を振り払うために参拝する人がみられます。
円通寺は、知多四国霊場88番札所で満願の寺院ではありますが、お遍路巡礼に終わりはなく、参拝後はまた次の札所に足を運んでいただきたいです。烏枢沙摩明王や馬頭観音にあやかり、いつまでも強い足腰で健康に安全にお遍路巡礼を続けていきたいものです。
【「知多四国霊場88番札所円通寺」 地図】