37番岩本寺から38番金剛福寺までの、移動距離およそ80キロを超える道中に、お遍路さんに評判の温泉宿があります。スタッフが爽やかな笑顔と心遣いで迎えてくれる「土佐佐賀温泉こぶしのさと」の紹介です。
2010年にリニューアルオープンした黒潮町の温泉宿
お遍路さんが泊まる宿の歴史やオーナーの思いについてインタビューする遍路宿紹介シリーズ。今回は、高知県高岡郡黒潮町にある「土佐佐賀温泉こぶしのさと」を訪れました。
2010年にリニューアルオープンした「土佐佐賀温泉こぶしのさと」は、2020年で10周年を迎える温泉宿。37番札所岩本寺から約11キロ、遍路道の国道56号線沿いにあり、高速道路のインターが目の前と車のアクセスも良好です。
お話をおききしたのは、2012年から支配人をされている安原さん。リピーターの多い宿の魅力について迫ります。

支配人の安原さん(中央)とスタッフ。
釣りが趣味の支配人は地元が恋しくてUターンした経歴の持ち主
安原さんは、旧中村市(現在の四万十市)のご出身。四万十川河口部の渡し舟「下田の渡」近くに住んでいたため、小さい頃からお遍路さんは身近な存在だったそうです。趣味の釣りをしながら、渡し舟待ちのお遍路さんとおしゃべりすることも多かったとか。
そんな安原さんは、高校卒業後、高知を出て兵庫県で就職しましたが、帰省のたびに田舎が恋しくなり4年後にUターン。高知県内の温泉ホテルに勤めた後「こぶしのさと」リニューアル時にスタッフとなり、その後支配人に就任されました。

「こぶしのさと」のすぐ裏を流れている伊与木川(大雨後につき川岸は荒れています)。ここにカゴを入れたら「ツガニ(上海蟹と同種)」が獲れると安原さん。
お遍路さんへのさりげない心遣いがリピーターをつくる
続いて、宿泊されるお遍路さんについてもお聞きしました。
安原さん「お遍路さんには年間700〜800人ほど泊まっていただいています。特別なことはしていませんが、雨が降っていたらタオルをお渡ししたり、足摺岬(38番札所金剛福寺)までの行き方や宿の紹介などをしたりします。シューズドライヤーを用意してしていますが、それが結構好評ですね。宿を気に入っていただくことも多く、毎年来られる人もいらっしゃいます。」
「リピーターさんに対してはお名前で呼ぶなど、できるだけフランクな対応を心がけています。何度も来ていただいているのに、ずっとヨソヨソしいのもつまらないと思うので。」

宿の周りに住み着いた猫とたわむれる安原さん。宿のスタッフでお世話をしており、この日はサッカー日本代表の服を着ていました。
「印象に残っているのは毎年来られるお客様で、80歳を超えていらっしゃるのに1日50キロを歩いて、なんと27日で八十八ヶ所&高野山まで打ち終えるのです。予約の時にも自ら『スーパーおじいちゃん』と名乗ってこられますね(笑)。他には、新入社員研修に『自転車遍路』を課している会社があって、そこの新人さんにご利用いただくのが毎年の風物詩のようになっています。」
−四国遍路の目的も様々、いろいろな人が宿を訪れているようですね。
「健康のためやレジャーのため、祈願のためなど、お遍路さんそれぞれ目指す目標は違いますが、どんな思いであっても、四国遍路をする人はすごいと思いますし、素晴らしいと思っています。」

こぶしのさとの前には「四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクト」のヘンロ小屋があり、野宿するお遍路さんもいます。
高知県内の旅館によるお遍路さん応援の取り組み「縁の会」
高知県内には旅館業者によって組織された「縁(えにし)の会」という”お遍路さん応援”の取り組みがあり、「こぶしのさと」も加盟施設の一つ。2016年に3つの宿から始まったこの活動は現在12施設が加入しており、遍路道ガイドのホームページ掲載や、共通宿泊券が当たる抽選会などを行っています。
お遍路さんの旅宿ガイド「縁の会」ホームページ https://henro-yado.jp
安原さん曰く、縁の会は会長などの役職がないフラットな組織で、年に2回の会合では宿泊されるお遍路さんへの対応や、おもてなしの工夫などを情報共有しているのだとか。かなり踏み込んだ内情の話もするそうですが、他県では「同業者の情報交換はありえない」と言われるとのこと。「高知では困っている人を助けるのが当たり前なので、普通に行っていました。」と安原さんは笑っていました。

縁の会のパンフレットには宿の紹介と地図が掲載されており、3箇所の宿からスタンプをもらうと共通宿泊券の抽選に応募できます。
【「土佐佐賀温泉 こぶしのさと」 基礎情報】
名 称 | 土佐佐賀温泉 こぶしのさと |
宿の形態 | 旅館 |
住所 | 高知県幡多郡黒潮町拳ノ川2161 |
「土佐佐賀温泉 こぶしのさと」の詳細情報とご予約はこちらから↓
四国宿泊予約サイト「お遍路さん家」【土佐佐賀温泉 こぶしのさと】
安原さんやスタッフから、明るく爽やかな印象が伝わってきた今回の取材。リピーターが多いのも納得でした。縁の会のお話からは、宿同士の情報交換が当たり前にできる高知の文化が垣間見れて、興味深かったです。温泉の泉質も好評なので、お遍路や黒潮町観光の拠点としてのご利用をおすすめします。