参拝前の準備が完了したら、いよいよお経を唱えます。まずは御本尊さまが祀られている本堂で勤行を行います。四国八十八ヶ所霊場巡礼での標準的な勤行の内容を詳細に解説します。
—– 記事に登場する主な地名・単語
読経(どっきょう)
納経(のうきょう)
読誦(どくじゅ)
本堂(ほんどう)
金堂(こんどう)
大師堂(だいしどう)
本堂で納経
四国八十八ヶ所霊場の札所には、その寺院の御本尊がまつられている「本堂」(「金堂」と表現する寺院もあります)と、弘法大師がまつられている「大師堂」が必ず存在します。
【遍路参拝作法その4】灯明・線香の作法と【遍路参拝作法その5】納札・賽銭の作法でご紹介した参拝前の準備は、本堂と大師堂のそれぞれのお堂で行います。
まずは本堂で参拝前準備を済ませ、御本尊に向かってお経を唱えます。
読経の意味
お経を唱えることを "読経" と言い、 "どっきょう" と読みます。
寺院でお経を読むこと、すなわちお経を奉納する。これを納経(のうきょう) と呼びます。
本来納経とは経典を記した書(しょ) を納めることであり、現代では事前に書いた写経を納めることが、それに当たります。
しかしながら、四国遍路をはじめ各地の巡礼では、お経を読誦(どくじゅ)することで、納経したことと認められています。
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読経の省略
以下に四国八十八ヶ所霊場巡礼の標準的な読経の作法をすべて記しますが、すべてのお経を唱えるのは特にお遍路初心者さんにとっては、うまく唱えられなかったり、長時間を要するなど難易度が高いかもしれません。
作法の形式よりもまずはお参りに対する"気持ち"が大切なので、読経が難しいと感じる場合は、仏様やお寺に対する敬意や、他の参拝者に対する配慮を意識しながら、まずはお堂の前で手を合わせるだけからでもできるところから始めてみてください。
以下の全読経の説明のあとの補足で、簡易的な読経の作法も紹介していますので、読経を省略される場合は参考にしてみてください。
読経の順序
数珠を3回擦って
↓
合掌
↓
【開経偈(かいぎょうげ)】 3回唱える
無上甚深微妙法(むじょうじんじんみみょうほう)
百千万劫難遭遇(ひゃくせんまんごうなんそうぐう)
我今見聞得受持(がこんけんもんとくじゅじ)
願解如来真実義(がんげにょらいしんじつぎ)
↓
【懺悔文(ざんげもん)】 1回唱える
我昔所造諸悪業(がしゃくしょぞうしょあくごう)
皆由無始貪瞋癡(かいゆうむしとんじんち)
従身語意之所生(じゅうしんごいししょしょう)
一切我今皆懺悔(いっさいがこんかいさんげ)
↓
【三帰(さんき)】 3回唱える
弟子某甲(でしむこう)
盡未来際(じんみらいさい)
帰依仏(きえぶつ)
帰依法(きえほう)
帰依僧(きえそう)
↓
【三竟(さんきょう)】 3回唱える
弟子某甲 (でしむこう)
盡未来際 (じんみらいさい)
帰依仏竟 (きえぶっきょう)
帰依法竟 (きえほうきょう)
帰依僧竟 (きえそうきょう)
↓
【十善戒(じゅうぜんかい)】 3回唱える
不殺生(ふせっしょう)
不偸盗(ふちゅうとう)
不邪淫(ふじゃいん)
不妄語(ふもうご)
不綺語(ふきご)
不悪口(ふあっく)
不両舌(ふりょうぜつ)
不慳貪(ふけんどん)
不瞋恚(ふしんに)
不邪見(ふじゃけん)
↓
【発菩提心真言(ほつぼだいしんしんごん)】 3回唱える
おん ぼうじ しった ぼだはだやみ
↓
【三摩耶戒真言(さんまやかいしんごん)】 3回唱える
おん さんまや さとばん
↓
【般若心経(はんにゃしんぎょう)】 1回唱える
仏説摩訶般若波羅蜜多心経(ぶっせつまかはんにゃはらみたしんぎょう)
観自在菩薩(かんじざいぼさ)
行深般若波羅蜜多時(ぎょうじんはんにゃはらみたじ)
照見五蘊皆空(しょうけんごうんかいくう)
度一切苦厄(どいっさいくやく)
舎利子(しゃりし )
色不異空(しきふいくう)
空不異色(くうふいしき)
色即是空(しきそくぜくう)
空即是色(くうそくぜしき)
受想行識(じゅそうぎょうしき)
亦復如是(やくぶにょぜ)
舎利子(しゃりし)
是諸法空相(ぜしょほうくうそう)
不生不滅不垢不浄(ふしょうふめつふくふじょう)
不増不減(ふぞうふげん)
是故空中(ぜこくうちゅう)
無色無受想行識(むしきむじゅそうぎょうしき)
無眼耳鼻舌身意(むげんにびぜっしんに)
無色声香味触法(むしきしょうこうみそくほう)
無眼界乃至無意識界(むげんかいないしむいしきかい)
無無明亦無無明尽(むむみょうやくむむみょうじん)
乃至無老死(ないしむろうし)
亦無老死尽(やくむろうしじん)
無苦集滅道(むくしゅうめつどう)
無智亦無得(むちやくむとく)
以無所得故菩提薩捶(いむしょとくこぼだいさった)
依般若波羅蜜多故(えはんにゃはらみったこ)
心無罫凝(しんむけいげ)
無罫凝故(むけいげこ)
無有恐怖(むうくふ)
遠離一切顛倒夢想(おんりいっさいてんどうむそう)
究境涅槃(くぎょうねはん)
三世諸仏(さんぜしょぶつ)
依般若波羅蜜多故(えはんにゃはらみたこ)
得阿辱多羅三貌三菩提(とくあのくたらさんみゃくさんぼだい)
故知般若波羅蜜多(こちはんにゃはらみた)
是大神呪(ぜだいじんしゅ)
是大明呪(ぜだいみょうしゅ)
是無上呪(ぜむじょうしゅ)
是無等々呪(ぜむとうどうしゅ)
能除一切苦(のうじょいっさいく)
真実不虚(しんじつふこ)
故説般若波羅蜜多呪(こせつはんにゃはらみたしゅ)
即説呪曰(そくせつしゅうわつ)
羯諦羯諦(ぎゃていぎゃてい)
波羅羯諦(はらぎゃてい)
波羅僧羯諦(はらそぎゃてい)
菩提薩婆訶(ぼじそわか)
般若心経(はんにゃしんぎょう)
↓
【本尊真言(ほんぞんしんごん)】 ※各寺の御本尊の真言を3回唱える
[不動明王]のうまくさんまんだ ばざらだん せんだまかろしゃだ そわたや うんたらた かんまん
[釈迦如来]のうまくさんまんだ ぼだなん ばく
[文殊菩薩]おん あらはしゃのう
[普賢菩薩]おん さんまや さとばん
[地蔵菩薩]おん かかかび さんまえい そわか
[弥勒菩薩]おん まいたれいや そわか
[薬師如来]おん ころころ せんだりまとうぎ そわか
[観世音菩薩]おん あろりきゃ そわか
[勢至菩薩]おん さんざんさく そわか
[阿弥陀如来]おん あみりや ていぜい からうん
[阿閦如来]おん あきしゅびや うん
[大日如来]おん あびらうんけん ばざらたどばん
[虚空蔵菩薩]のうぼう あきゃしゃ きゃらばや おんありきゃ まりぼり そわか
[千手観世音菩薩]おん ばさら たらま きりく
[聖観世音菩薩]おん あろりきゃ そわか
[馬頭観世音菩薩]おん あみりと どはんば うん はった そわか
[十一面観世音菩薩]おん まか きゃろにきゃ そわか
[大通智勝佛]おん まか びじゃな じゃなのう びいぶう そわか
[毘沙門天]おん べいしら まんだや そわか
[金毘羅大権現]おん くびらや そわか
[西照大権現]なむ にしてる だいごんげん
↓
【光明真言(こうみょうしんごん)】 3回唱える
おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら
まに はんどま じんばら はらはりたや うん
↓
【大師宝号(だいしほうごう)】 3回唱える
南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)
↓
【回向文(えこうもん)】 1回唱える
願(ねが)わくは この功徳(くどく)を以(も)って 普(あまね)く一切(いっさい)に及(およ)ぼし
我等(われら)と衆生(しゅじょう)と皆共(みなとも)に 仏道(ぶつどう)を成(じょう)ぜん
↓
祈願(お願い事)
↓
数珠を3回擦って
↓
合掌
これら一連の動作を、本堂・大師堂の二箇所で行います。
※大師堂では本尊真言は唱えません。
補足
それぞれのお経を読む回数は、厳密に決まっているわけではありません。
場合によっては省略できるところもあります。
参考までに、私が巡拝する際は
●一日で一番最初の読経
●一日で一番最後の読経
のみ、上記全てのお経を唱え、途中訪れる寺院での参拝は、開経偈を3回→1回、三帰から三摩耶戒真言の間は省略します。
特にお遍路初心者さんで全てのお経を唱えるのが難しい場合は、本堂で各寺の御本尊の本尊真言、大師堂で弘法大師空海の大師宝号だけでも唱えてみるのもよいと思います。
四国八十八ヶ所霊場を巡礼する人の中には、願い事があってお参りに出る、という人が多いと思います。仏様に願い事をするタイミングとしては、一通りお経の読誦を終えたところで念じられるのがよいと思います。
お経の中にはこれまでの至らない点を懺悔する文言や、前向きな姿勢を示す一節があるからです。
四国遍路の参拝における数珠の使用について、百八玉・二十玉など、宗派を問わず全ての数珠を使うことができるとされているので、四国遍路用に新調せずとも、普段お使いの数珠や、思い入れのある数珠を使われるとよいでしょう。
※ 参拝の手順や解釈について、一般的な見解に基づき紹介しています。他にも様々な方法や解釈があることをご留意ください。
【遍路参拝作法その6】読経の作法に関しては、以下の動画もご参考ください。
※遍路参拝作法の次の手順に関しては、以下リンクの記事に続きます。
※すべての遍路参拝作法のまとめと動画出演者の情報は、以下リンクの記事に掲載しています。
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